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竜の国の事情
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竜の国アルゼール国。
生き物の頂点に立つという竜とともに国を守ってきた。
やがてその強さからは、周りの国から恐れられるようになり、同時に国同士の諍いなどが発展し、大きな戦争などが起きそうになったときは、調停役としての役割も担うようになった。
そんなお国柄、アルゼール国の民は強さを重要視する。
身分に関係なく、誰でも幼い時から武術を学び、女性でも自分の身を守れるぐらいまで鍛えているものが多い。そのため、国の頂点に立つ王族は彼らの模範となり、その強さを認められるため幼い時から厳しい修行を強いられてきた。それは第一皇女であるフェリアーでも例外ではなく、彼女も現国王の唯一の子供であり、後継者である自覚を幼いときからもち、剣や槍の修行だけでなく、国を治めるための帝王学や礼節なども身に着けていた。誰からみても、皇女としてふさわしいと言われるようになった頃、一つ問題が起きた。フェリアーデの婚約者がなかなか決まらなかったことである。
彼女の強さは、まだ15歳の頃から代々王族の武術の指南役も太鼓判を押す実力だった。
アルゼール国でも選ばれた騎士である近衛隊を相手にしても対等どころかそれ以上、その中の精鋭部隊が相手にしなければ練習の模擬選であれ、あっという間に終わってしまう。槍を使えば五本の指に入るとまでいわれる、最強の女性だ。国を治めるものとしては、なんとも頼もしいものであったが、逆にその強さが伴侶を遠のかせている原因となっていた。
彼女の横に並ぶなら、彼女と同程度の強さがあり、皇女なのだからそれ相応の身分も必要とする。しかし、アルゼール国の貴族の年頃の男性の中で、彼女よりも強いものはおらず、また自分よりも強い伴侶を持とうとする気負いのある人物はいなかった。また周りもそういった視点で婚約者探しをしていたのだから、相手が決まらないどころか、ハードルを下げようという話が出てきたころには、すでに男性側にも婚約者がおりそういった選択ができなくなっていた(男性側が自分たちにお鉢がまわってくるのを恐れて、早々に婚約者を決めたという現状もあった)。
もう少し範囲を広めて探したものの、彼女の実力に見合う者にはすでに伴侶がおり、国のそれなりの地位についているものも多く、彼らを無理やり別れさせるわけにもいかず(おまけに五十代頃の男性が多かった)、また齢を下げてと考えてみても相手は五歳に満たぬ子供しかいない現状(貴族の間では生まれながらの婚約者を決める風潮が広がっていたという)に誰もが頭を悩ませた。
そうして出てきた苦肉の策が、他国の王族たちとの婚姻である。
アルゼール国の王族に、他国の者が嫁いできた前例はない。
庶民や位いの低い貴族にはそういった例もあったが、もともと国民の性格なのか、他国の者を受け入れるという気質が低かったのだ。なので、この案が浮上したときは、貴族の間でもかなりの反対の声があがったのだが、であればあなたの息子を皇女の伴侶に差し出してくださいと言われれば、誰もが口を紡ぐしかなかった。そんな中、今までの騒動を傍観していたアルゼール国の国王が動く。
フェリアーデの婚約者は他国から迎え入れる。
竜の国はどの国からも恐れられ、今まで表面上のやりとりしかなかった。
しかし時代は変わっていく。
いつまでも一国だけで立つのではなく、他の国と友好という形で手を取り合い、互いを知り、尊重し、我が国のことを恐れるのではなく、頼りになる友人として見られるようになって欲しい。そうすれば、また我らの国の力が必要となったときがきても、竜や戦う力ではなく、話し合いだけでこの世界をともに平和にしていくことができるだろう。
そう告げた国王の言葉に、ついに貴族たちは沈黙し、アルゼール国建国以来初めて、他国の王族を迎え入れることとなったのである。しかし、父親の言葉を聞き、フェリアーデは条件をつけた。それは、自分の伴侶を自分が決めることである。自分の目で見定めて、自分がこの人ならばというものを迎え入れたい。もしそれが王族でなくても、了承してほしいと。
その言葉に初めは良い顔をしなかった国王であったが、自分の伴侶には王族であることよりも、この国を共に支えてくれる人であってほしいという懇願にも似た言葉に国王は折れた。それは溺愛する娘の頼みであったからなのか、娘であればある程度の能力がなければ彼女の目に留まらぬであろうという信頼があったのかはわからない。ともかく、とりあえず二年という月日を約束され、彼女はアルゼール国が皇女の婚約者を探すために他国に赴くという各国へ通達をしたと同時に、信頼できる騎士たちをつれて、旅立ったのである。
だが、現実はいろいろと厳しかった。
*****************************************
別に物語のような展開を望んでいたわけじゃない。
だけど、外の世界にでれば、一人ぐらいは自分の手を取ってくれる男性が現れるのではないかと思っていた。
フェリアーデは幼い時から皇女としての立場を自覚し、それを誇りに思ってきた。
まだまだ未熟なところはあるものの、それは今国を治めている重鎮から教わり、じょじょに成長していけば何も問題はないと思っていた。だが、彼女の思ってもみなかったところで、躓いてしまう。それが自分の婚約者のことだった。
最初は彼女自身、自分のことで精いっぱいだっただめそのことをそれほど気にしてはいなかった。この国の将来のために、自分が誰かを結婚し子供を産むのは当然と思っていたし、相手は国王やその側近が決めることであって、自分はそれを受け入れるだけだと。だが、いつまでたっても相手が決まらず、それどころか候補の相手が軒並みいなくなってしまったと耳にしてしまったとき不安になった。自分は結婚できるのか、子供を産めるのか。
……いや、一番ショックだったのは、婚約者になりたいと誰一人手を挙げなかったことかもしれない。
フェリアーデは将来の女王だ。
アルゼール国では男女関係なく、第一子に後継者の資格があるため、女であることに何も問題はなかった。しかしフェリアーデの場合だけでなく、貴族の間でも女性が家を継ぐ場合、婚約者が決まりにくいという事実もあった。
アルゼールの国の女性は、自分より弱い相手を伴侶に選ばない。
つまり、女性が家を継ぐ場合、自分の強さと同等かそれ以上の実力をもつ男性を探さねばならない。それは国民の気質や長年すりこまれてきた伝統や感覚であり、ある程度妥協しなくてはいけないとわかっていても、受け入れることができない厄介なものでもあった。なので貴族の長子が女である場合、武術は最低限しか身に着けることを許されず、それよりも家を継ぐための勉学に力を注ぐようになる。それは将来の伴侶選びに困らない苦肉の策ではあったが、フェリアーデのことを見ればある意味正しいと言わざるを得なかった。
だが、その苦肉の策をアルゼール国の後継者であるフェリアーデがとることはできなかった。彼女が強くなければ誰もついてこないし、彼女が女王となったときに困ることは目に見えていた。だが、それでも自分よりも強い男性はいっぱいいるだろう、そんな呑気な考えでいたから、武術が上達していくたびに嬉しくなり、稽古に励み、近衛騎士を相手にして打ち負かすことに喜びを感じますます精進したのが悪かったのかもしれない。
ここまでというラインの見極めができなかったのだ。
そして男性たちの中にある、女より弱いことは許せないというプライドを甘く見ていたのか。
アルゼール国の男性は、同僚としての女性は認めるが伴侶しては認めない。
それは古くから言われる格言でもあり、事実だった。
彼らは自分より強い女性がいることは認めている。
だが伴侶には絶対選ばない。彼らは自分が家族を守るという立場に立つことは望んでも、伴侶に守られるということは口には出さないが屈辱を感じるようなのだ。そんな彼らが、フェリアーデの隣に立ちたがるであろうか。……答えは、いいえしかなかった。
だから、国王が他国の者を迎え入れると言ったときどこかほっとした部分があった。
この国から出れば、強い人はいるだろう、いや強くなくても国を守れる知識があれば、その人を迎えれてくれるだろう。だから、彼女は他国のことを調べ、王族だけでなく自分の国を守ってくれる強さや知識をもっているだろう人を選び、年齢なども釣り合うような相手を探した。思いのほか該当する人たちがいて喜んだのもつかの間、会いに行った彼らはフェリアーデに儀礼上の顔は見せても、それ以上の何かを見出したようには見えなかった。そして、個人的な会話を望んでもそれはどこまでも事務的なものだった。
近づいてくる王族たちは、アルゼール国とつながりたいを思っているだけの魅力も何もない者ばかり。彼女が欲した人物は、国の重要な地位についているため、手放すことには良い顔をされないばかりか、本人たちもフェリアーデに何の興味も抱いてないようだった。
自分の何が悪いのか。
どうして自分は選ばれないのか。
妖艶と呼ばれる容姿を持っていても、彼女はまだ17歳だった。
だから、少女たちも読むような物語の本には憧れていたし、少しばかり夢見ていた部分もあった。毎回国を去るたびに、なんでもない顔をしていたが、心の中では傷ついていた。だから、ラグレーン国に来た時も期待の気持ちはもうわずかな灯で、あきらめの気持ちが強かった。彼女が選んだ相手からも、またいつものような一線を引いた態度や、ひたすら頭の低い物腰をされるとばかりに思っていたから。偶然、滞在している城の中でアリウェルと会い、お茶に誘われ会話をした。彼女の話を微笑みながら聞いてくれる、彼の物腰の柔らかさと丁寧な態度に好感を持った。
気づけば、恋をしていた。
それは自分の立場や目的を忘れ去ってしまうぐらい、彼のことを考えれば胸が高鳴り、落ち着かず、この感情に苛々した。だから、この気持ちをなんとかしたくて彼女のパートナーであるメディサに相談しようと思ったら、彼女の竜の心を動かした者に抑えきれない怒りが沸いた。自分を止めようとするランバートを振り切り、メディサを無理やりその場に向かわせれば、こちらを驚いた顔でみるひ弱そうな少年に怒りが再燃した。やりすぎだと心のどこかでわかっていたが、止められなかった。メディサとランバートのおかげで、殺してしまわなかったことだけは幸いだったが、当然事態を知った近衛隊長であるザルバからは叱られたが、後悔はしなかった。
……しなかったが、彼の言葉に耳を疑った。
「その方はラグレーン国の第二王子であるルエン様です。フェリアーデ様、明日にでも必ずお会いになり、謝罪してください。このことが第一王子に知られれば、縁談も何もあったものではありませんよ」
ザルバの言葉に自分の短慮が招いた結果が見えた気がした。
生き物の頂点に立つという竜とともに国を守ってきた。
やがてその強さからは、周りの国から恐れられるようになり、同時に国同士の諍いなどが発展し、大きな戦争などが起きそうになったときは、調停役としての役割も担うようになった。
そんなお国柄、アルゼール国の民は強さを重要視する。
身分に関係なく、誰でも幼い時から武術を学び、女性でも自分の身を守れるぐらいまで鍛えているものが多い。そのため、国の頂点に立つ王族は彼らの模範となり、その強さを認められるため幼い時から厳しい修行を強いられてきた。それは第一皇女であるフェリアーでも例外ではなく、彼女も現国王の唯一の子供であり、後継者である自覚を幼いときからもち、剣や槍の修行だけでなく、国を治めるための帝王学や礼節なども身に着けていた。誰からみても、皇女としてふさわしいと言われるようになった頃、一つ問題が起きた。フェリアーデの婚約者がなかなか決まらなかったことである。
彼女の強さは、まだ15歳の頃から代々王族の武術の指南役も太鼓判を押す実力だった。
アルゼール国でも選ばれた騎士である近衛隊を相手にしても対等どころかそれ以上、その中の精鋭部隊が相手にしなければ練習の模擬選であれ、あっという間に終わってしまう。槍を使えば五本の指に入るとまでいわれる、最強の女性だ。国を治めるものとしては、なんとも頼もしいものであったが、逆にその強さが伴侶を遠のかせている原因となっていた。
彼女の横に並ぶなら、彼女と同程度の強さがあり、皇女なのだからそれ相応の身分も必要とする。しかし、アルゼール国の貴族の年頃の男性の中で、彼女よりも強いものはおらず、また自分よりも強い伴侶を持とうとする気負いのある人物はいなかった。また周りもそういった視点で婚約者探しをしていたのだから、相手が決まらないどころか、ハードルを下げようという話が出てきたころには、すでに男性側にも婚約者がおりそういった選択ができなくなっていた(男性側が自分たちにお鉢がまわってくるのを恐れて、早々に婚約者を決めたという現状もあった)。
もう少し範囲を広めて探したものの、彼女の実力に見合う者にはすでに伴侶がおり、国のそれなりの地位についているものも多く、彼らを無理やり別れさせるわけにもいかず(おまけに五十代頃の男性が多かった)、また齢を下げてと考えてみても相手は五歳に満たぬ子供しかいない現状(貴族の間では生まれながらの婚約者を決める風潮が広がっていたという)に誰もが頭を悩ませた。
そうして出てきた苦肉の策が、他国の王族たちとの婚姻である。
アルゼール国の王族に、他国の者が嫁いできた前例はない。
庶民や位いの低い貴族にはそういった例もあったが、もともと国民の性格なのか、他国の者を受け入れるという気質が低かったのだ。なので、この案が浮上したときは、貴族の間でもかなりの反対の声があがったのだが、であればあなたの息子を皇女の伴侶に差し出してくださいと言われれば、誰もが口を紡ぐしかなかった。そんな中、今までの騒動を傍観していたアルゼール国の国王が動く。
フェリアーデの婚約者は他国から迎え入れる。
竜の国はどの国からも恐れられ、今まで表面上のやりとりしかなかった。
しかし時代は変わっていく。
いつまでも一国だけで立つのではなく、他の国と友好という形で手を取り合い、互いを知り、尊重し、我が国のことを恐れるのではなく、頼りになる友人として見られるようになって欲しい。そうすれば、また我らの国の力が必要となったときがきても、竜や戦う力ではなく、話し合いだけでこの世界をともに平和にしていくことができるだろう。
そう告げた国王の言葉に、ついに貴族たちは沈黙し、アルゼール国建国以来初めて、他国の王族を迎え入れることとなったのである。しかし、父親の言葉を聞き、フェリアーデは条件をつけた。それは、自分の伴侶を自分が決めることである。自分の目で見定めて、自分がこの人ならばというものを迎え入れたい。もしそれが王族でなくても、了承してほしいと。
その言葉に初めは良い顔をしなかった国王であったが、自分の伴侶には王族であることよりも、この国を共に支えてくれる人であってほしいという懇願にも似た言葉に国王は折れた。それは溺愛する娘の頼みであったからなのか、娘であればある程度の能力がなければ彼女の目に留まらぬであろうという信頼があったのかはわからない。ともかく、とりあえず二年という月日を約束され、彼女はアルゼール国が皇女の婚約者を探すために他国に赴くという各国へ通達をしたと同時に、信頼できる騎士たちをつれて、旅立ったのである。
だが、現実はいろいろと厳しかった。
*****************************************
別に物語のような展開を望んでいたわけじゃない。
だけど、外の世界にでれば、一人ぐらいは自分の手を取ってくれる男性が現れるのではないかと思っていた。
フェリアーデは幼い時から皇女としての立場を自覚し、それを誇りに思ってきた。
まだまだ未熟なところはあるものの、それは今国を治めている重鎮から教わり、じょじょに成長していけば何も問題はないと思っていた。だが、彼女の思ってもみなかったところで、躓いてしまう。それが自分の婚約者のことだった。
最初は彼女自身、自分のことで精いっぱいだっただめそのことをそれほど気にしてはいなかった。この国の将来のために、自分が誰かを結婚し子供を産むのは当然と思っていたし、相手は国王やその側近が決めることであって、自分はそれを受け入れるだけだと。だが、いつまでたっても相手が決まらず、それどころか候補の相手が軒並みいなくなってしまったと耳にしてしまったとき不安になった。自分は結婚できるのか、子供を産めるのか。
……いや、一番ショックだったのは、婚約者になりたいと誰一人手を挙げなかったことかもしれない。
フェリアーデは将来の女王だ。
アルゼール国では男女関係なく、第一子に後継者の資格があるため、女であることに何も問題はなかった。しかしフェリアーデの場合だけでなく、貴族の間でも女性が家を継ぐ場合、婚約者が決まりにくいという事実もあった。
アルゼールの国の女性は、自分より弱い相手を伴侶に選ばない。
つまり、女性が家を継ぐ場合、自分の強さと同等かそれ以上の実力をもつ男性を探さねばならない。それは国民の気質や長年すりこまれてきた伝統や感覚であり、ある程度妥協しなくてはいけないとわかっていても、受け入れることができない厄介なものでもあった。なので貴族の長子が女である場合、武術は最低限しか身に着けることを許されず、それよりも家を継ぐための勉学に力を注ぐようになる。それは将来の伴侶選びに困らない苦肉の策ではあったが、フェリアーデのことを見ればある意味正しいと言わざるを得なかった。
だが、その苦肉の策をアルゼール国の後継者であるフェリアーデがとることはできなかった。彼女が強くなければ誰もついてこないし、彼女が女王となったときに困ることは目に見えていた。だが、それでも自分よりも強い男性はいっぱいいるだろう、そんな呑気な考えでいたから、武術が上達していくたびに嬉しくなり、稽古に励み、近衛騎士を相手にして打ち負かすことに喜びを感じますます精進したのが悪かったのかもしれない。
ここまでというラインの見極めができなかったのだ。
そして男性たちの中にある、女より弱いことは許せないというプライドを甘く見ていたのか。
アルゼール国の男性は、同僚としての女性は認めるが伴侶しては認めない。
それは古くから言われる格言でもあり、事実だった。
彼らは自分より強い女性がいることは認めている。
だが伴侶には絶対選ばない。彼らは自分が家族を守るという立場に立つことは望んでも、伴侶に守られるということは口には出さないが屈辱を感じるようなのだ。そんな彼らが、フェリアーデの隣に立ちたがるであろうか。……答えは、いいえしかなかった。
だから、国王が他国の者を迎え入れると言ったときどこかほっとした部分があった。
この国から出れば、強い人はいるだろう、いや強くなくても国を守れる知識があれば、その人を迎えれてくれるだろう。だから、彼女は他国のことを調べ、王族だけでなく自分の国を守ってくれる強さや知識をもっているだろう人を選び、年齢なども釣り合うような相手を探した。思いのほか該当する人たちがいて喜んだのもつかの間、会いに行った彼らはフェリアーデに儀礼上の顔は見せても、それ以上の何かを見出したようには見えなかった。そして、個人的な会話を望んでもそれはどこまでも事務的なものだった。
近づいてくる王族たちは、アルゼール国とつながりたいを思っているだけの魅力も何もない者ばかり。彼女が欲した人物は、国の重要な地位についているため、手放すことには良い顔をされないばかりか、本人たちもフェリアーデに何の興味も抱いてないようだった。
自分の何が悪いのか。
どうして自分は選ばれないのか。
妖艶と呼ばれる容姿を持っていても、彼女はまだ17歳だった。
だから、少女たちも読むような物語の本には憧れていたし、少しばかり夢見ていた部分もあった。毎回国を去るたびに、なんでもない顔をしていたが、心の中では傷ついていた。だから、ラグレーン国に来た時も期待の気持ちはもうわずかな灯で、あきらめの気持ちが強かった。彼女が選んだ相手からも、またいつものような一線を引いた態度や、ひたすら頭の低い物腰をされるとばかりに思っていたから。偶然、滞在している城の中でアリウェルと会い、お茶に誘われ会話をした。彼女の話を微笑みながら聞いてくれる、彼の物腰の柔らかさと丁寧な態度に好感を持った。
気づけば、恋をしていた。
それは自分の立場や目的を忘れ去ってしまうぐらい、彼のことを考えれば胸が高鳴り、落ち着かず、この感情に苛々した。だから、この気持ちをなんとかしたくて彼女のパートナーであるメディサに相談しようと思ったら、彼女の竜の心を動かした者に抑えきれない怒りが沸いた。自分を止めようとするランバートを振り切り、メディサを無理やりその場に向かわせれば、こちらを驚いた顔でみるひ弱そうな少年に怒りが再燃した。やりすぎだと心のどこかでわかっていたが、止められなかった。メディサとランバートのおかげで、殺してしまわなかったことだけは幸いだったが、当然事態を知った近衛隊長であるザルバからは叱られたが、後悔はしなかった。
……しなかったが、彼の言葉に耳を疑った。
「その方はラグレーン国の第二王子であるルエン様です。フェリアーデ様、明日にでも必ずお会いになり、謝罪してください。このことが第一王子に知られれば、縁談も何もあったものではありませんよ」
ザルバの言葉に自分の短慮が招いた結果が見えた気がした。
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