銀の花嫁

くじらと空の猫

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8.龍の長

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「あの娘をみつけただと?」

  驚いた声が部屋の中に響き渡る。部屋と言っても、周りは岩だらけで、洞窟の中と言った方がいいのかもしれない。天井は先が見えないほど高く広さもかなりある。そして、そこには4頭の龍が少々窮屈そうに、固まっていた。

 「やれやれ…この70年間、一人でよくも隠れ通せたものよ。」

  感心したような口ぶりで最初に口を開いたのは、薄い緑色の瞳を悪がきのように輝かせた白い龍。

 「相変わらずだな、お主は。」

  彼のいつもの物言いにあきれ顔で言ったのは、濃い緑と茶色の体に包まれた龍。

 「そうかみつけたか。」

 どこか恨めしげな意味をこめていった赤い龍を、白い龍はおかしげに見ていた。 その言葉を隣にいる青色の龍に向けていっていたのは、その場にいる誰もがわかっていたがその当人は口を閉ざしたままだ。

 まあ…複雑だろうな…
 白い龍が小さく尾を振る。これは彼がおもしろいことがおこりそうだと感じたときにする癖だ。それを見て、茶色の龍は苦笑する。

 また言い争いになるな…
 心でため息をつき、期待に顔をふくらませている赤い龍を眺めた。彼らは、各龍の長と呼ばれる者達だった。上機嫌に尾を揺らしながら、いつももめごとを引き起こす白い龍は、風龍の長。人で言えば肩ををすくめる仕草をし、これから予測できることに胃をキリキリさせている茶色の龍は、地龍の長。そして色からもわかるように、火のように赤い鱗をもつ龍は、火龍の長。真面目過ぎるといわれ先ほどから沈黙を守ったままの青い龍は、水龍の長である。各龍族の中でも長寿を誇る彼らは、長い年月を生きて、培われた知恵をもち、それぞれの長として龍族をまとめていた。

 「さてさて…いかがいたす気かな?」

  風龍の長がおどけて言うと、ぎろりと火龍の長が睨みつけてくる。そうされることがわかって言った風龍の長は、内心やはりと心で爆笑する。

 「ほおっておくわけにもいかぬ。いる場所がわかったのならば…」

 ちらりと地龍の長は水龍の長を見る。このことを知らせたのは、他ならぬ彼なのだ。だが、当の水龍の長は相変わらず黙ったままだ。やれやれ、水龍どもは律儀というか…融通がきかないというか…

「決まっている。銀の夢…今度こそ実現させるだけた。」

 じろりと、火龍の長は文句はいわせないぞとでもいうように、水龍の長をにらむ。
 銀の夢ねえ…風龍の長は小さく呟きながら、ため息をつく。

 「何も彼のせいではあるまい…そう責めるな。」
 「なんだと?」

 殺気を帯びた目に、臆する様子も無く風龍の長は言った。

 「あれは我々の過ちだ。それはわかっているはずだろう?火龍の長。当人の気持ちを無視して、我々が押しつけたせいだ。」
 「だまれ!我々火龍が恥をかかされて、黙っていられるか!!」
 「だから、言っているだろう?我々が間違っていたのだと…これは長の責任だ。」
 「そうとも、自分の同族をもおさえる事ができぬのは、情けない限りだ。」
 「何を聞いているのだおまえは。人のせいばかりにするものではない。」
 「貴様などにはわからぬさ!」

 風龍の長はげんなりとする。 
 火龍はすぐ頭に血がのぼる。人の(龍だが)意見など聞きもしない。気位が高すぎるというのか…どうして、我々みたいに少しは気楽にできぬものか。はあーと深いため息をつく。

 「二人ともいい加減にいたせ。今は昔のことを蒸しかえしている時ではないだろう?」

 長のなかでも一番の長寿である地龍の長に止められ、火龍の長も渋々黙る。だが、彼の表情はまだ怒りが収まったようには見えない。地龍の長は話題を戻すべく水龍の長に聞いた。

 「して…あの娘はどこにいるのだ?」

  地龍の長に問いかけられ、ずっと黙っていた水龍の長はやっと口を開いた。

 「あの娘はウェルド国にいる。」

  三人が、一斉に水龍の長を見つめる。

 「ほお…ということはレウシス殿の所か」

  水龍の長が頷く。

 「龍の中で、騎士の称号を与えられしものか…」

  各龍族のなかに、騎士というある特別な地位がある。それは、各龍族の中で一番力の強いものに送られる、称号であった。彼らは、長の次に一族を束ねる権利を持っている。

「このままほおっておくか。」

  冗談とも本気ともとれない発言に、火龍の長が怒りの声を上げる。

「冗談もほどほどにしろ!!おまえは銀の夢をなんと考えているのだ!!」
「興奮するな、血圧が上がるぞ。我々も若くはないのだから。」
「そうさせているのはおまえだろうが!!」

 ぎゃあぎゃあと、わめきあっている二人をやれやれと思いながら、地龍の長は眺める。
 火龍の長も軽く受け流せば良いのに…だから、いつも風龍の長にからかわれているのがわからないのか…水龍の長といえば我かんせずといった顔で止めることなど一向に考えていないようだ。

 「いい加減にせぬか…話がすすまん。」

 くせのある各龍をひとつにまとめることが、いかに大変かを感じながら、地龍の長はいつものように長いため息をついた。 


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