49 / 50
第七章
㊾愛の最終宣言と消失の刻(とき)
しおりを挟む
テーブルに伏せたままのアレックスを見て、老婆とミラが心配そうに見つめる。
「ねぇ、いつまでアレックスは眠っているの?遅くない?」
ミラにそう尋ねられてさすがにうろたえ始める老婆。
「う、う~ん、そうじゃな」
その時アレックスが大きく息を吸い込むように起き上がった。
胸を両手で押さえ必死に深呼吸をするアレックス。
ミラが呆れたようにアレックスに話しかける。
「アレックス、溺れる夢でも見ていたの?」
アレックスはゆっくりとミラに振り向くと、安堵したように答えた。
「……よく覚えてはいないのですが、一つだけ確かなことがあります」
老婆が優しくアレックスに尋ねる。
「お前さん、ミラお嬢様が、ブランドン公爵令息と結婚をすることに賛成かい?」
するとアレックスは立ち上がり、ミラを見つめてはっきりと返事をした。
「反対です。なぜなら、ミラお嬢様と結婚するのは、私だからです」
「アレックス…」「ミラお嬢様…」
二人が抱きしめあった瞬間、二人の姿が徐々に透き通り始め、やがて、二人の姿は消えてなくなった。
一人残された老婆が微笑むと、老婆の姿も、そして建物自体が消えてなくなった。
❖
ズキン!と後頭部に痛みが走り、アレスは咳き込みながら、浴槽の縁に乗せていた頭がずれ落ち、浴槽の底に勢いよく沈んでしまった。
『う!』
目を開けて、自分が今、浴槽の中にいることに気づく。
ザバァ!とお湯を揺らしながら立ち上がったアレス。
必死で深呼吸をする。
「あ、危なかった。浴槽で寝てしまっていたのか…」
アレスは急いで浴室から出ると、バスローブを羽織り、部屋へと戻った。
部屋のソファには、メアリーが静かに眠っていた。
「待ちくたびれて寝てしまったのか…」
テーブルの上には、手つかずの豪華な夕食と、空になったワイングラスが置いてあった。
アレスは、ソファで寝息を立てるメアリーの顔を見つめながら、そっと隣に座る。
なぜかとても愛おしく感じてしまう。いつまでも寝顔を見ていたかったが、声をかけようとした瞬間、メアリーがゆっくりと目を開けた。
「……レス君…」
「メリー、ごめんね、湯船が気持ちよくて眠ってしまったみたいなんだ」
「私こそごめん。ワインを飲んだら知らぬ間に眠ったみたいで……」
メアリーがうかがいを立てるように尋ねた。
「お料理、冷めちゃったけど、どうします?温め直してもらいますか?」
アレスは笑って答えた。
「いいよ、このままで。悪いのは長湯した、私なんだから…」
二人は椅子に座り直しテーブルの料理を食べることにした。
「冷めた肉も意外に食べられるもんだね、冷たくなっても」
「本当ですね、美味しいです」
なぜか自然と見つめ合いながら食事をする二人。
食後のワインを飲みながらアレスが口を開いた。
「浴槽でいつのまにか眠って、その時、どうやら夢を見ていたようなんだが……思い出せないんだ。何かとっても大切なことだったような気がするんだが……」
メアリー も口を開く。
「レス君、私もそうなんです。ワインを飲んだ後、眠くなって、眠ってしまったんですけど……私も確かに夢を見たんです。どんな夢かと聞かれたら答えられないんですけど……」
アレスがひらめいたように話し始める。
「分かった。何か違和感があったんだが、記憶はないはずなのに、とても夢とは思えないほどリアルな夢を見た、そんな気がするんだ」
メアリー もそれに同調する。
「そうです。その通り。とてもリアルな夢を見ていたような気がする」
「私たちは二人とも、この大魔境ホテルの神秘の世界へ、知らぬ間に行ってきたのかもしれないね」
「ええ、そうかもしれません」
アレスは立ち上がると、メアリーに声をかけた。
「メリー、お風呂に入ってきた方がいいよ。でも 浴槽には浸からない方がいいかもしれないな。アルコールが入ってるからね、体の中には。湯船に浸かるなら、溺れないように気をつけてくれ」
メアリーが食器をワゴンに載せ始めると、アレスが止めて言った。
「いいよ、後片付けは私がやるから、お風呂に入っておいで」
「あ、はい。ありがとう、レス君」
「ふふ、気にしなくていいさ」
メアリーは浴室へ入って行った。
洗面所で歯を磨いてから、ベッドで横になるアレス。
メアリーが浴室から出てくるのを待っているつもりだったが、またしても睡魔がアレスを襲った。
メアリーは浴室から出ると、バスローブを羽織り、部屋に戻るとアレスが寝息を立てて眠っていた。
テーブルの上に短いロウソクを1本だけで立て火をつけ、メアリーはベッドに入った。眠りに入るに時間はかからなかった。
しかし、そんなメアリーの耳元にアレスの寝言が聞こえた。
「ミチコ…行かないでくれ」
女性の名前を呼ぶアレスの寝言に反応してメアリーが起き上がる。
(まさか、アレス様に、女が?)
その時、頭の片隅に何かが引っかかった。
「ミチコ……ミチコ…美智子」
記憶が上書きされるように流れ込んでくる。
(美智子…美智子って、私じゃ……ないの?)
(!、一太郎さん!)
蘇った記憶がメアリーをせきたてる。
隣のベッドで眠るアレスを見る。
懐かしさと愛おしさでメアリーの目から涙がこぼれ落ちた。
そしてアレスがまた寝言を言った。
「レオ…愛している……」
「あ、」その言葉で全てを思い出した メアリー。
「アレックス……フランク、そして 一太郎」
メアリーは全て思い出し、全てを理解した。
これらは全て夢ではなく、前世だったのだ。フランクとレオ、アレックスとミラ、一太郎と美智子。
そして今、アレスとメアリーとして四度目の出会いを果たしていたのだと……。
「ねぇ、いつまでアレックスは眠っているの?遅くない?」
ミラにそう尋ねられてさすがにうろたえ始める老婆。
「う、う~ん、そうじゃな」
その時アレックスが大きく息を吸い込むように起き上がった。
胸を両手で押さえ必死に深呼吸をするアレックス。
ミラが呆れたようにアレックスに話しかける。
「アレックス、溺れる夢でも見ていたの?」
アレックスはゆっくりとミラに振り向くと、安堵したように答えた。
「……よく覚えてはいないのですが、一つだけ確かなことがあります」
老婆が優しくアレックスに尋ねる。
「お前さん、ミラお嬢様が、ブランドン公爵令息と結婚をすることに賛成かい?」
するとアレックスは立ち上がり、ミラを見つめてはっきりと返事をした。
「反対です。なぜなら、ミラお嬢様と結婚するのは、私だからです」
「アレックス…」「ミラお嬢様…」
二人が抱きしめあった瞬間、二人の姿が徐々に透き通り始め、やがて、二人の姿は消えてなくなった。
一人残された老婆が微笑むと、老婆の姿も、そして建物自体が消えてなくなった。
❖
ズキン!と後頭部に痛みが走り、アレスは咳き込みながら、浴槽の縁に乗せていた頭がずれ落ち、浴槽の底に勢いよく沈んでしまった。
『う!』
目を開けて、自分が今、浴槽の中にいることに気づく。
ザバァ!とお湯を揺らしながら立ち上がったアレス。
必死で深呼吸をする。
「あ、危なかった。浴槽で寝てしまっていたのか…」
アレスは急いで浴室から出ると、バスローブを羽織り、部屋へと戻った。
部屋のソファには、メアリーが静かに眠っていた。
「待ちくたびれて寝てしまったのか…」
テーブルの上には、手つかずの豪華な夕食と、空になったワイングラスが置いてあった。
アレスは、ソファで寝息を立てるメアリーの顔を見つめながら、そっと隣に座る。
なぜかとても愛おしく感じてしまう。いつまでも寝顔を見ていたかったが、声をかけようとした瞬間、メアリーがゆっくりと目を開けた。
「……レス君…」
「メリー、ごめんね、湯船が気持ちよくて眠ってしまったみたいなんだ」
「私こそごめん。ワインを飲んだら知らぬ間に眠ったみたいで……」
メアリーがうかがいを立てるように尋ねた。
「お料理、冷めちゃったけど、どうします?温め直してもらいますか?」
アレスは笑って答えた。
「いいよ、このままで。悪いのは長湯した、私なんだから…」
二人は椅子に座り直しテーブルの料理を食べることにした。
「冷めた肉も意外に食べられるもんだね、冷たくなっても」
「本当ですね、美味しいです」
なぜか自然と見つめ合いながら食事をする二人。
食後のワインを飲みながらアレスが口を開いた。
「浴槽でいつのまにか眠って、その時、どうやら夢を見ていたようなんだが……思い出せないんだ。何かとっても大切なことだったような気がするんだが……」
メアリー も口を開く。
「レス君、私もそうなんです。ワインを飲んだ後、眠くなって、眠ってしまったんですけど……私も確かに夢を見たんです。どんな夢かと聞かれたら答えられないんですけど……」
アレスがひらめいたように話し始める。
「分かった。何か違和感があったんだが、記憶はないはずなのに、とても夢とは思えないほどリアルな夢を見た、そんな気がするんだ」
メアリー もそれに同調する。
「そうです。その通り。とてもリアルな夢を見ていたような気がする」
「私たちは二人とも、この大魔境ホテルの神秘の世界へ、知らぬ間に行ってきたのかもしれないね」
「ええ、そうかもしれません」
アレスは立ち上がると、メアリーに声をかけた。
「メリー、お風呂に入ってきた方がいいよ。でも 浴槽には浸からない方がいいかもしれないな。アルコールが入ってるからね、体の中には。湯船に浸かるなら、溺れないように気をつけてくれ」
メアリーが食器をワゴンに載せ始めると、アレスが止めて言った。
「いいよ、後片付けは私がやるから、お風呂に入っておいで」
「あ、はい。ありがとう、レス君」
「ふふ、気にしなくていいさ」
メアリーは浴室へ入って行った。
洗面所で歯を磨いてから、ベッドで横になるアレス。
メアリーが浴室から出てくるのを待っているつもりだったが、またしても睡魔がアレスを襲った。
メアリーは浴室から出ると、バスローブを羽織り、部屋に戻るとアレスが寝息を立てて眠っていた。
テーブルの上に短いロウソクを1本だけで立て火をつけ、メアリーはベッドに入った。眠りに入るに時間はかからなかった。
しかし、そんなメアリーの耳元にアレスの寝言が聞こえた。
「ミチコ…行かないでくれ」
女性の名前を呼ぶアレスの寝言に反応してメアリーが起き上がる。
(まさか、アレス様に、女が?)
その時、頭の片隅に何かが引っかかった。
「ミチコ……ミチコ…美智子」
記憶が上書きされるように流れ込んでくる。
(美智子…美智子って、私じゃ……ないの?)
(!、一太郎さん!)
蘇った記憶がメアリーをせきたてる。
隣のベッドで眠るアレスを見る。
懐かしさと愛おしさでメアリーの目から涙がこぼれ落ちた。
そしてアレスがまた寝言を言った。
「レオ…愛している……」
「あ、」その言葉で全てを思い出した メアリー。
「アレックス……フランク、そして 一太郎」
メアリーは全て思い出し、全てを理解した。
これらは全て夢ではなく、前世だったのだ。フランクとレオ、アレックスとミラ、一太郎と美智子。
そして今、アレスとメアリーとして四度目の出会いを果たしていたのだと……。
0
あなたにおすすめの小説
愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話
rifa
恋愛
今まで虐げられ続けて育ち、愛を忘れてしまった男爵令嬢のミレー。
彼女の義妹・アリサは、社交パーティーで出会ったオリヴァーという公爵家の息子に魅了され、ミレーという義姉がいることを一層よく思わないようになる。
そこでミレーを暴漢に襲わせ、あわよくば亡き者にしようと企んでいたが、それを下町に住むグランという青年に助けられ失敗し、ミレーはグランの家で保護され、そのまま一緒に暮らすようになる。
そしてそのグランこそがアリサが結婚を望んだオリヴァーであり、ミレーと婚約することになる男性だった。
やがてグランが実は公爵家の人間であったと知ったミレーは、公爵家でオリヴァーの婚約者として暮らすことになる。
だが、ミレーを虐げ傷つけてきたアリサたちを許しはしないと、オリヴァーは密かに仕返しを目論んでいた。
※アリサは最後痛い目を見るので、アリサのファンは閲覧をオススメしません。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
私の存在
戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。
何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。
しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。
しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる