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⑨私の夫、コーネル
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「やっぱり……」
リアナはため息をついた。諦めにも似た感情が胸を満たす。
「戻れなかったの?」マリカの声が震えていた。
「うん、一度戻ってコーネルの意識を探してみたんだけど、レオンもいなくて……」
リアナの言葉が途切れた、次の瞬間だった。激しい痛みが頭を貫き、リアナの体が大きく揺らぐ。
「あ、頭が……!」
その場に倒れ込んだコーネルの体に、マリカは必死に駆け寄った。
リアナの顔は蒼白になり、苦悶に歪んでいる。それは、リアナと、レオンの細胞がコーネルの脳を圧迫している証だった。
マリカはパニックになりながらも、すぐに近所に助けを求めた。
駆けつけてくれた人々の手助けで、コーネルは急いで病院へ運び込まれた。
病院ではすぐに検査が行われ、コーネルの脳が大きく腫れていると診断を受けた。
マリカは、自分に起こったこと、リアナとレオンという二つの人格がコーネルの脳に存在していたこと、そして彼らの細胞が脳を圧迫していることを全て医師に伝えた。
医師はマリカの言葉を真剣に聞き、事態の緊急性と特殊性を悟った。
すぐに王国に連絡を取り、高名な魔法医師団を招集してくれた。
時間との戦いの中、緊急手術が執り行われた。
手術室の前の長い廊下で、マリカはただ祈り続けた。どうか、コーネルが無事でありますように。そして、リアナとレオンの願いが、彼の未来へと繋がりますように、と。
3日後、手術から目覚めたコーネルは、穏やかな表情でマリカを見つめた。
彼の瞳には、かつてリアナやレオンが見せていた特定の強い個性の片鱗はもう見られない。
彼の中に存在していた三つの人格は、痛みと共に消え去ったのだろうか……。
コーネル本人には、リアナとして過ごした一日の記憶も、レオンとしての深い愛情も、直接的な鮮明さでは残っていなかった。
でもマリカにはリアナとレオンがコーネルの中に存在している気がした。
朝、食卓に並んだパンを見たコーネルが、何気なく丸いパンを避けた時にコーネルが言った。
「甘いから、そんなの食べたら眠くなっちゃうよ」
と、リアナが言っていたのと同じことを言った。
マリカが冗談を言った時に、以前のコーネルよりも少しだけ優しい眼差しを向けてくる。
そして何より、彼の仕草や行動の端々に、リアナとレオンがマリカを想い、愛した痕跡が、確かに息づいているように感じられたからだ。
コーネルは退院し、以前の彼よりも、どこか物事を深く理解し、より男らしく、そして繊細で優しい男になっていた。
彼の穏やかな眼差しには、これまで経験した全てが溶け込んでいるかのようだった。
マリカは、目の前にいるこの「新しいコーネル」が、何よりも愛おしく、大好きだった。
過去の全てを包み込み、そして未来へと進む、かけがえのない自分の夫として。
その日の朝、コーネルが玄関の戸に手をかけ、
「じゃあ、マリカ、行ってくるよ」
といつものように声をかけた。戸が閉まる寸前、マリカはそっと、しかしはっきりと呼びかけた。
「いってらっしゃい、コーネル」
一度閉まった戸が、ゆっくりと、開いた。
そこに立っていたのは、驚きと少しの寂しさ、そして何よりも深く感謝するような穏やかな表情のコーネルだった。
彼の瞳の奥には、確かにリアナとレオンの記憶が、優しく灯っているように見えた。
「言い忘れた」
「なに?」
「愛してるよ、マリカ」
そう言うとゆっくりと戸がしまった。
「私も、愛してるわ、コーネル」
完
リアナはため息をついた。諦めにも似た感情が胸を満たす。
「戻れなかったの?」マリカの声が震えていた。
「うん、一度戻ってコーネルの意識を探してみたんだけど、レオンもいなくて……」
リアナの言葉が途切れた、次の瞬間だった。激しい痛みが頭を貫き、リアナの体が大きく揺らぐ。
「あ、頭が……!」
その場に倒れ込んだコーネルの体に、マリカは必死に駆け寄った。
リアナの顔は蒼白になり、苦悶に歪んでいる。それは、リアナと、レオンの細胞がコーネルの脳を圧迫している証だった。
マリカはパニックになりながらも、すぐに近所に助けを求めた。
駆けつけてくれた人々の手助けで、コーネルは急いで病院へ運び込まれた。
病院ではすぐに検査が行われ、コーネルの脳が大きく腫れていると診断を受けた。
マリカは、自分に起こったこと、リアナとレオンという二つの人格がコーネルの脳に存在していたこと、そして彼らの細胞が脳を圧迫していることを全て医師に伝えた。
医師はマリカの言葉を真剣に聞き、事態の緊急性と特殊性を悟った。
すぐに王国に連絡を取り、高名な魔法医師団を招集してくれた。
時間との戦いの中、緊急手術が執り行われた。
手術室の前の長い廊下で、マリカはただ祈り続けた。どうか、コーネルが無事でありますように。そして、リアナとレオンの願いが、彼の未来へと繋がりますように、と。
3日後、手術から目覚めたコーネルは、穏やかな表情でマリカを見つめた。
彼の瞳には、かつてリアナやレオンが見せていた特定の強い個性の片鱗はもう見られない。
彼の中に存在していた三つの人格は、痛みと共に消え去ったのだろうか……。
コーネル本人には、リアナとして過ごした一日の記憶も、レオンとしての深い愛情も、直接的な鮮明さでは残っていなかった。
でもマリカにはリアナとレオンがコーネルの中に存在している気がした。
朝、食卓に並んだパンを見たコーネルが、何気なく丸いパンを避けた時にコーネルが言った。
「甘いから、そんなの食べたら眠くなっちゃうよ」
と、リアナが言っていたのと同じことを言った。
マリカが冗談を言った時に、以前のコーネルよりも少しだけ優しい眼差しを向けてくる。
そして何より、彼の仕草や行動の端々に、リアナとレオンがマリカを想い、愛した痕跡が、確かに息づいているように感じられたからだ。
コーネルは退院し、以前の彼よりも、どこか物事を深く理解し、より男らしく、そして繊細で優しい男になっていた。
彼の穏やかな眼差しには、これまで経験した全てが溶け込んでいるかのようだった。
マリカは、目の前にいるこの「新しいコーネル」が、何よりも愛おしく、大好きだった。
過去の全てを包み込み、そして未来へと進む、かけがえのない自分の夫として。
その日の朝、コーネルが玄関の戸に手をかけ、
「じゃあ、マリカ、行ってくるよ」
といつものように声をかけた。戸が閉まる寸前、マリカはそっと、しかしはっきりと呼びかけた。
「いってらっしゃい、コーネル」
一度閉まった戸が、ゆっくりと、開いた。
そこに立っていたのは、驚きと少しの寂しさ、そして何よりも深く感謝するような穏やかな表情のコーネルだった。
彼の瞳の奥には、確かにリアナとレオンの記憶が、優しく灯っているように見えた。
「言い忘れた」
「なに?」
「愛してるよ、マリカ」
そう言うとゆっくりと戸がしまった。
「私も、愛してるわ、コーネル」
完
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