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第五章
㊱マーガレットの逃亡
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ウッド伯爵、アレス、サンバルの三人が、マーガレットの部屋の前に立っていた。
三人が目配せをするとサンバルがドアをノックした。
「マーガレット様!マーガレット様、お話があります!」
ドアノブを回すサンバル。鍵はかかっている。さらにドアを叩くサンバル。しかし、中からは応答はない。
伯爵は決断を下す。
「かまわん、ドアをぶち破れ!」
「はい、旦那様」
そう言うとサンバルは後ろに一歩下がり思い切りドアに体当たりをした。
大きな音とともにドアが開くと三人はゆっくりと中へ入る。だが部屋の中にはマーガレットはいなかった。
窓のカーテンが揺れているのが目に入る。そしてベッドにはシーツが剥がされていた。
マーガレットはシーツを結んで下に降りて姿を消していた。一応部屋の中を確認したが婚姻届はなく、マーガレットの荷物もなかった。
「旦那様、マーガレット様は明日の朝一番に、王立庁舎へ婚姻届を出しに行くと思われます」
「ああ、届けをさせないように見張るしかないな」と伯爵は疲れたように呟いた。
その時、玄関のドアノッカーが鳴り響いた。すぐに玄関に向かう三人。
行ってみるとメアリーが応対に出ていた。来訪者はバルだった。
おどおどしながら困惑の表情で現れたバル。
「あ、あの、大至急、来るようにという連絡を受け、早馬でまいりました」
伯爵の目尻が怒りで小刻みに動いていた。
「サンバル、そいつを執務室へ連れてこい」そう言ってさっさと歩いて行った。
伯爵の温厚なイメージしかないバルは、思わず緊張で手の指が震えていた。そんなバルにサンバルが声をかける。
「バル様、お聞きの通りです。私についてきてください」
サンバルの言葉に素直に頷いて歩きだすバル。
アレスは今すぐにでもマーガレットのことについて聞きたかったが、そのような雰囲気ではなかったのでやめた。
執務室に入ると伯爵は机の前に座りバルを睨んでいた。
サンバルの指示で伯爵の目の前に立たされたバルが口を開く。
「あの、大至急のご用件とは…どのようなことでしょうか?」
伯爵が怒鳴りそうな雰囲気になったので慌ててサンバルが口を開く。
「バル様、なぜ呼ばれたのかまだ分かりませんか?」
「……もしかして、マーガレットのことでしょうか?」
我慢しきれずに伯爵が怒鳴る。
「マーガレットはどこだ!どこに隠れている!」
「へ?」バルが訳の分からないという顔で口を開く。
「マーガレットが何かをやったんでしょうか?あの、まずは説明をしていただけませんか?今何が起こっているのか……」
サンバルが説明を始める。
「マーガレット様は、アレス様をたぶらかし、婚姻届を書かせたあげく、現在 その婚姻届を持って逃亡中です」
「え?ええっ!」
それまで黙っていたアレスがバルを問い詰め始める。
「バル、教えてくれないか?お前はマーガレットとグルなのか?」
「まさか、私はただマーガレットに頼まれただけです」
「何をだ?」
「今度視察に来られるアレス様のお世話係に、私を指名して欲しい、と頼まれたんです」
「それでお前は、頼みを聞いてやったわけか?見返りもなく?」
「あ……あの…金貨を一枚もらいました」
サンバルが不審者を見つめるような目で問いただす。
「伯爵家嫡男のアレス様に近づくための報酬がたったの金貨一枚?」
「あ…す、すみません、金貨三枚の間違いでした、はは」
笑ってごまかそうとしたバルだったが無駄だった。ため息をついて話し出すバル。
「マーガレットに金貨三枚で頼まれました。アレス様とお近づきになりたいから視察に来られた時、私にお世話係をさせてくださいと、頭を下げられたんです」
「だけど、私は最初断ったんですよ?本当です。だけどマーガレットが、どうしてもと頼み込むので、それに彼女は真面目で仕事のできる女性でした」
「だから アレス様のためにもいいかなと思って……」
ムッとしたアレスが口を挟む。
「おいバル、どうして俺のためにもいいと思ったんだよ!」
「それは……マーガレットが亡くなられたアレス様の姉上に似ていたからです」
「……」言葉に詰まって黙るアレス。
「それでバル様、どうして帰りの馬車の御者をマーガレットに任せたのですか?」サンバルが問い詰める。
「任せたんじゃありません。マーガレットがいつの間にか、すり替わっていたんです。私が気がついたのは、アレス様を見送った後、マーガレットがいないのに気がついた時です」
「ではアレス様が到着した時の御者は、どこに行ったんですか?」
「あ~、そいつは今、宿泊施設に滞在中です。一週間ぐらい泊まる予定だと言ってました。どうやら、マーガレットから金貨を何枚か受け取り交代したようです」
「旦那様、今回の件はマーガレット様の単独の仕業ということになりますね」
伯爵が口を開く。少し、怒りが収まったような口ぶりになる。
「そのようだな、ところでバル、マーガレットの素性を教えてくれないか」
「マーガレットは、孤児院育ちです。まだ赤子の頃に孤児院の前に捨てられていたそうです」
「マーガレットはその後元気に育ち、やがて王立学校に初等部から入学することになります」
アレスは心の中で驚く。孤児院から入れるのは、よほど優秀でなければ入れないのを知っていたからだ。
バルの話は続く。
「マーガレットはその後、高等部を卒業し、我がサンバ村の宿泊施設に就職しました」
マーガレットの身の上話を聞いた伯爵は感想を述べる。
「マーガレットには貴族への憧れがあったのかもしれない。伯爵夫人になりたかったのかもしれない。そして自分がもしなれないのなら、嫡男のアレスを平民に突き落としてやろう…と思ったのかもしれんな」
翌朝からウッド伯爵家の手の者が、王立庁舎の受付の前で見張りを続けた。だが、三日経ち、一週間経ち、一ヶ月経ってもマーガレットは現れなかった。
一ヶ月半ばが過ぎた頃、アレスは執務室に呼び出された。部屋に入ると父のウッド伯爵と執事のサンバル、そして使用人のメアリーがいた。
三人が目配せをするとサンバルがドアをノックした。
「マーガレット様!マーガレット様、お話があります!」
ドアノブを回すサンバル。鍵はかかっている。さらにドアを叩くサンバル。しかし、中からは応答はない。
伯爵は決断を下す。
「かまわん、ドアをぶち破れ!」
「はい、旦那様」
そう言うとサンバルは後ろに一歩下がり思い切りドアに体当たりをした。
大きな音とともにドアが開くと三人はゆっくりと中へ入る。だが部屋の中にはマーガレットはいなかった。
窓のカーテンが揺れているのが目に入る。そしてベッドにはシーツが剥がされていた。
マーガレットはシーツを結んで下に降りて姿を消していた。一応部屋の中を確認したが婚姻届はなく、マーガレットの荷物もなかった。
「旦那様、マーガレット様は明日の朝一番に、王立庁舎へ婚姻届を出しに行くと思われます」
「ああ、届けをさせないように見張るしかないな」と伯爵は疲れたように呟いた。
その時、玄関のドアノッカーが鳴り響いた。すぐに玄関に向かう三人。
行ってみるとメアリーが応対に出ていた。来訪者はバルだった。
おどおどしながら困惑の表情で現れたバル。
「あ、あの、大至急、来るようにという連絡を受け、早馬でまいりました」
伯爵の目尻が怒りで小刻みに動いていた。
「サンバル、そいつを執務室へ連れてこい」そう言ってさっさと歩いて行った。
伯爵の温厚なイメージしかないバルは、思わず緊張で手の指が震えていた。そんなバルにサンバルが声をかける。
「バル様、お聞きの通りです。私についてきてください」
サンバルの言葉に素直に頷いて歩きだすバル。
アレスは今すぐにでもマーガレットのことについて聞きたかったが、そのような雰囲気ではなかったのでやめた。
執務室に入ると伯爵は机の前に座りバルを睨んでいた。
サンバルの指示で伯爵の目の前に立たされたバルが口を開く。
「あの、大至急のご用件とは…どのようなことでしょうか?」
伯爵が怒鳴りそうな雰囲気になったので慌ててサンバルが口を開く。
「バル様、なぜ呼ばれたのかまだ分かりませんか?」
「……もしかして、マーガレットのことでしょうか?」
我慢しきれずに伯爵が怒鳴る。
「マーガレットはどこだ!どこに隠れている!」
「へ?」バルが訳の分からないという顔で口を開く。
「マーガレットが何かをやったんでしょうか?あの、まずは説明をしていただけませんか?今何が起こっているのか……」
サンバルが説明を始める。
「マーガレット様は、アレス様をたぶらかし、婚姻届を書かせたあげく、現在 その婚姻届を持って逃亡中です」
「え?ええっ!」
それまで黙っていたアレスがバルを問い詰め始める。
「バル、教えてくれないか?お前はマーガレットとグルなのか?」
「まさか、私はただマーガレットに頼まれただけです」
「何をだ?」
「今度視察に来られるアレス様のお世話係に、私を指名して欲しい、と頼まれたんです」
「それでお前は、頼みを聞いてやったわけか?見返りもなく?」
「あ……あの…金貨を一枚もらいました」
サンバルが不審者を見つめるような目で問いただす。
「伯爵家嫡男のアレス様に近づくための報酬がたったの金貨一枚?」
「あ…す、すみません、金貨三枚の間違いでした、はは」
笑ってごまかそうとしたバルだったが無駄だった。ため息をついて話し出すバル。
「マーガレットに金貨三枚で頼まれました。アレス様とお近づきになりたいから視察に来られた時、私にお世話係をさせてくださいと、頭を下げられたんです」
「だけど、私は最初断ったんですよ?本当です。だけどマーガレットが、どうしてもと頼み込むので、それに彼女は真面目で仕事のできる女性でした」
「だから アレス様のためにもいいかなと思って……」
ムッとしたアレスが口を挟む。
「おいバル、どうして俺のためにもいいと思ったんだよ!」
「それは……マーガレットが亡くなられたアレス様の姉上に似ていたからです」
「……」言葉に詰まって黙るアレス。
「それでバル様、どうして帰りの馬車の御者をマーガレットに任せたのですか?」サンバルが問い詰める。
「任せたんじゃありません。マーガレットがいつの間にか、すり替わっていたんです。私が気がついたのは、アレス様を見送った後、マーガレットがいないのに気がついた時です」
「ではアレス様が到着した時の御者は、どこに行ったんですか?」
「あ~、そいつは今、宿泊施設に滞在中です。一週間ぐらい泊まる予定だと言ってました。どうやら、マーガレットから金貨を何枚か受け取り交代したようです」
「旦那様、今回の件はマーガレット様の単独の仕業ということになりますね」
伯爵が口を開く。少し、怒りが収まったような口ぶりになる。
「そのようだな、ところでバル、マーガレットの素性を教えてくれないか」
「マーガレットは、孤児院育ちです。まだ赤子の頃に孤児院の前に捨てられていたそうです」
「マーガレットはその後元気に育ち、やがて王立学校に初等部から入学することになります」
アレスは心の中で驚く。孤児院から入れるのは、よほど優秀でなければ入れないのを知っていたからだ。
バルの話は続く。
「マーガレットはその後、高等部を卒業し、我がサンバ村の宿泊施設に就職しました」
マーガレットの身の上話を聞いた伯爵は感想を述べる。
「マーガレットには貴族への憧れがあったのかもしれない。伯爵夫人になりたかったのかもしれない。そして自分がもしなれないのなら、嫡男のアレスを平民に突き落としてやろう…と思ったのかもしれんな」
翌朝からウッド伯爵家の手の者が、王立庁舎の受付の前で見張りを続けた。だが、三日経ち、一週間経ち、一ヶ月経ってもマーガレットは現れなかった。
一ヶ月半ばが過ぎた頃、アレスは執務室に呼び出された。部屋に入ると父のウッド伯爵と執事のサンバル、そして使用人のメアリーがいた。
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