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第11話
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ダンジョン管理官、デフィ・アドミニスは、尖った耳をぴくりと動かして、その整った柳眉を釣り上げた。
「参ったわね。私が推薦する勇者くんが全然活躍してないじゃない」
長い金髪を結い上げ、同じく金色の瞳をせわしなくディスプレイに走らせている。
褐色の指先が、慣れない様子でキーボードをぽちぽちと操作した。自衛隊の制服を纏った豊かな胸が、窮屈そうにデスクの上に載せられている。
見た目は20代の妙齢といった美女。世界で一人しかいないダークエルフである彼女は、ダンジョンが発生してから約半世紀、長命であるがゆえ、地球の人間を不必要に驚かせないよう、時折魔法で姿形、名前を変えながら日本の自衛隊と連動して、ダンジョンを管理している人物だ。
ダンジョン災害が再び起きないように尽力し、有事の際にことに当たれる優秀な人材の発掘、育成が彼女の仕事である。
3つのディスプレイが並んでいる前で、目をすがめたり、顔をディスプレイから離したりしながら、デフィ管理官は独り言をつぶやいた。
「優秀な子は、こっちのイレギュラーに回しちゃったから、仕方ないと言えるのだけど……」
そう言う彼女のディスプレイには、ガイと、サトミ、アカリ、リンのプロフィールが浮かんでいた。別のディスプレイには勇者候補として大和田タケルのプロフィールも表示されている。その周辺には、各国から選び抜かれた人材のプロフィールも合わせて表示されていた。各国からの要請で、勇者候補のチームに入れるように圧力をかけられている。
勇者チームが今後日本の中枢として機能するなら、そこに1枚かませろ、という動きだった。そして、勇者がちゃんと機能しないのであれば、各国は自分の国ならば、日本よりもうまくダンジョンを管理できる、と主張を始めるだろう。その動きは今は大きくないが、確かに存在する。
「各国の圧力も煩くなるだろうし……テコ入れが必要かしら? あまり彼女らに活躍されて、手に負えなくなるのは、困るのよね……」
サトミらのプロフィールを一瞥しつつ、デフィ管理官は呟く。ディスプレイから顔を離し、事務作業で凝った身体をほぐすように、一つ伸びをした後、深く椅子に身を沈めた。
「イレギュラーくんと3英傑さんたちには、少し困難にぶつかって貰おうかしら?」
思い付きを実行に移すため、デスクにあった内線を手に取り、デフィは連絡を付けることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「今、俺たちは困難に直面しています……!」
ダンジョン実習後、初となる休日。朝食後に、ガイはリビングに集まったメンバーにそう言った。テーブルに座っている皆に、自分の席から力説するガイだったが、他の3人の視線には温度感があった。
「別に、いつも通り」
サトミは、そんな問題など存在しない、これまで通りだというニュアンスでそう言ってきた。確かにそうかもしれない。引っ越した後、脱いだものが脱ぎ散らかしっぱなしだったり、出したものはだしっぱなしで片付けが出来てない様は、いつも通りと言えるのかもしれない。だとしても事の発端ともいえる人物がそう堂々としないで欲しい。
「いつも通り……と言えるのではないでしょうか」
アカリは目を逸らしながらそう言った。彼女には思うところはあるのだろう。というより、事の一因を担っているのを自覚しているから、大きく否定も賛同もできないのかもしれない。
「無駄だろ、無駄」
リンは言っても無駄だろ、というニュアンス。その言葉の裏には、諦めも滲んでいるような気がした。
慣れがでてきた。新しい生活に。新しい隣人に。油断と妥協が出て来て、引っ越し当初はもう少し気を引き締めていたはずなのに、そういう空気はいつの間にか霧散していた。結果、部屋は荒れ果てた。
特に酷いのはサトミとアカリだった。
サトミはまあ、知っていた。彼女は興味が乗った時にしか家事をしないので波が激しいし、気にしない時はひと月ふた月、部屋が荒れ果てても気にしない。かと思えば魔法などを駆使して、びっくりするような速さと精度で家事をこなしたりする。
アカリは純粋に家事をしたことはないそうで、気付いた時や要請があったら、ガイが代替わりしている形だ。掃除は別に構わないのだが、下着の洗濯と片付けはできないので、リンに頼んで洗濯機の使い方だけは一番最初に覚えてもらった。
リンには迷惑をかけられていないが、完全に「自分の分だけやる」というスタンスなので、ガイの負担だけが大きいのである。
若干話の腰を折られたような雰囲気ではあったが、ガイは挫けずに続ける。
「改めて、共同生活のルールを決めておきたいと思う」
「まぁ、先に決めておくべきだったな」
ガイの提案に、リンが同調した。
「ああしろ、こうしろはいや」
「そこまでは考えてないよ」
サトミの我儘には軽く答えておき、ガイはホワイトボードを用意して、そこにマジックで「共同生活ルール」と書き込む。
「ルールとしては……」
・食事、洗濯、掃除など、自分のことは自分でやる。
・自室はパーソナルスペース。自分の荷物管理はその中で。
※用がなければ各人の部屋に入らない。入る時は許可を取る。
・キッチン、ダイニング、風呂、トイレ等の共同スペースの掃除は当番制。スケジュールアプリで管理する。人に交渉して交代をお願いするのはOK。
「なるほど……」
書き込んだホワイトボードを隣に座っていたアカリが覗き込み、真剣に目を通していた。改善への意欲はあるようだが、綺麗な眉根が寄せられているので、自信がないのかも知れない。
「近すぎ……」
ガイの隣席に座っていたアカリの動きに、対面側に座るサトミが不機嫌な声をあげた。アカリはその指摘で初めてガイとの距離感に気付き、きょとんとした。
「えっ……きゃっ!」
アカリはガイと至近距離で見つめ合ったあと、予想外に近すぎたせいか、赤くなって小さく声をあげた。避けるように離れ、顔を背けるアカリ。
避けられるような動きに、少しショックを受けつつも気を取り直す。
「他に何かある?」
ホワイトボードをテーブルの中央に滑らせ、全員が見えるようにする。対面側に座っていたリンがそれを見つつ、
「何かある、つっても、これじゃ大して今と変わらないんじゃないか?」
ガイもそこには自覚があった。明文化すれば多少変わるし、言われてないからやらない、状態を避ける狙いだ。やらないよりやった方がマシ、というのもある。また、少し案を出しておけば、他の人からも何か気になった点などが出てくるかもしれない。この議題における、話のネタだった。
「あまりガチガチに固めて、後でトラブルになるのもなぁって」
「ふーん。それはあるかもな? 何かあってから決めてもいいしな……」
現状、負担というか、被害がかかってくるのは家事を定期的にできるガイとリンだ。
「今と変わらないなら、いいよ」
「そうだね。サトミの世話はこれまで通りだけど、共有スペースに関する取り決めは、別途交渉だよ」
「えーっ」
サトミはぶぅたれて不満を表した。共有スペースまで対応をすると、下手すると週の半分くらいは共有スペースの家事をしていることになりそうだった。それは流石にいやだった。ガイとて、家事をしなくて済むならそうしたい。
「あの……すみません。取り決め自体には問題ないのですが……」
アカリが小さく手を挙げて、申し訳なさそうにしていた。ガイは何が言いたいのか察して、アカリに答える。
「あ、うん。できない家事に関しては、最初のうちは俺が教えるから、すこしづつ覚えていこう」
「だな、あたしもそこは協力する。できる人数増えた方が、後々楽だしな」
ガイの言葉に、リンも身を乗り出した。2人の言葉に、アカリは嬉しそうに手を合わせる。
「ありがとうございます……!」
その後も3人は今後のことで話合い、話が弾んだ。
「むぅ~……」
そんな3人を、サトミはふくれ面で眺めていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数日経って、ガイはみんなに提案したことに満足していた。
共有スペースの使い方を明文化したことで、部屋が劇的に改善したのだ。引っ越し当日と違って荷物はある。が、それらは整理され、掃除は行き届いて埃もない。快適な空間だ。
アカリに掃除洗濯、料理はおいおいという形で教えてきたことで、家事をする戦力が増えたのと、アカリは片付け方がわからなくて結果散らかしていた様子だったので、それがなくなったことで散らかること自体が減ったのが大きい。
リンも共有スペースのルールを決めたことで「自分の分だけやる」という感じの家事から変化があり、積極性が増えたように感じた。
授業を終えて帰ってきた時、家が清潔だと、それだけで嬉しい気がする。
(もっと早くすればよかったかも……)
リビングに入ると、アカリがテーブルを拭いて掃除していた。
「ガイさん、おかえりなさい」
「ただいま。掃除、お疲れ様」
「ありがとうございます。ですが、当番なので当たり前のことです」
その当たり前が非常に助かる、というのは共同生活の上で非常に感じる点だった。
「早く料理の方も覚えていきたいですね」
アカリは楽しそうにそう宣言した。そこまで楽しいのかな、とちょっと気になったのもあり、聞いてみる。
「楽しそうだね」
「はい。これまでは使用人がしてくれていたので……自分でできる、というのは思いのほか気持ちがいいものです」
ガイは納得した。
アカリは相当なお嬢様だったらしく、家事はそれ専門の使用人がついて回っていたため、この年までまったくしたことがなかったらしい。前のチームでもお付きの人間が居たとか。ガイの感覚では家事の専門とか、お付きの人とか全く想像ができなかった。メイドさんだろうか。
「そっか」
「次はお料理を覚えたいですね。今度ご教授お願いできますか?」
「それほど大した腕前ではないけど。何かリクエストはある?」
「これと言ってはありませんが……強いて言うなら、和食など覚えたいですね」
「和食かー」
そういえば、料理を作る時には簡単に作れるパスタとか、作り置きがしやすいしまとめて複数人分作りやすいカレーだとか、洋食よりに傾いていた気がする。
「わかった。何か考えてみる」
「ありがとうございます」
そんな風に話していると、自室からリビングにやって来たサトミが、呟いた。
「……仲、良さそう」
「そうかな。普通……だと思うけど」
「ガイは……」
「何?」
「いい、何でもない」
サトミはそう言って部屋に戻ってしまった。ガイは今のやり取りの意図がわからず、あ、ただいまって言いそびれたな、などと呑気に考えていた。
「参ったわね。私が推薦する勇者くんが全然活躍してないじゃない」
長い金髪を結い上げ、同じく金色の瞳をせわしなくディスプレイに走らせている。
褐色の指先が、慣れない様子でキーボードをぽちぽちと操作した。自衛隊の制服を纏った豊かな胸が、窮屈そうにデスクの上に載せられている。
見た目は20代の妙齢といった美女。世界で一人しかいないダークエルフである彼女は、ダンジョンが発生してから約半世紀、長命であるがゆえ、地球の人間を不必要に驚かせないよう、時折魔法で姿形、名前を変えながら日本の自衛隊と連動して、ダンジョンを管理している人物だ。
ダンジョン災害が再び起きないように尽力し、有事の際にことに当たれる優秀な人材の発掘、育成が彼女の仕事である。
3つのディスプレイが並んでいる前で、目をすがめたり、顔をディスプレイから離したりしながら、デフィ管理官は独り言をつぶやいた。
「優秀な子は、こっちのイレギュラーに回しちゃったから、仕方ないと言えるのだけど……」
そう言う彼女のディスプレイには、ガイと、サトミ、アカリ、リンのプロフィールが浮かんでいた。別のディスプレイには勇者候補として大和田タケルのプロフィールも表示されている。その周辺には、各国から選び抜かれた人材のプロフィールも合わせて表示されていた。各国からの要請で、勇者候補のチームに入れるように圧力をかけられている。
勇者チームが今後日本の中枢として機能するなら、そこに1枚かませろ、という動きだった。そして、勇者がちゃんと機能しないのであれば、各国は自分の国ならば、日本よりもうまくダンジョンを管理できる、と主張を始めるだろう。その動きは今は大きくないが、確かに存在する。
「各国の圧力も煩くなるだろうし……テコ入れが必要かしら? あまり彼女らに活躍されて、手に負えなくなるのは、困るのよね……」
サトミらのプロフィールを一瞥しつつ、デフィ管理官は呟く。ディスプレイから顔を離し、事務作業で凝った身体をほぐすように、一つ伸びをした後、深く椅子に身を沈めた。
「イレギュラーくんと3英傑さんたちには、少し困難にぶつかって貰おうかしら?」
思い付きを実行に移すため、デスクにあった内線を手に取り、デフィは連絡を付けることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「今、俺たちは困難に直面しています……!」
ダンジョン実習後、初となる休日。朝食後に、ガイはリビングに集まったメンバーにそう言った。テーブルに座っている皆に、自分の席から力説するガイだったが、他の3人の視線には温度感があった。
「別に、いつも通り」
サトミは、そんな問題など存在しない、これまで通りだというニュアンスでそう言ってきた。確かにそうかもしれない。引っ越した後、脱いだものが脱ぎ散らかしっぱなしだったり、出したものはだしっぱなしで片付けが出来てない様は、いつも通りと言えるのかもしれない。だとしても事の発端ともいえる人物がそう堂々としないで欲しい。
「いつも通り……と言えるのではないでしょうか」
アカリは目を逸らしながらそう言った。彼女には思うところはあるのだろう。というより、事の一因を担っているのを自覚しているから、大きく否定も賛同もできないのかもしれない。
「無駄だろ、無駄」
リンは言っても無駄だろ、というニュアンス。その言葉の裏には、諦めも滲んでいるような気がした。
慣れがでてきた。新しい生活に。新しい隣人に。油断と妥協が出て来て、引っ越し当初はもう少し気を引き締めていたはずなのに、そういう空気はいつの間にか霧散していた。結果、部屋は荒れ果てた。
特に酷いのはサトミとアカリだった。
サトミはまあ、知っていた。彼女は興味が乗った時にしか家事をしないので波が激しいし、気にしない時はひと月ふた月、部屋が荒れ果てても気にしない。かと思えば魔法などを駆使して、びっくりするような速さと精度で家事をこなしたりする。
アカリは純粋に家事をしたことはないそうで、気付いた時や要請があったら、ガイが代替わりしている形だ。掃除は別に構わないのだが、下着の洗濯と片付けはできないので、リンに頼んで洗濯機の使い方だけは一番最初に覚えてもらった。
リンには迷惑をかけられていないが、完全に「自分の分だけやる」というスタンスなので、ガイの負担だけが大きいのである。
若干話の腰を折られたような雰囲気ではあったが、ガイは挫けずに続ける。
「改めて、共同生活のルールを決めておきたいと思う」
「まぁ、先に決めておくべきだったな」
ガイの提案に、リンが同調した。
「ああしろ、こうしろはいや」
「そこまでは考えてないよ」
サトミの我儘には軽く答えておき、ガイはホワイトボードを用意して、そこにマジックで「共同生活ルール」と書き込む。
「ルールとしては……」
・食事、洗濯、掃除など、自分のことは自分でやる。
・自室はパーソナルスペース。自分の荷物管理はその中で。
※用がなければ各人の部屋に入らない。入る時は許可を取る。
・キッチン、ダイニング、風呂、トイレ等の共同スペースの掃除は当番制。スケジュールアプリで管理する。人に交渉して交代をお願いするのはOK。
「なるほど……」
書き込んだホワイトボードを隣に座っていたアカリが覗き込み、真剣に目を通していた。改善への意欲はあるようだが、綺麗な眉根が寄せられているので、自信がないのかも知れない。
「近すぎ……」
ガイの隣席に座っていたアカリの動きに、対面側に座るサトミが不機嫌な声をあげた。アカリはその指摘で初めてガイとの距離感に気付き、きょとんとした。
「えっ……きゃっ!」
アカリはガイと至近距離で見つめ合ったあと、予想外に近すぎたせいか、赤くなって小さく声をあげた。避けるように離れ、顔を背けるアカリ。
避けられるような動きに、少しショックを受けつつも気を取り直す。
「他に何かある?」
ホワイトボードをテーブルの中央に滑らせ、全員が見えるようにする。対面側に座っていたリンがそれを見つつ、
「何かある、つっても、これじゃ大して今と変わらないんじゃないか?」
ガイもそこには自覚があった。明文化すれば多少変わるし、言われてないからやらない、状態を避ける狙いだ。やらないよりやった方がマシ、というのもある。また、少し案を出しておけば、他の人からも何か気になった点などが出てくるかもしれない。この議題における、話のネタだった。
「あまりガチガチに固めて、後でトラブルになるのもなぁって」
「ふーん。それはあるかもな? 何かあってから決めてもいいしな……」
現状、負担というか、被害がかかってくるのは家事を定期的にできるガイとリンだ。
「今と変わらないなら、いいよ」
「そうだね。サトミの世話はこれまで通りだけど、共有スペースに関する取り決めは、別途交渉だよ」
「えーっ」
サトミはぶぅたれて不満を表した。共有スペースまで対応をすると、下手すると週の半分くらいは共有スペースの家事をしていることになりそうだった。それは流石にいやだった。ガイとて、家事をしなくて済むならそうしたい。
「あの……すみません。取り決め自体には問題ないのですが……」
アカリが小さく手を挙げて、申し訳なさそうにしていた。ガイは何が言いたいのか察して、アカリに答える。
「あ、うん。できない家事に関しては、最初のうちは俺が教えるから、すこしづつ覚えていこう」
「だな、あたしもそこは協力する。できる人数増えた方が、後々楽だしな」
ガイの言葉に、リンも身を乗り出した。2人の言葉に、アカリは嬉しそうに手を合わせる。
「ありがとうございます……!」
その後も3人は今後のことで話合い、話が弾んだ。
「むぅ~……」
そんな3人を、サトミはふくれ面で眺めていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数日経って、ガイはみんなに提案したことに満足していた。
共有スペースの使い方を明文化したことで、部屋が劇的に改善したのだ。引っ越し当日と違って荷物はある。が、それらは整理され、掃除は行き届いて埃もない。快適な空間だ。
アカリに掃除洗濯、料理はおいおいという形で教えてきたことで、家事をする戦力が増えたのと、アカリは片付け方がわからなくて結果散らかしていた様子だったので、それがなくなったことで散らかること自体が減ったのが大きい。
リンも共有スペースのルールを決めたことで「自分の分だけやる」という感じの家事から変化があり、積極性が増えたように感じた。
授業を終えて帰ってきた時、家が清潔だと、それだけで嬉しい気がする。
(もっと早くすればよかったかも……)
リビングに入ると、アカリがテーブルを拭いて掃除していた。
「ガイさん、おかえりなさい」
「ただいま。掃除、お疲れ様」
「ありがとうございます。ですが、当番なので当たり前のことです」
その当たり前が非常に助かる、というのは共同生活の上で非常に感じる点だった。
「早く料理の方も覚えていきたいですね」
アカリは楽しそうにそう宣言した。そこまで楽しいのかな、とちょっと気になったのもあり、聞いてみる。
「楽しそうだね」
「はい。これまでは使用人がしてくれていたので……自分でできる、というのは思いのほか気持ちがいいものです」
ガイは納得した。
アカリは相当なお嬢様だったらしく、家事はそれ専門の使用人がついて回っていたため、この年までまったくしたことがなかったらしい。前のチームでもお付きの人間が居たとか。ガイの感覚では家事の専門とか、お付きの人とか全く想像ができなかった。メイドさんだろうか。
「そっか」
「次はお料理を覚えたいですね。今度ご教授お願いできますか?」
「それほど大した腕前ではないけど。何かリクエストはある?」
「これと言ってはありませんが……強いて言うなら、和食など覚えたいですね」
「和食かー」
そういえば、料理を作る時には簡単に作れるパスタとか、作り置きがしやすいしまとめて複数人分作りやすいカレーだとか、洋食よりに傾いていた気がする。
「わかった。何か考えてみる」
「ありがとうございます」
そんな風に話していると、自室からリビングにやって来たサトミが、呟いた。
「……仲、良さそう」
「そうかな。普通……だと思うけど」
「ガイは……」
「何?」
「いい、何でもない」
サトミはそう言って部屋に戻ってしまった。ガイは今のやり取りの意図がわからず、あ、ただいまって言いそびれたな、などと呑気に考えていた。
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