愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖

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第一章 

⑧オリビアとジェームズ

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朝、目覚めると隣にはジェームズがいた。

「これ、不倫よね?」小さな声で呟いたオリビア。

どうしよう、ジェームズと寝てしまった。罪悪感で胸が押しつぶされそうになった。

ジェームズに抱かれていたときは、何も考えていなかったが、今は、アルコールも抜けて正気に戻っている。

「どうしよう。これから」

オリビアは、ジェームズを起こさないようにそっとベッドから出た。



「起きてジェームズ」

ジェームズはオリビアの声で目が覚めた。

オリビアの顔を見て、目を強くつむって起き上がった。

(あ、私はまた、やってしまったのか?また)

「ジェームズ。何も覚えていないの?」

ジェームズは顔面蒼白になっていた。

「うん。ごめん……。あ、あの、私たちは、やった?」

「何よ。下品な言い方して。愛しあったのかって聞いてよ」

ジェームズは小さな声で尋ねた。
「あの、私たちはその、あの、愛しあったのかな?」

オリビアは大声で笑いながら「そんな訳ないでしょう?ジェームズは酔っ払って、ベッドに入ったらすぐにいびきをかいて眠ってしまったんだから。もう!」

「そ、そうか」ホッとするジェームズ。

「そんなことより、顔洗ってきてよ。体も拭いてきてね」

「わかった。あ、あのほんとに私たちは愛しあってーー」「ないの!」

ジェームズの言葉に、被せるように否定したオリビアは、ジェームズをお風呂場へと連れていった。

「タオルと下着、ここにおいとくから。下着は宿の売店で買ったって言うのよ、マリアには」

「わかった」



【酒場オリビア】の店の前に立つオリビアとジェームズ。

「もう来ないでね」

オリビアの言葉に、残念そうな反応を見せるジェームズ。

「……でも、出張のときに立ち寄るぐらいは、いいだろ?」

心なしか笑みを浮かべるオリビア。

「でも、もうお泊まりは駄目よ」
「うん」

「マリアと娘さんと仲良く幸せに暮らしてね」
「うん」

「宿に置いた荷物、忘れないでよ」
「ああ、わかってる」

大通りに出る手前で、こちらを振り向いて手を振るジェームズ。

オリビアもジェームズが見えなくなるまで手を振った。

そんな呑気そうなジェームズを見ながら自分に問いかける。

「あの人と結婚していたら、私、どうなっていたのかな」

オリビアは微笑んで返事をした。

「きっと幸せに暮らしていただろうな」

ジェームスの姿が完全に消えた。

オリビアは淋しそうにひとり店に戻って行った。





四ヶ月後のジェームズ・ブラウン家の玄関口。

「忘れ物ない?」マリアが尋ねた。
「ああ、大丈夫」

「なんか変ねえ」
「なにが?」

「あなた、出張嫌いじゃなかった?」
「いや、そんなことないよ」

「でもこの前は嫌そうだったじゃない」

「ああ、それは今回の仕事は視察じゃないから。警備隊員の不足で応援に行くだけだから。気楽なもんだよ」

「そう?」

「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね」

ジェームズはオリビアに会えることを楽しみにしていた。

早く会いたい。

出張で来た時は、来てもいいとオリビアは言ってくれた。

オリビアに会えると思うと、気持ちがうきうきした。

今回の出張は三日だけ。

だから、二日目の夜にオリビアの店に行こうと思っていた。


仕事も順調に終わった。

残るは明日の警備隊の仕事があるのみ。



夜、ジェームズは、オリビアの店を目指して歩いていたが、確かここを左に曲がって、真ん中辺りに店が……無かった。

 あれ?

前からほろ酔い気分のおじさんが歩いて来た。

「すみません。ちょっとお尋ねします」
「な~に~」

「ここに酒場オリビアって言うお店があったと思うんですけど」

「あ~ここね。綺麗な女将さんがいたお店ね」
「はい」

「女将さんは引っ越したよ、先月」
「え?どこへ?」
「さあねえ、わかんない」
ジェームズは泣きそうになった。

「私のせいか……オリビアは静かに1人で暮らしていたのに、私が訪ねたばかりに……」

「オリビアの生活を壊してしまったのかもしれない」

「また私は、オリビアに酷いことをしてしまったのか……」

とぼとぼと宿泊する宿へ戻っていくジェームズだった。
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