《完結》伯爵令嬢は怨霊になり、復讐を果たす。ーーしかし彼女を裏切った男は、怨霊よりも恐ろしい妻に出会う。

ぜらちん黒糖

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第七章

㊹アレスの決断

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一太郎は落とした箸を拾うと箸置きに載せた。

「離婚?」

「ええ、私たち、親同士の取り決めで結婚したけど、愛し合って結婚したわけじゃないでしょ?一応、私たちが結婚したことで、親同士のメンツは保つことができたじゃない?」

「……」

「だから、離婚しましょう」

「うん、わかった。そうしよう」

(うわぁ、俺は何を言っているんだ!俺は……なぜだかわからないけど、別れたくない!)

一太郎のその言葉に、美智子の表情が一瞬、険しくなったが、すぐにいつもの表情に戻った。美智子は立ち上がると一太郎に言葉をかける。

「悪いんだけど食器の後片付け、お願いできる?私、出て行くから」

「……え?もう、行くのか?」

美智子は無言で部屋に戻るとあらかじめ用意をしていたのか、大きなバッグを二つ持って現れると、バッグを下に置いて、ポケットから折りたたんだ離婚届の用紙を一太郎に手渡した。

そのまま玄関に行くと靴を履いて一太郎を振り返った。一太郎はまだ椅子に座ったまま、離婚届の用紙を見つめていた。

「一太郎さん、短い間だったけど、お世話になりました。それでは元気でね」

ドアが閉まる音がしてようやく一太郎は玄関を振り向いた。

「美智子……」

一太郎は玄関のドアを見つめたまま、これからどうしたらいいのかを考えていた。

追いかけるべきか、追わないでこのまま見送るべきか……。

わずか10日間だけしか一緒に生活はしていなかったが、美智子との生活が頭の中を駆け巡る。

朝、包丁でまな板の上の野菜を切る音が小気味よく聞こえた。

トントントントン、そして味噌汁の匂いが寝室まで漂い、しばらくすると襖が開いて、美智子の声が聞こえた。

「一太郎さん、起きないと遅刻するわよ」

そして出かける時は「いってらっしゃい 」と言ってくれる。

夜、隣で眠る美智子の匂いが心地よかった。風呂上がりの美智子はバラの香りがした。

そして美智子の金髪の髪がどうにも一太郎の胸を締め付けた。

一太郎は離婚届をテーブルに置くと急いで玄関へ向かう。慌てて靴を履くとドアを開けて飛び出して行った。

表の通りに出ると一瞬右か左か迷ったが、駅に向かうはずだと考え、左へ思い切り駆け出した。

必死で走る一太郎。そこへ 後ろから 電車の音がしてだんだん近づいてきた。

「あれは、下りの列車だ!」

焦る一太郎の側を嘲笑うかのように通り過ぎていく電車。

「ちくしょう!」それでも必死で走り駅へ向かう一太郎。

無情にも駅に着いた時には先ほどの電車は走り去ろうとしていた。

「あ、くそっ!すぐに追いかければ追いついたかもしれないのに!俺ってやつは本当に……」

それでも一太郎は駅のホームまで行ってみる。もしかして、美智子が今の電車に乗らないで、ホームにいるかもしれない、わずかな希望を持ってホームを見渡してみたが、美智子はいなかった。

がっくりと肩を落として駅から自宅に向かう一太郎……。

(俺は、女性と付き合ったことがなかったから、美智子とどう付き合えばいいのか、わからなかったんだ)

下を向いて歩く一太郎の頬が涙で濡れていた。

子供のように涙を手の甲で拭く一太郎。

その時、誰かが背中にしがみついた。

「一太郎さん」

美智子の声が背中から聞こえたが、抱きつかれた瞬間に一太郎にはそれが美智子だと分かっていた。バラの香りが一瞬で一太郎を包み込んだからだ。

「美智子…」

一太郎は向き直ると美智子を抱きしめた。

「美智子!お願いだ!離婚は取り消してほしい!」

美智子が一太郎に尋ねる。
「私のこと、愛してる?」

「うん、愛してる」

「やっと言ってくれた。一太郎さん、これからは愛情表現は、はっきりと言ってね……お願いね」

美智子のその声を聞きながら、なぜか一太郎の意識がだんだんと薄れていった。









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