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第3部1章 探索稼業
108 妖かし鉱山
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「妖かし鉱山」、これが俺たちが向かう場所だ。
鉱山という名前の通り、中層で見つかった宝石を採掘するために採掘施設がここにある。
この採掘施設は2つのものを掘り当てて、その役目を終えた。
1つは「古代邸宅」と名付けられた迷宮、もう1つは怪物の出る穴である。
怪物を退治しようにも彼らの住処には人には通り抜けられないような通路を通らないとたどり着けず、かといって護衛付きで採掘すると採算が合わず、閉山することになった。
迷宮では遺物が発見されるが、少人数での行動を余儀なくされるため軍を派遣するというやり方ではうまくいかず、探索家たちの独壇場となったという。
「とうとうこの日がきました」
サゴさんが嬉しそうに3メートルほどの細い木の棒をふりまわす。
地下迷宮に入ることなんて思いつきもしなかった頃から彼は地下迷宮には棒が必要なんですと執拗に主張していた。
ようやく夢がかなって嬉しそうだ。
中をのぞく。
さすがに暗そうだ。
松明に火を灯す。
鉱山の中をしばらく歩くと十字路になった広場にたどり着く。
東に行くと採掘場、今でも宝石が採れるらしいし、鉱夫たちはつるはしなどの採掘道具ををそのままに逃げ帰ったので道具も揃っているらしい。ただし、グラティアの街が宝石の産地として有名でないことが意味するものには注意しなければいけないだろう。
西も採掘場だが、こちらは洞窟小人の屠殺場という物騒な名前がついている。
洞窟小人というのが、この怪物につけられた名前である。
ぬらりとした白い肌を持つ子どもほどの大きさの二足歩行する種で、彼らの「猟犬」とともに狩りに出てくるらしい。
「たくましい手足をもったウーパールーパー」
実際に交戦経験があるというタダミの表現はこうだった。
ウーパールーパーという言葉に反応できたのはサゴさんだけで他はぴんとこなかったが、サンショウウオの幼形成熟なのだそうだ。
白くて愛らしいその姿が昔テレビを席巻したという。
どう見ても俺と同世代のタダミが知っていたのには妙な理由があったが、それはとりあえず置いておこう。
「強さ自体はゴブリンよりも弱いくらいだけど、とにかく戦いにくいし、しぶとい。そして数が多い。見つかったら囲まれないうちにさっさと退散しろ」
これがタダミのアドバイスだった。
肌のぬめりが武器を滑らせる上に与えたはずなの傷がいつのまにか治っているという再生能力もちの厄介なやつだそうだ。それが次から次へと出てくるらしい。
「猟犬」の姿はタダミ曰く「ハダカデバネズミがぬめるようになった感じ」。
お前は珍獣博士か何かかと問う俺に対して「寮生活で動物ともテレビとも触れ合えなかったんだ」と訳のわからないことを言ったものだった。
帰省したときに撮りためておいてもらった大好きな動物番組を見続けているうちにこうなったとのことだ。
理由を聞いてもよくわからなかったが、「寮は地獄だ」とかやはり理解できないことしか言わなかったので放っておいた。
理解したところで別に得する話でもないし、ずっとやつと話していると耳がやられる。
この「猟犬」も強くはないが、よく訓練されているらしく厄介なのだそうだ。
どちらも目が退化しているが、その分聴力が発展しているので、怪しい気配がしたら、とりあえず息を殺せと言われた。
しかし、聴力が発展しているならば息を殺したぐらいではどうしようもないのではないか。
実際遭遇してみないとわからないことだらけだが、遭遇したいものでもない。
洞窟小人の屠殺場には2つ意味がある。
洞窟小人の大群と軍が交戦して、大量の小人を殺した場所というのが1つめの意味、もう1つの意味は洞窟小人によって兵士を含む大量の人間が殺戮されてきた場所を指し示すというものだ。
こちらにも採掘場があり、宝石もさらに採れやすいそうだが、大量の宝石を含んだ壁がほとんどそのままになっているのは、あたり一面が「屠殺場」の名を持つ危険地帯であるからだ。
「屠殺場は絶対に行かないようにしようぜ。屠殺場の外で洞窟小人に出会うのも危険だというのに、そいつらが大量に出てきそうな場所にわざわざ行くのは自殺行為だわ」
俺は当たり前の提案をする。
反対する者はもちろんいない。
北に進むと「古代邸宅」という建物にぶち当たるという。
「古代っていうより未来邸宅って言ったほうが良いんじゃないか」
というのがタダミの感想。
ここでは治療に使える遺物が多く見つかるという。
今回は採掘場を見物し、その後、古代邸宅の入り口くらいまで言って少しのぞいて帰還する。
話で聞いていても実際どのくらい危険なのかは、自分の肌感覚みたいなものでしかわからない。
今回の目的は肌感覚を妖かし鉱山にチューニングすることにある。
「というわけで右に進もう」
右の道はいくつか枝分かれしている。
枝分かれした先が行き止まりになっているところは採掘場であったところだ。
焚き火の後、朽ちたテント、壁にしつらえられた松明を挿す場所、乾いた血、錆びたつるはし、使えそうなつるはし、ノミとハンマー、折れた剣。
土の匂い、石の上にできる露のしめった匂い、灰の匂い。
岩壁には赤や青の綺麗な石がところどころに埋まっている。
採掘場の中で一番入り口に近いところで軽くまで戻ると壁に埋まる宝石を手で撫でる。
「拾えるとまでいかなくても岩壁にいくつも宝石が見える状態で埋まっている。それをそのままにしておくというのは明らかにおかしくないですか?」
サチさんが疑問を呈する。
確かにそのとおりだ。
「つるはしやノミでカンカンやると出るんでしょうね。洞窟小人ってやつが」
「採掘場が罠として機能している。そう見るのが良かろう」
「俺たちはチーズに釣られて罠につっこむネズミみたいなもんかよ。わかる、今ならわかる。罠にかかる動物の気持ちが。一個くらいなら掘れるんじゃないかなぁ……」
「そしたら、罠にかかってチューだよ。宝石はお金にしかならないし、あたしたちがここに来たのは遺物探索が目的だから」
綺麗な宝石が掘れたら、プレゼントにできるのになぁ……。
俺たちは涙を飲んで入口の方に戻る。
洞窟小人の聴覚がどれほどのものかはわからない。
もしかして話し声だけでも気づかれたのだろうか。
俺とミカとチュウジは無言で武器を構える。
そして、駆け出す。
松明の数が減って暗くなったが前にいるのが何なのかはわかる。
不運なことに俺たちは洞窟小人の一団と遭遇した。
幸運なこともある。遭遇した場所が入り口広場であったことだ。
俺の一撃が白くヌラヌラとした腕を削ぎ落とす。
イメージ的には肩口から袈裟懸けに斬りおろすはずだったのだが、逸れてしまう。
目のない白い頭は大きな口を開けて悲鳴のようなものをあげると飛び退く。
削ぎ落としたところから流れ出ていた血はあっという間にひき、ぶくぶくと何かが盛り上がるようにして傷をふさいでいる。
うわ、気味悪いわ、こいつ。
「いったん外に出るぞ。 サチさんとサゴさんを先頭に退避だ! 殿は俺!」
「と、あたしっ! 頭叩き潰すと動かないよ!」
金砕棒を振り回しながら、ミカが叫ぶ。
俺は目の前に走ってきた別のヌラヌラを蹴り飛ばすと、剣を収めてメイスに持ち帰る。
チュウジが毛もなく目もなく、耳もどこにあるかわからない、ソーセージに短い手足と頭を雑につけたような生き物に剣で斬りつけながら後退している。
「よし出られるぞ!」
ミカがのたうちまわるソーセージのような猟犬の頭を叩き潰したところで、俺は叫ぶ。
洞窟小人を一匹殴り倒し、もう1匹を前蹴りで蹴り飛ばす。
3匹目に足を取られて、俺は転ぶ。
転んだ俺を引きずっていこうとした洞窟小人たちを金砕棒の横殴りの一撃がまとめて吹っ飛ばす。
洞窟小人に引きずられることから逃れた俺はミカに引きずられたまま妖かし鉱山を出る。
「ありがとう」
俺は出口の木枠で打った腰をさすりながら礼を言った。
ふと目をやると足は変な粘液でべちゃべちゃだった。
「一度戻って対策を練るか」
最初に予定していた古代邸宅見学は諦めて、俺たちは帰還することにした。
こうして俺たちの中層初チャレンジはさしたる成果もなく終わった。
なお、サゴさんのダンジョン探査用の長い棒はその役目を果たす前に妖かし鉱山に消えた。
鉱山という名前の通り、中層で見つかった宝石を採掘するために採掘施設がここにある。
この採掘施設は2つのものを掘り当てて、その役目を終えた。
1つは「古代邸宅」と名付けられた迷宮、もう1つは怪物の出る穴である。
怪物を退治しようにも彼らの住処には人には通り抜けられないような通路を通らないとたどり着けず、かといって護衛付きで採掘すると採算が合わず、閉山することになった。
迷宮では遺物が発見されるが、少人数での行動を余儀なくされるため軍を派遣するというやり方ではうまくいかず、探索家たちの独壇場となったという。
「とうとうこの日がきました」
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地下迷宮に入ることなんて思いつきもしなかった頃から彼は地下迷宮には棒が必要なんですと執拗に主張していた。
ようやく夢がかなって嬉しそうだ。
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さすがに暗そうだ。
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鉱山の中をしばらく歩くと十字路になった広場にたどり着く。
東に行くと採掘場、今でも宝石が採れるらしいし、鉱夫たちはつるはしなどの採掘道具ををそのままに逃げ帰ったので道具も揃っているらしい。ただし、グラティアの街が宝石の産地として有名でないことが意味するものには注意しなければいけないだろう。
西も採掘場だが、こちらは洞窟小人の屠殺場という物騒な名前がついている。
洞窟小人というのが、この怪物につけられた名前である。
ぬらりとした白い肌を持つ子どもほどの大きさの二足歩行する種で、彼らの「猟犬」とともに狩りに出てくるらしい。
「たくましい手足をもったウーパールーパー」
実際に交戦経験があるというタダミの表現はこうだった。
ウーパールーパーという言葉に反応できたのはサゴさんだけで他はぴんとこなかったが、サンショウウオの幼形成熟なのだそうだ。
白くて愛らしいその姿が昔テレビを席巻したという。
どう見ても俺と同世代のタダミが知っていたのには妙な理由があったが、それはとりあえず置いておこう。
「強さ自体はゴブリンよりも弱いくらいだけど、とにかく戦いにくいし、しぶとい。そして数が多い。見つかったら囲まれないうちにさっさと退散しろ」
これがタダミのアドバイスだった。
肌のぬめりが武器を滑らせる上に与えたはずなの傷がいつのまにか治っているという再生能力もちの厄介なやつだそうだ。それが次から次へと出てくるらしい。
「猟犬」の姿はタダミ曰く「ハダカデバネズミがぬめるようになった感じ」。
お前は珍獣博士か何かかと問う俺に対して「寮生活で動物ともテレビとも触れ合えなかったんだ」と訳のわからないことを言ったものだった。
帰省したときに撮りためておいてもらった大好きな動物番組を見続けているうちにこうなったとのことだ。
理由を聞いてもよくわからなかったが、「寮は地獄だ」とかやはり理解できないことしか言わなかったので放っておいた。
理解したところで別に得する話でもないし、ずっとやつと話していると耳がやられる。
この「猟犬」も強くはないが、よく訓練されているらしく厄介なのだそうだ。
どちらも目が退化しているが、その分聴力が発展しているので、怪しい気配がしたら、とりあえず息を殺せと言われた。
しかし、聴力が発展しているならば息を殺したぐらいではどうしようもないのではないか。
実際遭遇してみないとわからないことだらけだが、遭遇したいものでもない。
洞窟小人の屠殺場には2つ意味がある。
洞窟小人の大群と軍が交戦して、大量の小人を殺した場所というのが1つめの意味、もう1つの意味は洞窟小人によって兵士を含む大量の人間が殺戮されてきた場所を指し示すというものだ。
こちらにも採掘場があり、宝石もさらに採れやすいそうだが、大量の宝石を含んだ壁がほとんどそのままになっているのは、あたり一面が「屠殺場」の名を持つ危険地帯であるからだ。
「屠殺場は絶対に行かないようにしようぜ。屠殺場の外で洞窟小人に出会うのも危険だというのに、そいつらが大量に出てきそうな場所にわざわざ行くのは自殺行為だわ」
俺は当たり前の提案をする。
反対する者はもちろんいない。
北に進むと「古代邸宅」という建物にぶち当たるという。
「古代っていうより未来邸宅って言ったほうが良いんじゃないか」
というのがタダミの感想。
ここでは治療に使える遺物が多く見つかるという。
今回は採掘場を見物し、その後、古代邸宅の入り口くらいまで言って少しのぞいて帰還する。
話で聞いていても実際どのくらい危険なのかは、自分の肌感覚みたいなものでしかわからない。
今回の目的は肌感覚を妖かし鉱山にチューニングすることにある。
「というわけで右に進もう」
右の道はいくつか枝分かれしている。
枝分かれした先が行き止まりになっているところは採掘場であったところだ。
焚き火の後、朽ちたテント、壁にしつらえられた松明を挿す場所、乾いた血、錆びたつるはし、使えそうなつるはし、ノミとハンマー、折れた剣。
土の匂い、石の上にできる露のしめった匂い、灰の匂い。
岩壁には赤や青の綺麗な石がところどころに埋まっている。
採掘場の中で一番入り口に近いところで軽くまで戻ると壁に埋まる宝石を手で撫でる。
「拾えるとまでいかなくても岩壁にいくつも宝石が見える状態で埋まっている。それをそのままにしておくというのは明らかにおかしくないですか?」
サチさんが疑問を呈する。
確かにそのとおりだ。
「つるはしやノミでカンカンやると出るんでしょうね。洞窟小人ってやつが」
「採掘場が罠として機能している。そう見るのが良かろう」
「俺たちはチーズに釣られて罠につっこむネズミみたいなもんかよ。わかる、今ならわかる。罠にかかる動物の気持ちが。一個くらいなら掘れるんじゃないかなぁ……」
「そしたら、罠にかかってチューだよ。宝石はお金にしかならないし、あたしたちがここに来たのは遺物探索が目的だから」
綺麗な宝石が掘れたら、プレゼントにできるのになぁ……。
俺たちは涙を飲んで入口の方に戻る。
洞窟小人の聴覚がどれほどのものかはわからない。
もしかして話し声だけでも気づかれたのだろうか。
俺とミカとチュウジは無言で武器を構える。
そして、駆け出す。
松明の数が減って暗くなったが前にいるのが何なのかはわかる。
不運なことに俺たちは洞窟小人の一団と遭遇した。
幸運なこともある。遭遇した場所が入り口広場であったことだ。
俺の一撃が白くヌラヌラとした腕を削ぎ落とす。
イメージ的には肩口から袈裟懸けに斬りおろすはずだったのだが、逸れてしまう。
目のない白い頭は大きな口を開けて悲鳴のようなものをあげると飛び退く。
削ぎ落としたところから流れ出ていた血はあっという間にひき、ぶくぶくと何かが盛り上がるようにして傷をふさいでいる。
うわ、気味悪いわ、こいつ。
「いったん外に出るぞ。 サチさんとサゴさんを先頭に退避だ! 殿は俺!」
「と、あたしっ! 頭叩き潰すと動かないよ!」
金砕棒を振り回しながら、ミカが叫ぶ。
俺は目の前に走ってきた別のヌラヌラを蹴り飛ばすと、剣を収めてメイスに持ち帰る。
チュウジが毛もなく目もなく、耳もどこにあるかわからない、ソーセージに短い手足と頭を雑につけたような生き物に剣で斬りつけながら後退している。
「よし出られるぞ!」
ミカがのたうちまわるソーセージのような猟犬の頭を叩き潰したところで、俺は叫ぶ。
洞窟小人を一匹殴り倒し、もう1匹を前蹴りで蹴り飛ばす。
3匹目に足を取られて、俺は転ぶ。
転んだ俺を引きずっていこうとした洞窟小人たちを金砕棒の横殴りの一撃がまとめて吹っ飛ばす。
洞窟小人に引きずられることから逃れた俺はミカに引きずられたまま妖かし鉱山を出る。
「ありがとう」
俺は出口の木枠で打った腰をさすりながら礼を言った。
ふと目をやると足は変な粘液でべちゃべちゃだった。
「一度戻って対策を練るか」
最初に予定していた古代邸宅見学は諦めて、俺たちは帰還することにした。
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