《完結》伯爵令嬢は怨霊になり、復讐を果たす。ーーしかし彼女を裏切った男は、怨霊よりも恐ろしい妻に出会う。

ぜらちん黒糖

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第五章

㉝伯爵の作戦

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「どうした?サンバル」
「旦那様!アレス様の様子がおかしいのです」
「アレスが?」

 サンバルは、先ほど、アレスの部屋を訪ねた時のことを伯爵に伝えた。

 執事の話をじっくりと聞いていた伯爵が、静かに聞き返す。

「では、アレスの部屋にマーガレットが潜んでいたというのか?」
「はい。しかも、私とアレス様の会話に、後ろから口出しをしている気配を感じました」
「ただ仲が良いだけではないのか?」
「いいえ、アレス様のあの表情は、誰かに脅されて言わされている、そのような態度でございました」

「アレスの奴はマーガレットに、何か弱みを握られているということか?」
「はい。そしてそれを種に脅されているのではないでしょうか?」
「脅されているだと?……あいつは一体、マーガレットに何をしたんだ?」

 サンバルが苦笑いしながら返事をした。
「男女のもつれとなれば、一つしかございません」

 伯爵は眉間にしわを寄せつぶやいた。
「あいつ、無理やりマーガレットを……」

「それもあるかもしれませんが、アレス様の表情には、恐怖が滲んで見えました」

「ふむ……仕方がない。アレスを助けてやるか……。それから、バルに早馬を出せ。すぐに屋敷へ来るようにと」

「かしこまりました」

 サンバルは、お辞儀をすると執務室を出て行った。

(アレスは、色仕掛けの罠にかかったようだな……)

(黒幕はバルか?……そして、これは違うとは思うが、マーガレット個人の仕業なのか?……)

(まずは、アレスからマーガレットを引き離し、直接、倅から事情を聞かねばな……)

「さて、どうやってマーガレットを引き離すか……」

 コンコン!

 ドアがノックされて使用人のメアリーが入ってきた。

「旦那様、お食事の用意ができましたので、食堂へお越しください」

「ああ、わかった。あ、待て!メアリー」

 扉を閉めて出て行こうとしたメアリーが立ち止まる。

「何でしょうか?旦那様」

「アレスはどうしてる?」

「食堂でお待ちです」

「マーガレットは?」

「アレス様の指示で食堂にいらっしゃいます。一緒に召し上がると言っておられます」

 しばらくの間、考え事をしていた伯爵がメアリーに話しかけた。
「お前に頼みたいことがある」と。

 そこへちょうど執事のサンバルが戻ってきた。


 ❖


 伯爵が食堂へ行くとアレスとマーガレットが並んで座っていた。

「待たせてすまなかった」伯爵は二人に声をかけ自分の席に座った。

「では食事を始めよう」

 その一言で各々食べ始める。伯爵はうかがうように視線だけ、マーガレットに向けて、黙々と食事を続けた。

(こうやって見ていると、マーガレットは大人しい普通の女性なんだが……)

「アレス、サンバ村はどうだった?良いところであったか?」

「そうですね、気候もよく自然に恵まれた、いい土地でした」

「ふふふ、そうか、ならばそこの領地をお前にやろう」

「え?」

「あ、あの、それはどういう意味でしょうか?」

「お前はその土地でマーガレットと一緒に暮らせば良い。結婚したいのだろう、マーガレットと?」

 すぐに返事のできないアレス。

「どうしたアレス?マーガレットと結婚するのではなかったのか?」

「父上、つまり私の妻としてマーガレットを認めるということですか?」

「もちろんだ、アレス」

 伯爵のその言葉を聞いて、マーガレットが笑みを浮かべた。たまらずアレスが伯爵に問いかける。

「父上、ではマーガレットは将来の伯爵夫人になるのですか?」

「え?」伯爵がアレスの言葉にびっくりしたような顔をした。

「伯爵夫人?それは……どういう意味だ?」

「いえ、ですから、私の妻になると言うことはつまり、伯爵夫人ということですよね?」

「まあ、お前が爵位継承者ならばそうなる。だが、爵位はお前には継承させない」

「え?」狼狽の色が見えるアレス。

「サンバル、メアリーを呼んでくれ」

「はい、旦那様」

 伯爵に指示をされたサンバルは出入り口の扉に向かって声をかけた。

「メアリー、入りなさい」

 するとメアリーが緊張した面持ちで入ってきた。

 伯爵は自分のそばに来るようにと手で合図をした。

 メアリーがそばに来ると伯爵が口を開いた。

「彼女は私の命の恩人の娘だ」

「そして彼女と結婚する者をウッド伯爵家の後継者とする。メアリーが伯爵夫人となる」

 呆然とするアレスとマーガレットを見ながら伯爵は言葉を続ける。

「後継者は我が一族から募集する。誰か一人ぐらいいるだろう。だからお前は気にせずマーガレットと結婚して片田舎で暮らすが良い」

 静まり返る食堂、その時、マーガレットが立ち上がった。

「ウッド伯爵様に申し上げます」
 伯爵は返事をしないでマーガレットを見つめた。

「今の話は、撤回していただきたく存じます」

「さもなければ私は王立裁判所に訴え出ます」

 執事のサンバルが冷たい声で聞き返した。

「マーガレット様、王立裁判所に何を訴えるというのですか?」

 マーガレットの表情が少しずつ変わってきた。

「アレス様に私は手篭めにされました。そう訴えます」

 サンバルが冷静に問い返す。
「証拠は?」

「三ヶ月後、私が妊娠していればそれが証拠になります」

「たとえ妊娠したとして、それがアレス様の子供だとどう証明するのですか?」

「子供が大きくなれば、だんだん父親に似てくるものです。いずれわかるはずです、誰が父親か」

 マーガレットの予想外の反撃に、伯爵は面食らっていた。

 しかしその時、サンバルが伯爵に耳打ちした。伯爵は頷くとアレスに向かって命令した。

「アレス、お前は地下牢に入って反省していろ!」

「な、父上!違うんです!私は決して……」

「黙れアレス!黙って地下牢へ行きなさい!」

 サンバルがアレスに近寄り、立ち上がるように促すと、そのまま二人は食堂を出て行った。

 マーガレットが静かに話し出す。

「伯爵様、では私も地下牢へまいります」

「いや、それには及ばん。君は部屋で待機していなさい」

「いいえ、私もアレス様と一緒に地下牢に入ります」そう言ってマーガレットは出口へ向かった。その彼女に伯爵が声をかけた。

「地下牢は冷える。お腹の子に何かあったらどうするんだ?マーガレット」

 振り返ったマーガレットの表情がその言葉で和らいでいた。

「お腹の子……」

「そうだ。地下牢は冷える。取り返しのつかないことになってからでは遅いであろう?」

 伯爵の思ってもみなかった優しい言葉に顔から険しさが消えた。

「分かりました。では部屋で待機させていただきます」

 マーガレットはお辞儀をしてそのまま食堂を出て行った。






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