道化の世界探索記

黒石廉

文字の大きさ
36 / 148
第1部2章 捜索任務

033 ミッションブリーフィング

しおりを挟む
 酒場で依頼の概要を聞いて、引き受ける旨を伝える。
 依頼は薬師の救出か、亡くなっている場合は遺品の回収と状況の報告。
 遺品として指定されたのは彼の指輪かネックレスだ。どちらも家族が確認をするらしい。

 報酬は成功報酬で救出で銀貨150枚、遺品の回収で銀貨100枚。
 この手の依頼では生存者を救出せずに勝手に「遺品」を回収しようとする不届き者もいたらしく、救出対象の生存か死亡かで報酬額を変えるのが通例だという。

 酒場のオヤジは「本当に受けるのか?」と念を押してくる。
 「私たちにとっては大金ですから、頑張ってやりますよ」
 「大金だからこそ念押ししたんだよ」
 妙に含みがある言葉だけど、今回は表向きはともかく報酬に惹かれて受けるわけではないので、とりあえず適当に返事をしておくことにした。

 行方不明になったと思われるのは首都から一週間ほどのところにある山。
 
 ここに生息する危険生物にヤマバシリという大型の鳥がいる。
 人より大きい肉食の鳥類で、羽根が退化して飛べない代わりに脚力が発達している。聞いた話や絵から見ると鳥というより恐竜、あるいは有名RPGの黄色い鳥っぽい。もちろん、羽毛は黄色くない。
 このヤマバシリ、危険生物といっても、冬の終わりの産卵時期からヒナが独り立ちする初夏までの約3ヶ月を除けば、人を襲うような凶暴性を示したりはしないそうだ。
 今はすでに夏、親鳥の警戒もとっくに解けているはずだから考えにくいという。

 他の危険要因はゴブリンか山賊か。

 ゴブリンが人間の勢力圏の中心近くにやってくることはあまりないが、俺たちの初仕事のように可能性はないわけではない。とはいえ、ゴブリンが武装した探索隊をむやみに襲うかといえば、そこには疑問が生じる。

 もう1つの可能性として考えられるのが山賊だが、見るからに富裕層の人間や旅商人を襲うのならいざしらず、薬草採集中の薬師を襲うのは考えにくい。

 結局何だからわからないとしか言いようがない。

 依頼者である薬師の家族のところに契約をしにいく。
 薬師の家は西の市場よりさらに外側にあった。
 乱雑に組まれた木組みの上に土を塗りたくった壁、この街での典型的な粗末な家だ。
 お世辞にも裕福とはいえない家だ。
 通りに面した側はがたがたの扉が開け放たれており、中にはカウンターがある。開け放たれた扉の上には薬草のようなものがいくつもぶら下がっている。これが看板代わりらしい。
 中には白髪の多い中年の女性が一人座っていた。白髪の頭は後ろで束ねているが、ところどころほつれた毛が出ている。彼女はほつれた毛を指でつまむとむしっている。
 客はいない。白髪の女性は1人で髪の毛をむしり続けている。

 「こんにちは」
 俺たちは挨拶をして中に入る。
 彼女はこちらをちらりと見ると、すぐに目をそらす。
 精気がない。見るからに疲れていて、周囲の出来事に関心がなくなっているようだった。
 でも、用件を告げると、途端に態度が変わった。

 「お願いです。うちの人を助けてください。あの人がいないと、私たちは生活ができません」
 
 店の裏の寝室に通される。寝室では子どもが二人じゃれあっていたが、「外で遊んできなさい」という母の声で子どもたちは外へと追い出される。

 「あの子たちには何もまだ伝えていないんです。あの子たちのためにも、はやくうちの人を連れ帰ってきてください。お願いします。本当にあなたたちだけが頼りなんです。お願いします」
 彼女の早口の懇願に俺たちはたじろいでしまう。
 それでも、サゴさんが話を先に進めようとしてくれる。
 
 「仕事内容の確認を最初にお願いします。仕事の内容はご主人の救出、ご主人が亡くなっていた場合は指輪かネックレスを遺品として持ち帰るということでよろしいですね」
 「はい。うちの人を連れ帰ってきてください。あの人がいないと困るんです」
 どうも話が噛み合っていない……。
 俺はサゴさんに目配せをする。
 「報酬は救出で銀貨150枚、遺品の回収の場合は銀貨100枚とうかがっています。それで間違いありませんか?」
 「うちの人を連れ帰ってきてくだされば、お礼は必ずします。お願いします」
 やはり話が噛み合っていない。
 チュウジが俺の脇腹をひじで小突いた。
 嫌な役割だが確認をする。
 「最善を尽くします。それで万が一の話なんですが、ご主人が亡くなっていた場合は遺品の回収で銀貨100枚いただけるということでよろしいでしょうか?」
 薬師の妻はこちらをにらむ。
 「うちの人が死んでいるっていうんですか? お金はあります!」
 そう言ってベッドの下の鍵付きの箱を開けて、中から袋を取り出して見せる。
 何枚あるかは分からないが銀貨が詰まっていた。
 「数えたら良いんですか?」
 「いえ、失礼しました。疑うような言い方をしてしまったことを謝罪します」
 目を血走らせてこちらをにらむ女性に俺は深々と頭を下げる。

 「探索地域となる山について教えてください。あたしたちはご主人のように山に詳しくありません。詳しいお話を聞かないと、救助を待つご主人のところにたどり着けません」
 ミカが助け舟を出してくれる。
 ミカの言葉に薬師の妻は少し落ち着いたようだ。
 
 薬師の妻は自分が一緒に採集していたのは以前のことだけどと前置きした上で次のような話をしてくれた。
 「山の中腹に小さな洞穴があるんです。大型の野生動物は入れないし、小型の野生動物も洞窟の前で火をたけば寄ってこない。うちの人が隠れるとしたら、おそらくそこだと思います。あそこには緊急時用の備えも多少あるはずですから」
 簡単な地図を書いてくれた。これがどこまで役に立つのかはよくわからないが、
 また今の時期はヤマバシリのヒナや卵を狙うゴブリンもいないこと、ヤマバシリも穏やかな時期であるとして、山賊に襲われたか護衛が裏切ったのではないかと言い出した。

 護衛が裏切ったという話を聞いたときにミカが拳をぎゅっとにぎりしめたのがわかった。
 そっと彼女の拳の上に手を乗せる。

 おそらく必要な情報はもう手に入ったはずだ。
 「我らに任せれば安心だ。奥方はご主人の帰りをここで待っていると良い」
 チュウジが話を切り上げ、俺たちは外へ出た。

 「どうも嫌な感じだな」
 「だが、それでも我らがやるべきことは変わらない。そうではないか?」
 ミカとサゴさんが無言でうなずく。
 「出発は明朝。市場で保存食を買って荷造りをしよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...