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突然の乱入者
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ルエンの朝はヒールリッドとの今日一日の予定を確認することから始まる。
とはいっても、いまだレイドリックより仕事を任せることはされておらず、兄から渡された様々な書類の進捗状況を確認するために足を運んだりと、小間使い的なものが多い。しかし、今はその兄が不在のため、ルエンのすべきことはより一層少なくなっていた。
「朝食が終わったあとは、ロイド師による座学と…そうですね、今日は図書館の司書長からお時間があれば、王族の許可がなければはいられない書庫の立ち合いとお願いできないかとのことです」
「ああ、半年に一度の本の検診か…わかった、ロイド師の授業が終わったらそちらに向かうと伝えて欲しい」
「わかりました」
淡々と予定の確認した後、ヒールリッドはそれではと一礼して部屋を去る。これから行われるロイド師との授業を行う部屋の手配と、司書長への伝言を頼むのだ。ぱたんと部屋の扉がしめられた後、ルエンははぁぁぁぁと部屋中に広がるようなため息をついてしまった。
「……やっぱり、なんか変だな……小言がいつにもなく少ない」
最近は午後からの予定は自分の体力作りで忙しいため、ヒールリッドが何をしているのかはわからない。午前中はこうやってルエンのそばにいていつものように自分を補佐してくれているのだが…与えられている仕事のみをこなし、以前はあった軽口などのやり取りは減っていた。
(何かを悩んでいるようにみえるんだが、気のせいじゃないよな)
ヒールリッドの顔をよくみてみると、うっすらと目の下に隈ができているのがわかる。きっとなにかを一人で考え込んでいるのだろう、でも彼がルエンに相談をするということはないのだ。まぁ、頼られるような主であれば、毎日毎日小言をもらうことはないだろうが…でも、自分が気づくほど悩みこんでいる姿というのは初めてだから、とても気になる。
(どうしだんだ?とか聞いても絶対に答えてくれないよな…でも、私で何かできるのであれば……何かをできる可能性は少ないけど!!でも…)
話ぐらいは聞けるはず、あの竜皇女の恋愛のろけ話を聞くという時間を過ごした今の自分なら…と変な自信をつけたルエンは部屋に戻ってきた彼にごくりと喉を鳴らす。
(聞いてみせる、いや聞くんだ!私は一応彼の主なのだから!!)
何度も何度も自分に言い聞かせ、口を開いたルエンだったが…
「ひ、ひーるりっど」
「……はい?なんですか、その裏返った声は。また何かやらかした告白ですか?」
「違うっ!!!」
やれやれとため息をついたヒールリッドにルエンは反論するも、彼は取り合わない。ヒールリッドの中のルエンの評価がいかに低いのか実感させられたが、今日はここで引くわけにはいかないのだ。いや、引けばもう聞くという自信がどこかに消えていきそうだ。
「さ、最近変だぞ!目の下に隈もできてるし、何か悩み事などあるなら…」
相談してほしい、その言葉は消え入りそうになるほど小さなものになってしまった。だが、ヒールリッドの耳には届いたらしく、緑色の瞳が大きく見開いた。
「そ、そんなに驚くことではないだろう…」
顔が熱い。
慣れないことを、ましてや今まで迷惑をかけ続けていた自分がこんなことを言い出すなんて自分でも信じられない。しかし…彼のことが心配なのは確かなのだ。いつもは心配をかけてばかりだが、自分だって彼が悩んでいるなら相談ぐらい乗ってあげたいとは思っているのだ。
「ルエン様」
ヒールリッドはじっとルエンを少し見つめた後、小さく笑う。そして自分の中で何かを整理するかのように口をつぐんだ後、彼が視線を合わせた時だった。
「ルエン王子っ!!!!」
バターンと、すさまじい音を立てて部屋の扉が開かれる。
扉の取っ手がばきりと壁に当たる音が聞こえ、扉の蝶番がみしみしとなるほどの。
「は…………?」
ぽかんと間抜けた顔をしたルエンと、さすがは近衛であるヒールリッドは腰にある剣を抜く寸前ではあったが、彼もすぐにぎょっとした顔で立ち尽くしてしまう。
「る、る、る、ルエンおうじぃーーーーーー」
ぼろぼろと、人目をはばからずも涙を流し顔は真っ赤。髪や服装はきちんと(男性の装いだが)しているものの、それはアルゼール国の姫としての姿とは大きくかけ離れたフェリアーデの姿があった。
「な、なにが、うわ、うがっーーーーーー!?」
まるで矢のごとくの早さで抱きついてきたフェリアーデ。
だが、体格はどちらかといえばフェリアーデの方が大きく逞しい。そんな彼女に抱きつかれたルエンは、情けなくもその場に踏みとどまることができず、転びそうになるのだが…
「きいてくれ、る、ルエン王子っ!!! わ、私はどうしたらよ、よいのだーーーー!!!」
それは抱きついてきたフェリアーデによって阻止される。
いや、ルエンの足がぶらりとわずかに宙に浮いており、正確にはフェリアーデが彼を持ち上げている状態になっていた。
(ひぃぃぃぃーーーーー!!!)
しかも、ぎりぎりと背に回されたフェリアーデの両腕が彼を締め上げる。
ルエンはパニックになり、初めて女性と抱き合ったとかそんな甘い気持ちに浸る時間などなかった。
「お、皇女!!! ルエン様をお離しくださいっつ!!!」
「殿下っ!!ようやく見つけ…うわっ!!何をしているんですかっ!!!」
いつもフェリアーデの後ろに控えていたメルという侍女が、状況を見て真っ青になり文字通りフェリアーデにとびかかった。そして容赦なくフェリアーデの頭をひっぱたき、腕が緩んだところでルエンを引き離す。
「何をやっておられるんですかっ!!! 殿方に抱きつくなんてはしたないっ!! それでもあなた様は皇女ですかっ!!!」
「で、で、でもメルっーーー」
「でもでもメルでもありませんっ!! 恥を知りなさいませっ!!!」
部下に説教をされる主という、どこかでみたことのある光景をルエンとヒールリッドは呆然と眺めていた。
とはいっても、いまだレイドリックより仕事を任せることはされておらず、兄から渡された様々な書類の進捗状況を確認するために足を運んだりと、小間使い的なものが多い。しかし、今はその兄が不在のため、ルエンのすべきことはより一層少なくなっていた。
「朝食が終わったあとは、ロイド師による座学と…そうですね、今日は図書館の司書長からお時間があれば、王族の許可がなければはいられない書庫の立ち合いとお願いできないかとのことです」
「ああ、半年に一度の本の検診か…わかった、ロイド師の授業が終わったらそちらに向かうと伝えて欲しい」
「わかりました」
淡々と予定の確認した後、ヒールリッドはそれではと一礼して部屋を去る。これから行われるロイド師との授業を行う部屋の手配と、司書長への伝言を頼むのだ。ぱたんと部屋の扉がしめられた後、ルエンははぁぁぁぁと部屋中に広がるようなため息をついてしまった。
「……やっぱり、なんか変だな……小言がいつにもなく少ない」
最近は午後からの予定は自分の体力作りで忙しいため、ヒールリッドが何をしているのかはわからない。午前中はこうやってルエンのそばにいていつものように自分を補佐してくれているのだが…与えられている仕事のみをこなし、以前はあった軽口などのやり取りは減っていた。
(何かを悩んでいるようにみえるんだが、気のせいじゃないよな)
ヒールリッドの顔をよくみてみると、うっすらと目の下に隈ができているのがわかる。きっとなにかを一人で考え込んでいるのだろう、でも彼がルエンに相談をするということはないのだ。まぁ、頼られるような主であれば、毎日毎日小言をもらうことはないだろうが…でも、自分が気づくほど悩みこんでいる姿というのは初めてだから、とても気になる。
(どうしだんだ?とか聞いても絶対に答えてくれないよな…でも、私で何かできるのであれば……何かをできる可能性は少ないけど!!でも…)
話ぐらいは聞けるはず、あの竜皇女の恋愛のろけ話を聞くという時間を過ごした今の自分なら…と変な自信をつけたルエンは部屋に戻ってきた彼にごくりと喉を鳴らす。
(聞いてみせる、いや聞くんだ!私は一応彼の主なのだから!!)
何度も何度も自分に言い聞かせ、口を開いたルエンだったが…
「ひ、ひーるりっど」
「……はい?なんですか、その裏返った声は。また何かやらかした告白ですか?」
「違うっ!!!」
やれやれとため息をついたヒールリッドにルエンは反論するも、彼は取り合わない。ヒールリッドの中のルエンの評価がいかに低いのか実感させられたが、今日はここで引くわけにはいかないのだ。いや、引けばもう聞くという自信がどこかに消えていきそうだ。
「さ、最近変だぞ!目の下に隈もできてるし、何か悩み事などあるなら…」
相談してほしい、その言葉は消え入りそうになるほど小さなものになってしまった。だが、ヒールリッドの耳には届いたらしく、緑色の瞳が大きく見開いた。
「そ、そんなに驚くことではないだろう…」
顔が熱い。
慣れないことを、ましてや今まで迷惑をかけ続けていた自分がこんなことを言い出すなんて自分でも信じられない。しかし…彼のことが心配なのは確かなのだ。いつもは心配をかけてばかりだが、自分だって彼が悩んでいるなら相談ぐらい乗ってあげたいとは思っているのだ。
「ルエン様」
ヒールリッドはじっとルエンを少し見つめた後、小さく笑う。そして自分の中で何かを整理するかのように口をつぐんだ後、彼が視線を合わせた時だった。
「ルエン王子っ!!!!」
バターンと、すさまじい音を立てて部屋の扉が開かれる。
扉の取っ手がばきりと壁に当たる音が聞こえ、扉の蝶番がみしみしとなるほどの。
「は…………?」
ぽかんと間抜けた顔をしたルエンと、さすがは近衛であるヒールリッドは腰にある剣を抜く寸前ではあったが、彼もすぐにぎょっとした顔で立ち尽くしてしまう。
「る、る、る、ルエンおうじぃーーーーーー」
ぼろぼろと、人目をはばからずも涙を流し顔は真っ赤。髪や服装はきちんと(男性の装いだが)しているものの、それはアルゼール国の姫としての姿とは大きくかけ離れたフェリアーデの姿があった。
「な、なにが、うわ、うがっーーーーーー!?」
まるで矢のごとくの早さで抱きついてきたフェリアーデ。
だが、体格はどちらかといえばフェリアーデの方が大きく逞しい。そんな彼女に抱きつかれたルエンは、情けなくもその場に踏みとどまることができず、転びそうになるのだが…
「きいてくれ、る、ルエン王子っ!!! わ、私はどうしたらよ、よいのだーーーー!!!」
それは抱きついてきたフェリアーデによって阻止される。
いや、ルエンの足がぶらりとわずかに宙に浮いており、正確にはフェリアーデが彼を持ち上げている状態になっていた。
(ひぃぃぃぃーーーーー!!!)
しかも、ぎりぎりと背に回されたフェリアーデの両腕が彼を締め上げる。
ルエンはパニックになり、初めて女性と抱き合ったとかそんな甘い気持ちに浸る時間などなかった。
「お、皇女!!! ルエン様をお離しくださいっつ!!!」
「殿下っ!!ようやく見つけ…うわっ!!何をしているんですかっ!!!」
いつもフェリアーデの後ろに控えていたメルという侍女が、状況を見て真っ青になり文字通りフェリアーデにとびかかった。そして容赦なくフェリアーデの頭をひっぱたき、腕が緩んだところでルエンを引き離す。
「何をやっておられるんですかっ!!! 殿方に抱きつくなんてはしたないっ!! それでもあなた様は皇女ですかっ!!!」
「で、で、でもメルっーーー」
「でもでもメルでもありませんっ!! 恥を知りなさいませっ!!!」
部下に説教をされる主という、どこかでみたことのある光景をルエンとヒールリッドは呆然と眺めていた。
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