《完結》伯爵令嬢は怨霊になり、復讐を果たす。ーーしかし彼女を裏切った男は、怨霊よりも恐ろしい妻に出会う。

ぜらちん黒糖

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第七章

㊷大魔境ホテル

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アレスが呆然と窓から外を眺めていると、メアリーが声をかけてきた。

「あ、あの、レス君…」

「ん?なんだいメリー」

一緒にいる時は、すぐにレス君、メリーと呼び合うほど親しくなった二人。メアリーは困惑した表情でアレスを見つめていた。

「どうして今頃、新婚旅行なんでしょうか?」

アレスには父上の思惑が分かっていた。

「おそらく私たちは、真の夫婦になるか、ならないかを試されているんだと思う」

「真の夫婦?」

「ああ、私と君の結婚は、マーガレットが婚姻届を出さないための予防的処置だった」

「……」

「だがこのままの仮面夫婦でいいはずはないだろう?メリー、君はまだ若い。なのにこのまま、仮の夫婦のままで年を取るのは忍びない、一緒に暮らしていくなら、真の夫婦として暮らしていく方がいいだろう?」

アレスは優しくメアリーを見つめて話しかけた。

「父上はそう思われたんだと思う」

しかしまだ、メアリーは腑に落ちないようだった。

「あのう、それが、この新婚旅行で解決するんでしょうか?」

アレスは複雑な笑みを浮かべて答える。

「今から行くシルビア宿泊施設は、別名『大魔境ホテル』と呼ばれている」

「大魔境ホテル……」

「そこに宿泊した新婚夫婦は、必ず、魔界か霊界に誘い込まれ、夫婦の絆を試されるんだ」

「え?それでもし、不合格と言うか、ダメだと判断されたらどうなるんですか?」

「離婚することになる」

「離婚……」

「まぁ、私たちの場合は愛し合って結婚したわけじゃないから、たとえ離婚と判定されても仕方がないのだがな……」

アレスのこの言葉を最後に、二人は無言になりそのまま馬車に揺られて大魔境ホテルへ向かった。



外が薄暗くなりかけた頃、二人を乗せた馬車は、ようやくシルビア宿泊施設に到着した。

馬車は城門の前で止まり二人を下ろすとすぐに引き返し、走り去って行った。

城門の前に立つ二人が見た宿泊施設の光景は、まさに大魔境ホテルと呼ぶにふさわしい、断崖のそばにある大きな城だった。

「あ、アレス様、なんだか、ヴァンパイアでも出てきそうなお城ですね……」

レス君と呼ばれなかったアレスが返事をする。

「そう、だな…、私も初めて来たのだが、なんだか恐ろしい感じがする」

「このホテル……お客は来るんでしょうか?こんなに怖いのに」

「さ、さぁ、どうだろう…」

その時、ゆっくりと城門が開いて、中から燕尾服を着た大男が現れた。

「いらっしゃいませ、ようこそシルビア宿泊施設へ」

二人は手を取り合い、城の中へと入って行った。





短髪でオールバック、そして黒のサングラスをかけた大男が振り返りもせず二人に話しかけてきた。

「私は案内人のデイビスと申します。アレス様とメアリー様でございますね?」
「ああ」

アレスが返事をすると、メアリーが小声で囁く。
「アレス様、どうして私たちの名前を知っているんでしょうか?」
「父上が前もって連絡を入れていたんだろう」
「あ、そうですよね」

デイビスは二階の部屋へ二人を案内すると「ウッド伯爵様には、お二人を大魔境にて試練を受けさせてくれと指示されております」

「それはいつから始まるんだ?」

「わかりません、私にも。この扉を開けた瞬間に始まるかもしれませんし、眠っているときに始まるかもしれません」

そう言って、部屋の扉を開けた。
「どうぞお入りください。夕食はお部屋にお持ちいたしますので。ではごゆっくりどうぞ」

二人が部屋に入るのを確かめるとデイビスは扉を閉めて戻って行った。

部屋にはシングルベッドが二つあり、ソファとテーブルが置いてあった。ランプとロウソクの炎が揺らめいている。

二人共上着を脱ぐと、メアリーはソファでくつろぎ、アレスはベッドに寝転んだ。

「レス君、疲れましたね」
「ああ、本当に疲れたよ」

「もうすぐ食事が届くが、先に風呂にでも入らないか?……メリー」
アレスは確かめるように『メリー』と呼んでみた。

「そうですね、では先にお入りください……レス君」

アレスの顔が明るくなる。『レス君』と呼ばれてホッとする。

「じゃあ、悪いがお先に失礼するよ?」

「はい、どうぞ、レス君」

アレスは洗面所で服を脱ぎ、鏡に映った自身の裸を眺めた。
「もう、マーガレットのキスマークは完全に消えたな」

浴室の扉を開けて、中へ入っていった。

メアリーは視線と耳を、お風呂場の方へ神経を集中させ、アレスがお風呂に入ったのを確かめると、ソファからゆっくりと立ち上がり窓の側に立ち、カーテンを開けて外を眺めた。

眼下には、深い闇が広がる谷底が続いていた。

「大魔境で、夫婦の絆が分かるですって?馬鹿らしい……」

窓ガラスには、冷たい表情のメアリーの顔が映っていた。













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