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第3部1章 探索稼業
スケッチ III 背くらべ
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はじめての出会いは悪臭漂う洞窟の中、体を丸めてうめいていた。
元気になった彼は私よりも背が低かった。
169センチメートル、私は4センチメートルいつもサバを読んでいる。
4センチはサバを読みすぎかなと思うけれど、160台は死守しなければならない。
無理めのサバ読みのせいでつい猫背になりがちだ。
親友と言ってもいいくらいに仲の良くなった子は私を羨ましがるが、私から見ると彼女のほうが羨ましい。
小柄な子のほうが可愛く見える。
小柄な彼女の横を歩く男の子がちょっと背中を丸めて小柄な彼女に精一杯合わせようとしているところとか、私から見ると夢のような光景だ。
「モデルさんみたいね」
でも、モデルになんかなれない。
顔は地味だし、そもそもモデルとして見たら私の背は低すぎる。
「バレー部?」
バレーボールの選手だって、私より背の高い人ばかりだ。
なんとも中途半端な173という数字。
男子の平均身長よりは高く、背の高さを活かすほどには高くない。
可愛い服を探すのは大変で、モデルのようには着こなせない。
洞窟で助けた、そして洞窟から助け出してもらった男の子は可愛らしい子だった。
彼の悪友(親友の小柄な子の横を歩いている背の高い子だ)は「呪いの人形」とか「呪われた座敷わらし」とかひどいことを言っているが、それも半分は当たっている。
整った顔立ちをしているし、日焼けしていても色白なのはわかるし、髪はさらさらだ。
年下で私よりも小柄な子のさらさらな髪をわしゃわしゃとすると赤くなるところが可愛い。
格好良いと思ってしている妙な喋り方もちょっと可愛い。
最年少なのに一生懸命頑張っているところも可愛い。
こんな弟がいたら、お姉さんは愛でまくっちゃうぞとか思ってしまう。
この弟君はインテリ家系の出身で年不相応に博識で折口信夫にはまった私とよく話があった。
実は私の腐女子趣味は折口信夫の影響もあるのだ。
腐女子仲間に言っても多分わかってもらえないし、真面目な人に言ったら怒られそうだから誰にも言っていないけど。
可愛い弟君は私についてくるようになった。
多分、私のことをお姉さんとしてではなく女性として好意を持ってくれているような気がする。私は彼をどう思っているのだろう。自分の気持なのによくわからない。よくわからないということは、相手に向き合うだけの覚悟もないのだろう。
誤解させたら悪いなと思っていたら、ある日、綺麗なネックレスをくれた。
もらったときの感情は「困ったな」ではなかった。
私、喜んでいる?
ろくな恋愛経験もない私はお姉さんとか余裕ぶっているだけだった。
でも、この子は自分よりずいぶんと背の高い子とか大丈夫なのかしら?
そう思うと複雑な気分だった。
それでもいろいろな話をしながら一緒に歩くのは楽しかった。
だから、ずっと友達以上なんとか未満という関係で一緒に歩き続けた。
一緒にいると成長というのは気がつかない。
こちらに来た時に成長期が終わっていた私と違って彼は成長し続けた。
白いお人形さんみたいな顔にいつの間にか生えたヒゲを不器用な手付きで剃っていることもあった。
ふと気がつくと、彼の背丈はずいぶんと高くなっていた。
私と変わらないくらいかもしれない。
「背くらべ、しましょうか?」
そう言う私に彼は胸をはる。
もうボクのほうが高くなったと思うよ。
彼は私と二人きりのときは一人称も話し方もずいぶんとかわった。
そのほうが良いのにというと、なんか今更変えられなくてと顔を赤らめる。
白い顔を赤らめる彼は可愛らしい。
でも、そんなことは言い出せない。
二人で背中合わせになる。
自分の頭に手をやると低くなれと念じながらぐっと押し込む。
そして、後ろにずらしていく。
さらさらとした髪につつまれた後頭部に私の親指が当たった。
嬉しくて振り返ると、彼は不自然な姿勢で私を避けようとしていた。
男の子ってやつはこれだから……。
そして先日。
自分より背の高くなった子が壁ドンしてきた。
ドキドキする。
古文の授業で光源氏が気持ち悪いと思ったあのときの私、あいつを紫式部に謝らせたい。
物語の中に入れるならば、光る君にも謝らせたい。
彼かっこいい。
「最近、猫背じゃないね」
親友が言う。
「隣を歩いてくれてる子のおかげかな」
彼女が眼をきらきらと輝かせながら、全部話しなさいと言う。
こちらの世界で再会した近所の優しいお姉ちゃんが「恋バナにアタシを混ぜないとかありえないから」って叫びながら近づいてくる。叫ぶのはやめてほしい。2人には話せても他の人に聞かれたら恥ずかしいもの。
ああ、今夜は寝かせてもらえないかな。
元気になった彼は私よりも背が低かった。
169センチメートル、私は4センチメートルいつもサバを読んでいる。
4センチはサバを読みすぎかなと思うけれど、160台は死守しなければならない。
無理めのサバ読みのせいでつい猫背になりがちだ。
親友と言ってもいいくらいに仲の良くなった子は私を羨ましがるが、私から見ると彼女のほうが羨ましい。
小柄な子のほうが可愛く見える。
小柄な彼女の横を歩く男の子がちょっと背中を丸めて小柄な彼女に精一杯合わせようとしているところとか、私から見ると夢のような光景だ。
「モデルさんみたいね」
でも、モデルになんかなれない。
顔は地味だし、そもそもモデルとして見たら私の背は低すぎる。
「バレー部?」
バレーボールの選手だって、私より背の高い人ばかりだ。
なんとも中途半端な173という数字。
男子の平均身長よりは高く、背の高さを活かすほどには高くない。
可愛い服を探すのは大変で、モデルのようには着こなせない。
洞窟で助けた、そして洞窟から助け出してもらった男の子は可愛らしい子だった。
彼の悪友(親友の小柄な子の横を歩いている背の高い子だ)は「呪いの人形」とか「呪われた座敷わらし」とかひどいことを言っているが、それも半分は当たっている。
整った顔立ちをしているし、日焼けしていても色白なのはわかるし、髪はさらさらだ。
年下で私よりも小柄な子のさらさらな髪をわしゃわしゃとすると赤くなるところが可愛い。
格好良いと思ってしている妙な喋り方もちょっと可愛い。
最年少なのに一生懸命頑張っているところも可愛い。
こんな弟がいたら、お姉さんは愛でまくっちゃうぞとか思ってしまう。
この弟君はインテリ家系の出身で年不相応に博識で折口信夫にはまった私とよく話があった。
実は私の腐女子趣味は折口信夫の影響もあるのだ。
腐女子仲間に言っても多分わかってもらえないし、真面目な人に言ったら怒られそうだから誰にも言っていないけど。
可愛い弟君は私についてくるようになった。
多分、私のことをお姉さんとしてではなく女性として好意を持ってくれているような気がする。私は彼をどう思っているのだろう。自分の気持なのによくわからない。よくわからないということは、相手に向き合うだけの覚悟もないのだろう。
誤解させたら悪いなと思っていたら、ある日、綺麗なネックレスをくれた。
もらったときの感情は「困ったな」ではなかった。
私、喜んでいる?
ろくな恋愛経験もない私はお姉さんとか余裕ぶっているだけだった。
でも、この子は自分よりずいぶんと背の高い子とか大丈夫なのかしら?
そう思うと複雑な気分だった。
それでもいろいろな話をしながら一緒に歩くのは楽しかった。
だから、ずっと友達以上なんとか未満という関係で一緒に歩き続けた。
一緒にいると成長というのは気がつかない。
こちらに来た時に成長期が終わっていた私と違って彼は成長し続けた。
白いお人形さんみたいな顔にいつの間にか生えたヒゲを不器用な手付きで剃っていることもあった。
ふと気がつくと、彼の背丈はずいぶんと高くなっていた。
私と変わらないくらいかもしれない。
「背くらべ、しましょうか?」
そう言う私に彼は胸をはる。
もうボクのほうが高くなったと思うよ。
彼は私と二人きりのときは一人称も話し方もずいぶんとかわった。
そのほうが良いのにというと、なんか今更変えられなくてと顔を赤らめる。
白い顔を赤らめる彼は可愛らしい。
でも、そんなことは言い出せない。
二人で背中合わせになる。
自分の頭に手をやると低くなれと念じながらぐっと押し込む。
そして、後ろにずらしていく。
さらさらとした髪につつまれた後頭部に私の親指が当たった。
嬉しくて振り返ると、彼は不自然な姿勢で私を避けようとしていた。
男の子ってやつはこれだから……。
そして先日。
自分より背の高くなった子が壁ドンしてきた。
ドキドキする。
古文の授業で光源氏が気持ち悪いと思ったあのときの私、あいつを紫式部に謝らせたい。
物語の中に入れるならば、光る君にも謝らせたい。
彼かっこいい。
「最近、猫背じゃないね」
親友が言う。
「隣を歩いてくれてる子のおかげかな」
彼女が眼をきらきらと輝かせながら、全部話しなさいと言う。
こちらの世界で再会した近所の優しいお姉ちゃんが「恋バナにアタシを混ぜないとかありえないから」って叫びながら近づいてくる。叫ぶのはやめてほしい。2人には話せても他の人に聞かれたら恥ずかしいもの。
ああ、今夜は寝かせてもらえないかな。
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