42 / 50
第七章
㊷大魔境ホテル
しおりを挟む
アレスが呆然と窓から外を眺めていると、メアリーが声をかけてきた。
「あ、あの、レス君…」
「ん?なんだいメリー」
一緒にいる時は、すぐにレス君、メリーと呼び合うほど親しくなった二人。メアリーは困惑した表情でアレスを見つめていた。
「どうして今頃、新婚旅行なんでしょうか?」
アレスには父上の思惑が分かっていた。
「おそらく私たちは、真の夫婦になるか、ならないかを試されているんだと思う」
「真の夫婦?」
「ああ、私と君の結婚は、マーガレットが婚姻届を出さないための予防的処置だった」
「……」
「だがこのままの仮面夫婦でいいはずはないだろう?メリー、君はまだ若い。なのにこのまま、仮の夫婦のままで年を取るのは忍びない、一緒に暮らしていくなら、真の夫婦として暮らしていく方がいいだろう?」
アレスは優しくメアリーを見つめて話しかけた。
「父上はそう思われたんだと思う」
しかしまだ、メアリーは腑に落ちないようだった。
「あのう、それが、この新婚旅行で解決するんでしょうか?」
アレスは複雑な笑みを浮かべて答える。
「今から行くシルビア宿泊施設は、別名『大魔境ホテル』と呼ばれている」
「大魔境ホテル……」
「そこに宿泊した新婚夫婦は、必ず、魔界か霊界に誘い込まれ、夫婦の絆を試されるんだ」
「え?それでもし、不合格と言うか、ダメだと判断されたらどうなるんですか?」
「離婚することになる」
「離婚……」
「まぁ、私たちの場合は愛し合って結婚したわけじゃないから、たとえ離婚と判定されても仕方がないのだがな……」
アレスのこの言葉を最後に、二人は無言になりそのまま馬車に揺られて大魔境ホテルへ向かった。
❖
外が薄暗くなりかけた頃、二人を乗せた馬車は、ようやくシルビア宿泊施設に到着した。
馬車は城門の前で止まり二人を下ろすとすぐに引き返し、走り去って行った。
城門の前に立つ二人が見た宿泊施設の光景は、まさに大魔境ホテルと呼ぶにふさわしい、断崖のそばにある大きな城だった。
「あ、アレス様、なんだか、ヴァンパイアでも出てきそうなお城ですね……」
レス君と呼ばれなかったアレスが返事をする。
「そう、だな…、私も初めて来たのだが、なんだか恐ろしい感じがする」
「このホテル……お客は来るんでしょうか?こんなに怖いのに」
「さ、さぁ、どうだろう…」
その時、ゆっくりと城門が開いて、中から燕尾服を着た大男が現れた。
「いらっしゃいませ、ようこそシルビア宿泊施設へ」
二人は手を取り合い、城の中へと入って行った。
❖
短髪でオールバック、そして黒のサングラスをかけた大男が振り返りもせず二人に話しかけてきた。
「私は案内人のデイビスと申します。アレス様とメアリー様でございますね?」
「ああ」
アレスが返事をすると、メアリーが小声で囁く。
「アレス様、どうして私たちの名前を知っているんでしょうか?」
「父上が前もって連絡を入れていたんだろう」
「あ、そうですよね」
デイビスは二階の部屋へ二人を案内すると「ウッド伯爵様には、お二人を大魔境にて試練を受けさせてくれと指示されております」
「それはいつから始まるんだ?」
「わかりません、私にも。この扉を開けた瞬間に始まるかもしれませんし、眠っているときに始まるかもしれません」
そう言って、部屋の扉を開けた。
「どうぞお入りください。夕食はお部屋にお持ちいたしますので。ではごゆっくりどうぞ」
二人が部屋に入るのを確かめるとデイビスは扉を閉めて戻って行った。
部屋にはシングルベッドが二つあり、ソファとテーブルが置いてあった。ランプとロウソクの炎が揺らめいている。
二人共上着を脱ぐと、メアリーはソファでくつろぎ、アレスはベッドに寝転んだ。
「レス君、疲れましたね」
「ああ、本当に疲れたよ」
「もうすぐ食事が届くが、先に風呂にでも入らないか?……メリー」
アレスは確かめるように『メリー』と呼んでみた。
「そうですね、では先にお入りください……レス君」
アレスの顔が明るくなる。『レス君』と呼ばれてホッとする。
「じゃあ、悪いがお先に失礼するよ?」
「はい、どうぞ、レス君」
アレスは洗面所で服を脱ぎ、鏡に映った自身の裸を眺めた。
「もう、マーガレットのキスマークは完全に消えたな」
浴室の扉を開けて、中へ入っていった。
メアリーは視線と耳を、お風呂場の方へ神経を集中させ、アレスがお風呂に入ったのを確かめると、ソファからゆっくりと立ち上がり窓の側に立ち、カーテンを開けて外を眺めた。
眼下には、深い闇が広がる谷底が続いていた。
「大魔境で、夫婦の絆が分かるですって?馬鹿らしい……」
窓ガラスには、冷たい表情のメアリーの顔が映っていた。
「あ、あの、レス君…」
「ん?なんだいメリー」
一緒にいる時は、すぐにレス君、メリーと呼び合うほど親しくなった二人。メアリーは困惑した表情でアレスを見つめていた。
「どうして今頃、新婚旅行なんでしょうか?」
アレスには父上の思惑が分かっていた。
「おそらく私たちは、真の夫婦になるか、ならないかを試されているんだと思う」
「真の夫婦?」
「ああ、私と君の結婚は、マーガレットが婚姻届を出さないための予防的処置だった」
「……」
「だがこのままの仮面夫婦でいいはずはないだろう?メリー、君はまだ若い。なのにこのまま、仮の夫婦のままで年を取るのは忍びない、一緒に暮らしていくなら、真の夫婦として暮らしていく方がいいだろう?」
アレスは優しくメアリーを見つめて話しかけた。
「父上はそう思われたんだと思う」
しかしまだ、メアリーは腑に落ちないようだった。
「あのう、それが、この新婚旅行で解決するんでしょうか?」
アレスは複雑な笑みを浮かべて答える。
「今から行くシルビア宿泊施設は、別名『大魔境ホテル』と呼ばれている」
「大魔境ホテル……」
「そこに宿泊した新婚夫婦は、必ず、魔界か霊界に誘い込まれ、夫婦の絆を試されるんだ」
「え?それでもし、不合格と言うか、ダメだと判断されたらどうなるんですか?」
「離婚することになる」
「離婚……」
「まぁ、私たちの場合は愛し合って結婚したわけじゃないから、たとえ離婚と判定されても仕方がないのだがな……」
アレスのこの言葉を最後に、二人は無言になりそのまま馬車に揺られて大魔境ホテルへ向かった。
❖
外が薄暗くなりかけた頃、二人を乗せた馬車は、ようやくシルビア宿泊施設に到着した。
馬車は城門の前で止まり二人を下ろすとすぐに引き返し、走り去って行った。
城門の前に立つ二人が見た宿泊施設の光景は、まさに大魔境ホテルと呼ぶにふさわしい、断崖のそばにある大きな城だった。
「あ、アレス様、なんだか、ヴァンパイアでも出てきそうなお城ですね……」
レス君と呼ばれなかったアレスが返事をする。
「そう、だな…、私も初めて来たのだが、なんだか恐ろしい感じがする」
「このホテル……お客は来るんでしょうか?こんなに怖いのに」
「さ、さぁ、どうだろう…」
その時、ゆっくりと城門が開いて、中から燕尾服を着た大男が現れた。
「いらっしゃいませ、ようこそシルビア宿泊施設へ」
二人は手を取り合い、城の中へと入って行った。
❖
短髪でオールバック、そして黒のサングラスをかけた大男が振り返りもせず二人に話しかけてきた。
「私は案内人のデイビスと申します。アレス様とメアリー様でございますね?」
「ああ」
アレスが返事をすると、メアリーが小声で囁く。
「アレス様、どうして私たちの名前を知っているんでしょうか?」
「父上が前もって連絡を入れていたんだろう」
「あ、そうですよね」
デイビスは二階の部屋へ二人を案内すると「ウッド伯爵様には、お二人を大魔境にて試練を受けさせてくれと指示されております」
「それはいつから始まるんだ?」
「わかりません、私にも。この扉を開けた瞬間に始まるかもしれませんし、眠っているときに始まるかもしれません」
そう言って、部屋の扉を開けた。
「どうぞお入りください。夕食はお部屋にお持ちいたしますので。ではごゆっくりどうぞ」
二人が部屋に入るのを確かめるとデイビスは扉を閉めて戻って行った。
部屋にはシングルベッドが二つあり、ソファとテーブルが置いてあった。ランプとロウソクの炎が揺らめいている。
二人共上着を脱ぐと、メアリーはソファでくつろぎ、アレスはベッドに寝転んだ。
「レス君、疲れましたね」
「ああ、本当に疲れたよ」
「もうすぐ食事が届くが、先に風呂にでも入らないか?……メリー」
アレスは確かめるように『メリー』と呼んでみた。
「そうですね、では先にお入りください……レス君」
アレスの顔が明るくなる。『レス君』と呼ばれてホッとする。
「じゃあ、悪いがお先に失礼するよ?」
「はい、どうぞ、レス君」
アレスは洗面所で服を脱ぎ、鏡に映った自身の裸を眺めた。
「もう、マーガレットのキスマークは完全に消えたな」
浴室の扉を開けて、中へ入っていった。
メアリーは視線と耳を、お風呂場の方へ神経を集中させ、アレスがお風呂に入ったのを確かめると、ソファからゆっくりと立ち上がり窓の側に立ち、カーテンを開けて外を眺めた。
眼下には、深い闇が広がる谷底が続いていた。
「大魔境で、夫婦の絆が分かるですって?馬鹿らしい……」
窓ガラスには、冷たい表情のメアリーの顔が映っていた。
0
あなたにおすすめの小説
愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話
rifa
恋愛
今まで虐げられ続けて育ち、愛を忘れてしまった男爵令嬢のミレー。
彼女の義妹・アリサは、社交パーティーで出会ったオリヴァーという公爵家の息子に魅了され、ミレーという義姉がいることを一層よく思わないようになる。
そこでミレーを暴漢に襲わせ、あわよくば亡き者にしようと企んでいたが、それを下町に住むグランという青年に助けられ失敗し、ミレーはグランの家で保護され、そのまま一緒に暮らすようになる。
そしてそのグランこそがアリサが結婚を望んだオリヴァーであり、ミレーと婚約することになる男性だった。
やがてグランが実は公爵家の人間であったと知ったミレーは、公爵家でオリヴァーの婚約者として暮らすことになる。
だが、ミレーを虐げ傷つけてきたアリサたちを許しはしないと、オリヴァーは密かに仕返しを目論んでいた。
※アリサは最後痛い目を見るので、アリサのファンは閲覧をオススメしません。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
私の存在
戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。
何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。
しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。
しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる