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第2部1章 指と異端と癒し手と
067 スニークアタック&アサルト 適応
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夜の闇に乗じて、俺たちは進む。
奇襲、強襲、手段は問わず、屋敷を制圧せよというのが俺たちに与えられた指令だ。手段を問わないならば、こちらに被害が出にくい方法が良い。だから、闇にまぎれて奇襲をすることになった。
鎖かたびらが擦れる音がやけに大きく聞こえる。
幸いなことに見張りの練度は高くないようで今のところ気づかれていない。
だからといって、ステルスゲームのように背後から短剣で一差しというわけにはいかない。
見張りのもっている光源を頼りに場所と数を推測する。
おそらく3人。
「そろそろ裏口のタケイさんたちも動き出す頃です」
サゴさんが弓をひきしぼりながら言う。俺たちのクロスボウはすでに引き絞った状態で固定してあるので射つだけ。俺はハンドジェスチャーでそれぞれが狙う相手を示す。
小声でカウントダウン。
「5、4、3、2、1、射て」
俺の合図とともに弓とクロスボウから矢が放たれる。
どすんという音がする。見張りが倒れるたようだ。
残念なことに俺たちの練度では全員を倒すとまではいかない。
「敵襲っ! 敵襲! 開けろっ!」
暗がりで叫ぶ声がする。
「わーって突進だ。みんな行くぞっ!」
全員で突進する。
どうやら射ち漏らしたのは1人のようだ。
肩口と太ももから矢を生やした見張りが叫びながら扉を叩いている。
その首を戦斧で殴りつける。
軽装の見張りの首は鮮血をまき散らしながら、変な方向を向く。
余計なことを考えるな。
余計なことを考えたら大切な仲間が倒れる。
裏口側でも叫び声が聞こえる。向こうも奇襲で倒しきれなかったようだ。
「いまさらだけど奇襲から強襲に変更。待ち構えてると思って用心して行こう。クロスボウは引いておくこと。あとは命を大事に! そして迷うな! 迷ったら仲間が死ぬぞ!」
俺は自分に言い聞かせるようにして叫ぶ。
正面の扉をあける。
玄関ホールにばらばらと男たちが出てくるところだった。
武器を携えているものの、皆軽装である。鎧をつける暇がなかったのだろう。
「射てっ!」
俺の合図で矢が放たれる。
2人の男が倒れ込む。
残り5人。
「前衛突撃、後衛は扉にカンヌキをかけて周囲警戒!」
今回はパーティーを前衛と後衛に分けることにした。
サチさんは俺たちの生命線だが、本人の戦闘能力は高くない。
彼女を一人にしておくとなにかあった時にパーティーが崩壊しかねない。
だから、サゴさんにサチさんのガードをしてもらうことにした。
彼は小弓を持っているので、クロスボウ装備の俺たちよりも連射速度がきくし、いざとなったら酸のブレスで相手をまとめて足止めできる。
「打ち倒せっ!」
掛け声とともに俺とミカ、チュウジの3人が突進する。
俺は戦斧の両手持ち、ミカはメイスと鉄で覆われた大盾、チュウジは円盾と小剣で武装している。
ミカが戦鎚を持った男に盾を構えたまま突進する。
彼女は男を盾で吹き飛ばすと、そのままメイスをふりまわして、剣を持った男を牽制する。
チュウジは手斧を持った男とやりあっている。
俺の戦斧の一撃は剣と盾で武装した男の盾に阻まれる。
脇から別の男の小剣が打ち込まれる。
多少の衝撃がくるが、それだけだ。
鎖かたびらを着た時と軽装のときとでは戦い方が違う。
トマさんに習ったことを自分に言い聞かせながら、戦斧をもう一度振るう。
男の盾に戦斧が食い込む。
相手が右手の剣を振り上げた時にそのまま体当りして近くの壁に押し込む。
相手の剣が肩をかすめるが、振りきれなかった一撃は俺に多少の衝撃を与えるにとどまる。
膝蹴りを1発。
膝蹴りを2発。
敵の体がくの字にまがる。
短剣を抜くと、相手の脇腹に何度も何度も突き刺す。
くの字にまがった体が揺れて、短剣と小手を血に染める。
うめいて崩れ落ちる男を蹴飛ばす。
まずは一人。
視界の端につっこんでくる敵の姿がうつる。
敵の盾に食い込んだ戦斧はそのままにして、左手で片刃の剣を抜く。
俺が剣を構えたのをみて、相手は動きをとめる。
相手の武器を見た俺は腰から片刃の短剣も抜いて構え直す。
俺も両手に武器、小剣の男も左手に短剣を構えた二刀の構え。
あの妙な形の短剣は見覚えがある。
ギザギザの刃、相手の剣を絡め取るようにつくられただろう十手のカギのような鐔の短剣。
俺の口を裂いてくれやがった人さらいが使っていた武器だ。
「てめぇのせいで口が裂けたぞ……」
俺は構えながら、相手に話しかける。
返事はない。
じりじりと相手がさがる。
こちらは鎖かたびら、相手は鎧なし。
振りかぶった左手の長剣を一瞬だけぐっと上に動かす。
俺の攻撃がくると思ったのか、相手はそれを絡め取ろうとソードブレイカーを突き出す。
すかさずそこに右手の短剣をあわせていく。
長剣を絡め取ろうとしていただろう相手のソードブレイカーが俺の短剣につられる。
ギザギザの刃が俺の短剣を絡め取ろうとしているところに、俺は左手の長剣を振り下ろす。
ソードブレイカーは相手の腕ごと床にぼとりと落ちる。
俺も絡め取られた短剣を地面に落とす。
恐怖の表情を見せて身を翻した相手の背中を両手で袈裟懸けに斬る。
相手の背骨に刃が食い込む感触がして、相手が倒れる。
俺は残虐にだってなれる。
俺は適応できている。
おれはこの世界の流儀を理解している!
倒れた相手の首に長剣を突き刺し、トドメをさすとミカのほうに走り寄る。
ミカが再び盾で男の一人を殴り飛ばす。
バランスを崩してよろけた男の背中に俺は剣を腰だめに構えたまま突進する。
腹から刃が出てきたことに驚いたのか、首をこちらに向けながら倒れかかってくる男を蹴り飛ばして、剣をひき抜く。
ミカの相手をしているもう1人の男にサゴさんの矢が当たる。
うめく男を前に振りかぶった彼女のメイスが一瞬止まる。
「迷うなっ!」
そう叫びながら相手を切り倒し、倒れたところを滅多突きにする。
迷うなと叫んではみたが、君の手は少しでも白くあってほしい。
肩で息をしたチュウジが「終わったぞ」とこちらを向く。
チュウジの前には男が倒れている。
奥から大男たちがこちらにやってくる。
増援かと一瞬焦ったが、あちらは裏口の方である。
大男の集団はタケイ隊だった。
「俺たちは2階の探索。君たちはこの階を調べてくれ」
そう言われて俺たちは1回の探索を始めた。
2階には敵がまだ残っていたようで少し怒号が聞こえたが1階には抵抗する者は居なかった。
抵抗する者はいないが、降伏するものは居た。
俺たちは屋敷の使用人5人と修道士2人を捕虜にした。
彼らを縛ってから、タケイさんたちと合流する。
彼らも5人とも無傷だ。
その後の探索の結果、真新しい絨毯の下に隠された扉を見つけた。
奇襲、強襲、手段は問わず、屋敷を制圧せよというのが俺たちに与えられた指令だ。手段を問わないならば、こちらに被害が出にくい方法が良い。だから、闇にまぎれて奇襲をすることになった。
鎖かたびらが擦れる音がやけに大きく聞こえる。
幸いなことに見張りの練度は高くないようで今のところ気づかれていない。
だからといって、ステルスゲームのように背後から短剣で一差しというわけにはいかない。
見張りのもっている光源を頼りに場所と数を推測する。
おそらく3人。
「そろそろ裏口のタケイさんたちも動き出す頃です」
サゴさんが弓をひきしぼりながら言う。俺たちのクロスボウはすでに引き絞った状態で固定してあるので射つだけ。俺はハンドジェスチャーでそれぞれが狙う相手を示す。
小声でカウントダウン。
「5、4、3、2、1、射て」
俺の合図とともに弓とクロスボウから矢が放たれる。
どすんという音がする。見張りが倒れるたようだ。
残念なことに俺たちの練度では全員を倒すとまではいかない。
「敵襲っ! 敵襲! 開けろっ!」
暗がりで叫ぶ声がする。
「わーって突進だ。みんな行くぞっ!」
全員で突進する。
どうやら射ち漏らしたのは1人のようだ。
肩口と太ももから矢を生やした見張りが叫びながら扉を叩いている。
その首を戦斧で殴りつける。
軽装の見張りの首は鮮血をまき散らしながら、変な方向を向く。
余計なことを考えるな。
余計なことを考えたら大切な仲間が倒れる。
裏口側でも叫び声が聞こえる。向こうも奇襲で倒しきれなかったようだ。
「いまさらだけど奇襲から強襲に変更。待ち構えてると思って用心して行こう。クロスボウは引いておくこと。あとは命を大事に! そして迷うな! 迷ったら仲間が死ぬぞ!」
俺は自分に言い聞かせるようにして叫ぶ。
正面の扉をあける。
玄関ホールにばらばらと男たちが出てくるところだった。
武器を携えているものの、皆軽装である。鎧をつける暇がなかったのだろう。
「射てっ!」
俺の合図で矢が放たれる。
2人の男が倒れ込む。
残り5人。
「前衛突撃、後衛は扉にカンヌキをかけて周囲警戒!」
今回はパーティーを前衛と後衛に分けることにした。
サチさんは俺たちの生命線だが、本人の戦闘能力は高くない。
彼女を一人にしておくとなにかあった時にパーティーが崩壊しかねない。
だから、サゴさんにサチさんのガードをしてもらうことにした。
彼は小弓を持っているので、クロスボウ装備の俺たちよりも連射速度がきくし、いざとなったら酸のブレスで相手をまとめて足止めできる。
「打ち倒せっ!」
掛け声とともに俺とミカ、チュウジの3人が突進する。
俺は戦斧の両手持ち、ミカはメイスと鉄で覆われた大盾、チュウジは円盾と小剣で武装している。
ミカが戦鎚を持った男に盾を構えたまま突進する。
彼女は男を盾で吹き飛ばすと、そのままメイスをふりまわして、剣を持った男を牽制する。
チュウジは手斧を持った男とやりあっている。
俺の戦斧の一撃は剣と盾で武装した男の盾に阻まれる。
脇から別の男の小剣が打ち込まれる。
多少の衝撃がくるが、それだけだ。
鎖かたびらを着た時と軽装のときとでは戦い方が違う。
トマさんに習ったことを自分に言い聞かせながら、戦斧をもう一度振るう。
男の盾に戦斧が食い込む。
相手が右手の剣を振り上げた時にそのまま体当りして近くの壁に押し込む。
相手の剣が肩をかすめるが、振りきれなかった一撃は俺に多少の衝撃を与えるにとどまる。
膝蹴りを1発。
膝蹴りを2発。
敵の体がくの字にまがる。
短剣を抜くと、相手の脇腹に何度も何度も突き刺す。
くの字にまがった体が揺れて、短剣と小手を血に染める。
うめいて崩れ落ちる男を蹴飛ばす。
まずは一人。
視界の端につっこんでくる敵の姿がうつる。
敵の盾に食い込んだ戦斧はそのままにして、左手で片刃の剣を抜く。
俺が剣を構えたのをみて、相手は動きをとめる。
相手の武器を見た俺は腰から片刃の短剣も抜いて構え直す。
俺も両手に武器、小剣の男も左手に短剣を構えた二刀の構え。
あの妙な形の短剣は見覚えがある。
ギザギザの刃、相手の剣を絡め取るようにつくられただろう十手のカギのような鐔の短剣。
俺の口を裂いてくれやがった人さらいが使っていた武器だ。
「てめぇのせいで口が裂けたぞ……」
俺は構えながら、相手に話しかける。
返事はない。
じりじりと相手がさがる。
こちらは鎖かたびら、相手は鎧なし。
振りかぶった左手の長剣を一瞬だけぐっと上に動かす。
俺の攻撃がくると思ったのか、相手はそれを絡め取ろうとソードブレイカーを突き出す。
すかさずそこに右手の短剣をあわせていく。
長剣を絡め取ろうとしていただろう相手のソードブレイカーが俺の短剣につられる。
ギザギザの刃が俺の短剣を絡め取ろうとしているところに、俺は左手の長剣を振り下ろす。
ソードブレイカーは相手の腕ごと床にぼとりと落ちる。
俺も絡め取られた短剣を地面に落とす。
恐怖の表情を見せて身を翻した相手の背中を両手で袈裟懸けに斬る。
相手の背骨に刃が食い込む感触がして、相手が倒れる。
俺は残虐にだってなれる。
俺は適応できている。
おれはこの世界の流儀を理解している!
倒れた相手の首に長剣を突き刺し、トドメをさすとミカのほうに走り寄る。
ミカが再び盾で男の一人を殴り飛ばす。
バランスを崩してよろけた男の背中に俺は剣を腰だめに構えたまま突進する。
腹から刃が出てきたことに驚いたのか、首をこちらに向けながら倒れかかってくる男を蹴り飛ばして、剣をひき抜く。
ミカの相手をしているもう1人の男にサゴさんの矢が当たる。
うめく男を前に振りかぶった彼女のメイスが一瞬止まる。
「迷うなっ!」
そう叫びながら相手を切り倒し、倒れたところを滅多突きにする。
迷うなと叫んではみたが、君の手は少しでも白くあってほしい。
肩で息をしたチュウジが「終わったぞ」とこちらを向く。
チュウジの前には男が倒れている。
奥から大男たちがこちらにやってくる。
増援かと一瞬焦ったが、あちらは裏口の方である。
大男の集団はタケイ隊だった。
「俺たちは2階の探索。君たちはこの階を調べてくれ」
そう言われて俺たちは1回の探索を始めた。
2階には敵がまだ残っていたようで少し怒号が聞こえたが1階には抵抗する者は居なかった。
抵抗する者はいないが、降伏するものは居た。
俺たちは屋敷の使用人5人と修道士2人を捕虜にした。
彼らを縛ってから、タケイさんたちと合流する。
彼らも5人とも無傷だ。
その後の探索の結果、真新しい絨毯の下に隠された扉を見つけた。
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