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⑤茶店の店主
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商店街を歩きながら、マリカはリアナに尋ねた。
「ねえ、リアナ、靴の履き心地はどう?」
「うん、ピッタリ!」
その時、リアナが足を止めた。
「どうしたの? リアナ」
「ここは?」
リアナが指差す先には、木工細工の店があった。
軒先には手作りの木箱やお茶碗、湯呑み茶碗など、温かみのある商品が並べられている。店員がすぐに近づいてきた。
「いらっしゃいませ」
リアナは興味津々に指を差して尋ねた。
「ねえ、このお茶碗だけおそろいだけど、なんで?」
「ああ、それは夫婦茶碗です」と店員が答えた。
「夫婦茶碗って?」
「このお茶碗は、夫婦が使うことを想定して作られた物なんです。大小2つで一組になったお茶碗のことで、普通は大きい方が男性用、小さい方が女性用になっています」
マリカがリアナに尋ねる。
「欲しいの?」
「うーん、どうかな……」
迷っているリアナを見て、店員はさらに夫婦茶碗の魅力を語り始めた。
「お客様、夫婦茶碗には、2つで1組となることから、夫婦が互いに支え合い、末永く一緒にいることの象徴とされているんですよ」
「ふーん」
まだ迷っているリアナに、マリカは「買ってあげようか?」と声をかけた。
しかし、リアナは考え込んでいる。
店員はこれは「脈あり」だと判断し、さらに縁起の良さを解き始めた。
「当店の夫婦茶碗には、夫婦箸もついております」
「夫婦箸?」
「お箸は『橋渡し』に通じるとも言われ、夫婦の『絆を深める』縁起物とされています」
リアナの顔がパッと明るくなった。
「マリカ、この夫婦茶碗のセットを買ってくれる?」
マリカの返事よりも早く、店員の声が響いた。
「お買い上げありがとうございます!」
リアナは嬉しそうに、買った夫婦茶碗とお箸をバスケットに入れた。
「ねえ、そろそろお昼ご飯にしない?」
マリカがリアナに尋ねると、リアナは頷いた。
「うん、そうしようか。だけど……」
「どうかした?」
「飲み物持ってくるの忘れたから、どこかで買わないとね」
「ああ、今、夫婦茶碗をバスケットにしまって気がついたんでしょう?」
「まあね」
キョロキョロと周りを見渡すリアナが、何かを発見した。
「あれはなに?」
「えーとっ、あれは茶店ね。軒先にあるベンチに座って飲めるのよ」
「いいわね、あそこでお弁当食べさせてくれないかしら?」
「それは無理だと思うわよ。商売の邪魔になるから」
「そう、それは残念」
そんな会話をしながら茶店に向かう二人。店の中に入ると店員が声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ」
飲み物は、果実水と麦茶とミルクの3種類だった。
リアナが店員に尋ねた。
「ご飯に合うのはどれになりますか?」
「それなら麦茶ですね」
「麦茶ってどんな飲み物なの?」
「はあ、麦茶とは焙煎した穀物から作られた香ばしい飲み物でございます。まあ、お客様がご存知ないのも仕方がありません。麦茶が出回ってきたのは最近ですからね」
「そうなんだ」
リアナはマリカを見て尋ねる。
「お茶にしようと思うんだけど、熱いのと冷たいの、どっちがいいと思う?」
マリカは麦茶を飲んだことがあったので、冷たい方が美味しいと教えてあげようとしたが、店員の方が先に言った。
「おすすめは冷たい麦茶でございます」
マリカは苦笑いをしながら、店員に尋ねた。
「お持ち帰りできますか?」
「ここで飲んでいただきたいのですが……」
「そうですか、どうするリアナ?」
リアナは店員に申し出た。
「私たち、お弁当を食べようと思って飲み物を買いに来たんです。こちらで食べることはできませんよね?」
少し困った顔をした店員は、「ちょっと待っててください」と言って、店の奥に入って行った。
そしてしばらくすると、店の主人を連れて戻ってきた。かなり年老いたおじいさんだった。
「お弁当、食べたいんだって? うちの店の麦茶と一緒に」
マリカは少しリアナの後ろに隠れたが、リアナは表情を変えずに微笑んだ。
「ええ、駄目でしょうか? とってもご飯と合いそうだったもので」
その微笑みに、おじいさん店主はドキリとした。
断るつもりだったのだが、この二人は中々感じの良い女性に思えた。まあ、いいかと……返事をする。
「いいよ。奥に中庭があるからそこで食べなさい。店の前で食べられるのは困るからね」
「あ~ん、ありがとう、おじさまあ~」
店主は口元が緩んだが、顔に刻まれた深いシワのせいで、その表情はほとんど読み取れなかった。
店主は二人を中庭へ案内した。
中庭に入ると木のベンチが置いてあり、真ん中には小さな池がある。池の中には金魚が優雅に泳いでいた。地面には一面に砂利が撒かれていて、なかなか風情がある。
「素敵な中庭ですね、おじさま」
リアナが感嘆の声を上げた。
「ふぉふぉふぉ、まあね、私の自慢じゃ」
リアナはバスケットからお弁当箱を取り出しながら、店主に言った。
「おじさま、よろしかったら、ご一緒にいかがですか? あたしの手作りなんですけど」
「ちょっとリアナ、そんなこと言って、ご迷惑よ? すみませんね、おじさま」
マリカは慌ててリアナを制したが、おじいさん店主はニヤニヤしながら頷いた。
「そうか、いただこうかの、私も」
ベンチに座って、マリカは、おじいさんの分をどうやって分けるのかと心配していた。
すると、リアナはバスケットからお弁当箱の半分くらいのミニ弁当箱を取り出した。
リアナが真ん中に座り、右側にマリカ、左側におじいさん店主が座った。リアナはミニ弁当箱とお箸を店主に差し出した。
「どうぞ、おじさま、食べてください」
リアナもマリカもお弁当の蓋を開けた。店主もミニお弁当箱の蓋をあけたのだが……。
「うお、こ、これは……」
お弁当の蓋を手にした店主の手が震えていた。ご飯の上に海苔で文字が書いてあったのだ。
『スキ』と。
立ち上がってそれを見たマリカは思わず笑いかけたが、すぐにやめた。おじいさんの目に、涙が光っていたからだ。
その時、店員が麦茶を持って来てくれた。
「はいどうぞ」
そう言ってマリカ、リアナに手渡し、店主にも渡そうとしたのだが……店主の左側のベンチに置いて、控えめに声をかけた。
「旦那様、麦茶、こちらに置いておきますね」
頷く店主に軽くお辞儀をして、店員は立ち去っていった。
「ねえ、リアナ、靴の履き心地はどう?」
「うん、ピッタリ!」
その時、リアナが足を止めた。
「どうしたの? リアナ」
「ここは?」
リアナが指差す先には、木工細工の店があった。
軒先には手作りの木箱やお茶碗、湯呑み茶碗など、温かみのある商品が並べられている。店員がすぐに近づいてきた。
「いらっしゃいませ」
リアナは興味津々に指を差して尋ねた。
「ねえ、このお茶碗だけおそろいだけど、なんで?」
「ああ、それは夫婦茶碗です」と店員が答えた。
「夫婦茶碗って?」
「このお茶碗は、夫婦が使うことを想定して作られた物なんです。大小2つで一組になったお茶碗のことで、普通は大きい方が男性用、小さい方が女性用になっています」
マリカがリアナに尋ねる。
「欲しいの?」
「うーん、どうかな……」
迷っているリアナを見て、店員はさらに夫婦茶碗の魅力を語り始めた。
「お客様、夫婦茶碗には、2つで1組となることから、夫婦が互いに支え合い、末永く一緒にいることの象徴とされているんですよ」
「ふーん」
まだ迷っているリアナに、マリカは「買ってあげようか?」と声をかけた。
しかし、リアナは考え込んでいる。
店員はこれは「脈あり」だと判断し、さらに縁起の良さを解き始めた。
「当店の夫婦茶碗には、夫婦箸もついております」
「夫婦箸?」
「お箸は『橋渡し』に通じるとも言われ、夫婦の『絆を深める』縁起物とされています」
リアナの顔がパッと明るくなった。
「マリカ、この夫婦茶碗のセットを買ってくれる?」
マリカの返事よりも早く、店員の声が響いた。
「お買い上げありがとうございます!」
リアナは嬉しそうに、買った夫婦茶碗とお箸をバスケットに入れた。
「ねえ、そろそろお昼ご飯にしない?」
マリカがリアナに尋ねると、リアナは頷いた。
「うん、そうしようか。だけど……」
「どうかした?」
「飲み物持ってくるの忘れたから、どこかで買わないとね」
「ああ、今、夫婦茶碗をバスケットにしまって気がついたんでしょう?」
「まあね」
キョロキョロと周りを見渡すリアナが、何かを発見した。
「あれはなに?」
「えーとっ、あれは茶店ね。軒先にあるベンチに座って飲めるのよ」
「いいわね、あそこでお弁当食べさせてくれないかしら?」
「それは無理だと思うわよ。商売の邪魔になるから」
「そう、それは残念」
そんな会話をしながら茶店に向かう二人。店の中に入ると店員が声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ」
飲み物は、果実水と麦茶とミルクの3種類だった。
リアナが店員に尋ねた。
「ご飯に合うのはどれになりますか?」
「それなら麦茶ですね」
「麦茶ってどんな飲み物なの?」
「はあ、麦茶とは焙煎した穀物から作られた香ばしい飲み物でございます。まあ、お客様がご存知ないのも仕方がありません。麦茶が出回ってきたのは最近ですからね」
「そうなんだ」
リアナはマリカを見て尋ねる。
「お茶にしようと思うんだけど、熱いのと冷たいの、どっちがいいと思う?」
マリカは麦茶を飲んだことがあったので、冷たい方が美味しいと教えてあげようとしたが、店員の方が先に言った。
「おすすめは冷たい麦茶でございます」
マリカは苦笑いをしながら、店員に尋ねた。
「お持ち帰りできますか?」
「ここで飲んでいただきたいのですが……」
「そうですか、どうするリアナ?」
リアナは店員に申し出た。
「私たち、お弁当を食べようと思って飲み物を買いに来たんです。こちらで食べることはできませんよね?」
少し困った顔をした店員は、「ちょっと待っててください」と言って、店の奥に入って行った。
そしてしばらくすると、店の主人を連れて戻ってきた。かなり年老いたおじいさんだった。
「お弁当、食べたいんだって? うちの店の麦茶と一緒に」
マリカは少しリアナの後ろに隠れたが、リアナは表情を変えずに微笑んだ。
「ええ、駄目でしょうか? とってもご飯と合いそうだったもので」
その微笑みに、おじいさん店主はドキリとした。
断るつもりだったのだが、この二人は中々感じの良い女性に思えた。まあ、いいかと……返事をする。
「いいよ。奥に中庭があるからそこで食べなさい。店の前で食べられるのは困るからね」
「あ~ん、ありがとう、おじさまあ~」
店主は口元が緩んだが、顔に刻まれた深いシワのせいで、その表情はほとんど読み取れなかった。
店主は二人を中庭へ案内した。
中庭に入ると木のベンチが置いてあり、真ん中には小さな池がある。池の中には金魚が優雅に泳いでいた。地面には一面に砂利が撒かれていて、なかなか風情がある。
「素敵な中庭ですね、おじさま」
リアナが感嘆の声を上げた。
「ふぉふぉふぉ、まあね、私の自慢じゃ」
リアナはバスケットからお弁当箱を取り出しながら、店主に言った。
「おじさま、よろしかったら、ご一緒にいかがですか? あたしの手作りなんですけど」
「ちょっとリアナ、そんなこと言って、ご迷惑よ? すみませんね、おじさま」
マリカは慌ててリアナを制したが、おじいさん店主はニヤニヤしながら頷いた。
「そうか、いただこうかの、私も」
ベンチに座って、マリカは、おじいさんの分をどうやって分けるのかと心配していた。
すると、リアナはバスケットからお弁当箱の半分くらいのミニ弁当箱を取り出した。
リアナが真ん中に座り、右側にマリカ、左側におじいさん店主が座った。リアナはミニ弁当箱とお箸を店主に差し出した。
「どうぞ、おじさま、食べてください」
リアナもマリカもお弁当の蓋を開けた。店主もミニお弁当箱の蓋をあけたのだが……。
「うお、こ、これは……」
お弁当の蓋を手にした店主の手が震えていた。ご飯の上に海苔で文字が書いてあったのだ。
『スキ』と。
立ち上がってそれを見たマリカは思わず笑いかけたが、すぐにやめた。おじいさんの目に、涙が光っていたからだ。
その時、店員が麦茶を持って来てくれた。
「はいどうぞ」
そう言ってマリカ、リアナに手渡し、店主にも渡そうとしたのだが……店主の左側のベンチに置いて、控えめに声をかけた。
「旦那様、麦茶、こちらに置いておきますね」
頷く店主に軽くお辞儀をして、店員は立ち去っていった。
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