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第三章
⑳迷う復讐心を呼び起こす
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翔太が壁にかかっている時計を見て美知留に声をかける。
「美知留、そろそろ8時になる、出かけよう」
「ええ」
アパートを出て1階に降りると、105号室は真っ暗で明かりがついていなかった。
「純子さんは、もう出たようね」
「そのようだな」
2人は通りの道に出て、左右を確かめた。すると1台の車が2人に向かってゆっくりと近づいて止まった。
濃いグレーのステーションワゴンだった。助手席の窓が開いて、ハンドルに手をかけたまま純子が声をかけてきた。
「翔太さんは助手席に乗ってくれる?美知留さんは後ろの席に座って」
その言葉に一瞬、2人とも戸惑いの表情を見せたが、翔太は普通に後部ドアを開けて、美知留を乗せると、荷物をその横に置いた。そして自分は、助手席に座った。
「美知留さんごめんね、西村さんには道案内をしてもらいたくて」
美知留が後ろの席から声を出す。
「カーナビついてないんですかあ?」
「ええ、目的地は分かってるから、大丈夫よ。だけど途中の目印を見逃すと道を間違うから、それを西村さんに注意深く見ていてほしいの」
美知留が後ろの席から翔太を茶化す。
「翔太、楽できると思ってたんでしょう?残念でした。しっかり道案内してね、翔太」
苦笑いしながら翔太が返事をした。
「ああ、美知留は眠くなったら眠ってていいから」
純子が、翔太と美知留を見ながら話しかけた。
「シートベルトは……あ、大丈夫そうね。では、出発します」
車はゆっくりと走り出した。
景色は街並みから、まばらな家が建ち並ぶ風景へと変化し、時々、田園風景も混じっていく。
そして再び明るくなった街並みに入った時、純子が翔太に指示を出した。
「西村さん、左側に信用金庫があるはずなんだけど……」
翔太が地図をめくり、答える。
「あと信号三つ目過ぎると山森信用金庫があります」
「あ、ありがとう」
そして信用金庫を通り過ぎ、信号のない交差点を左折すると直進した。
しばらくして、明るい看板のラブホテルが目に入った。純子はゆっくりとホテルの中へ車を走らせる。
到着して後ろの席を見ると、美知留は眠っていた。
「美知留、今日の旅行、楽しみにしていたから、昨日は興奮してあまり寝ていないみたいで……」
「そう、じゃあ、今日も寝不足になるかもしれないわね」
「……」返事のできない翔太。
純子はシートベルトを外して、美知留に声をかける。
「美知留さん、ホテルに着いたわよ、起きて」
翔太は助手席を降りて、後部座席のドアを開け美知留を起こし、必要な荷物だけを持って車を後にした。
客室に入るとすっかり目が覚めた美知留がはしゃぎ出す。
「翔太!一緒にお風呂に入ろうよ、ね?」
「ええー?」
浴室を覗き込みながら声を出す美知留。
「ものすごい大きな浴槽よ?ね、入ろう?」
「そうだな、入ろうか」
「やったー」
はしゃぐ美知留を見ながら、複雑な気持ちになる翔太。
山荘に着いてからどんな仕打ちが待っているのか、知りもしない美知留を思うと、心からはしゃげない翔太だった。
純子は、部屋に備え付けのコーヒーを飲むことにした。コーヒーとシュガーのスティックをコーヒーカップに入れて、沸かしたお湯を注ぎ、ミルクを入れた。
ソファに座ってコーヒーを飲む純子。
ほんの少し気持ちに迷いが生じていた。
復讐することに意味はあるのかと……。
実行犯の男2人には罰を与えた。1人は飛び降り自殺をして、もう1人は行方不明になっていた。
「それで、終わりにすればよかったのかしら……」
(だけど、私を酷い目に遭わせた元凶たちは、私が被害に遭って苦しんでいる時に、結婚して愛し合っていた)
(そんなことが、許されていいはずがない。私を不幸のどん底に落としておきながら、自分たちだけが幸せになるなんて……)
純子は立ち上がると服を脱ぎ、それをソファの背もたれにかけると、洗面所へ向かった。
鏡に映る自分の顔を見てぼやく。
「整形もしていないのに、こんな老け顔になるなんてね」
「きっとあの二人は今頃、愛し合っているんでしょうね」
「クッ、クックッ……」
純子の表情に狂気が滲み出る。
「人の不幸の上に、幸せなんて、あってはならない!」
冷たい表情に変わった純子が、浴室へ入っていった。
「美知留、そろそろ8時になる、出かけよう」
「ええ」
アパートを出て1階に降りると、105号室は真っ暗で明かりがついていなかった。
「純子さんは、もう出たようね」
「そのようだな」
2人は通りの道に出て、左右を確かめた。すると1台の車が2人に向かってゆっくりと近づいて止まった。
濃いグレーのステーションワゴンだった。助手席の窓が開いて、ハンドルに手をかけたまま純子が声をかけてきた。
「翔太さんは助手席に乗ってくれる?美知留さんは後ろの席に座って」
その言葉に一瞬、2人とも戸惑いの表情を見せたが、翔太は普通に後部ドアを開けて、美知留を乗せると、荷物をその横に置いた。そして自分は、助手席に座った。
「美知留さんごめんね、西村さんには道案内をしてもらいたくて」
美知留が後ろの席から声を出す。
「カーナビついてないんですかあ?」
「ええ、目的地は分かってるから、大丈夫よ。だけど途中の目印を見逃すと道を間違うから、それを西村さんに注意深く見ていてほしいの」
美知留が後ろの席から翔太を茶化す。
「翔太、楽できると思ってたんでしょう?残念でした。しっかり道案内してね、翔太」
苦笑いしながら翔太が返事をした。
「ああ、美知留は眠くなったら眠ってていいから」
純子が、翔太と美知留を見ながら話しかけた。
「シートベルトは……あ、大丈夫そうね。では、出発します」
車はゆっくりと走り出した。
景色は街並みから、まばらな家が建ち並ぶ風景へと変化し、時々、田園風景も混じっていく。
そして再び明るくなった街並みに入った時、純子が翔太に指示を出した。
「西村さん、左側に信用金庫があるはずなんだけど……」
翔太が地図をめくり、答える。
「あと信号三つ目過ぎると山森信用金庫があります」
「あ、ありがとう」
そして信用金庫を通り過ぎ、信号のない交差点を左折すると直進した。
しばらくして、明るい看板のラブホテルが目に入った。純子はゆっくりとホテルの中へ車を走らせる。
到着して後ろの席を見ると、美知留は眠っていた。
「美知留、今日の旅行、楽しみにしていたから、昨日は興奮してあまり寝ていないみたいで……」
「そう、じゃあ、今日も寝不足になるかもしれないわね」
「……」返事のできない翔太。
純子はシートベルトを外して、美知留に声をかける。
「美知留さん、ホテルに着いたわよ、起きて」
翔太は助手席を降りて、後部座席のドアを開け美知留を起こし、必要な荷物だけを持って車を後にした。
客室に入るとすっかり目が覚めた美知留がはしゃぎ出す。
「翔太!一緒にお風呂に入ろうよ、ね?」
「ええー?」
浴室を覗き込みながら声を出す美知留。
「ものすごい大きな浴槽よ?ね、入ろう?」
「そうだな、入ろうか」
「やったー」
はしゃぐ美知留を見ながら、複雑な気持ちになる翔太。
山荘に着いてからどんな仕打ちが待っているのか、知りもしない美知留を思うと、心からはしゃげない翔太だった。
純子は、部屋に備え付けのコーヒーを飲むことにした。コーヒーとシュガーのスティックをコーヒーカップに入れて、沸かしたお湯を注ぎ、ミルクを入れた。
ソファに座ってコーヒーを飲む純子。
ほんの少し気持ちに迷いが生じていた。
復讐することに意味はあるのかと……。
実行犯の男2人には罰を与えた。1人は飛び降り自殺をして、もう1人は行方不明になっていた。
「それで、終わりにすればよかったのかしら……」
(だけど、私を酷い目に遭わせた元凶たちは、私が被害に遭って苦しんでいる時に、結婚して愛し合っていた)
(そんなことが、許されていいはずがない。私を不幸のどん底に落としておきながら、自分たちだけが幸せになるなんて……)
純子は立ち上がると服を脱ぎ、それをソファの背もたれにかけると、洗面所へ向かった。
鏡に映る自分の顔を見てぼやく。
「整形もしていないのに、こんな老け顔になるなんてね」
「きっとあの二人は今頃、愛し合っているんでしょうね」
「クッ、クックッ……」
純子の表情に狂気が滲み出る。
「人の不幸の上に、幸せなんて、あってはならない!」
冷たい表情に変わった純子が、浴室へ入っていった。
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