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一章
9、ゴールデンパンティの行方
しおりを挟む「純金製のゴールデンパンティ……??」
ジンは思わず想像してみた。硬そうな下着は洗濯もできなさそうだ。そんなのを履いていたのだろうか。ちょっと履いている所は想像したくないが。というか、なぜそんな物を持っていたのか。
「え、ハカセ、もしかしてその下着、飾り物だったりする??」とセドリックが首を傾げる。
「飾り物じゃないわよ。魔力で下着にして身につけてたのよ。……というか、何、二人ともビックリ箱でも開けたような顔をしてるのよ」
「え、いや……」とジンは視線を逸らすが、セドリックは「色々趣味悪りいよな」とボソッと呟く。すると、はあ、とハカセはため息を吐いた。
「分かってないわね。不純物の入っていない高価な宝石には魔力が宿っているのよ。貴族の人が大量に身につけているのは、ただ単に見た目だけの問題じゃなくて、魔力の増量も図っているのよ」
「……つまり、盗まれたゴールデンパンティってやつは、物凄い魔力を持ってるってこと?」
「そういうこと」
「てか何で下着なんだよ」とセドリックは眉間に皺を寄せる。
「は? ゴールデンパンティなんてロマンの塊でしょ? それに、表面に身につけるのはあからさまだから、肌着にしていたのよ」
「へえ。……でもどうしてそんな物を盗んだんだ? 高く売るため?」
ジンの問いに、「売れねえだろ、そんなもん」とセドリックが笑う。
「セドリック君はおバカね。私が魔力でゴールデンパンティにしてるだけ。いい? 形はいくらでも加工できるのよ。あんなの金塊にしたらそれで4段ぐらいのピラミッドが出来るわよ。それ、いくらになると思ってるの? それに、売らなくても身につければかなりの魔力を手に入れられる」
「え、ゴールデンパンティって重くね?」とセドリックが突っ込む。
「魔力で軽さも変えれるの。もう……一体どこに行ったのよ……」
項垂れるハカセに、いつの間にか事務所に戻ってきていたフィオナが無表情で呟く。
「この男が持っていないとなれば、誰か他に仲間がいると考える方が自然ね。でも、他の下着はどうして仲間の手には渡らなかったのかが不思議だけど」
「……他のは目的の物じゃなかったからかな? そもそも目的はハカセの持っているゴールデンパンティだった、とか」
「それがまあ、普通だよな」とセドリックが相槌を打つ。
「じゃあ、どこかに窃盗集団みたいな仲間がいるって事か?」
ジンの推測にこくりとフィオナは頷いて、倒れている男を見下ろした。
「恐らくは。まあ、それはこの男に吐かせたらわかる事」
見下ろすその瞳は、氷の女王のように冷たかった。
♦♦♦
個室に手足を縛られた男が、横たわっている。その男は睨むようにしてジンたちを見上げていた。
「あなたが盗んだ物をどこへやったの? 他に仲間がいるの? さ、白状して。そうすれば逃してあげるから」
フィオナが冷たく言い放つも、男は口を割らない。俺は盗んでない、の一点張りだ。まあ、当然だろう。ただ聞くだけで答えたら拷問という概念は存在しない。すると「仕方ないか」フィオナは何かを取り出した。
「痛み刺激なんて耐性があれば自白なんてしない。結束の強い組織に所属している人には尚更無意味だわ。だから……これで」
男に見せたのは何の変哲もないアイマスクだった。それが一体何というのだろう。目を隠して何かをするのだろうか。
そんな事を考えていたら、フィオナがそっと男の目に取り付ける。途端、男が「ぎゃああああああ!」と絶叫し始めたではないか。気色ばんでいた表情は一気に真っ青になる。
マスクを付けているだけで、ジン達は何もしていない。一体男の身に何が起きているのだろうか。
「な、何したんだ?」
おっかなびくりしているジンに、フィオナは淡々と説明する。
「あれは人間の恐怖心を煽る魔法がかけられているアイマスク。何が怖いか、というのは人それぞれだから、見える映像は人それぞれになるの。その恐怖は意識を通して、肉体にも影響する」
「うわ、えっぐ……」とセドリックが「やめてくれえええ!」と叫び悶る男を不憫そうに見下ろした。
「白状してくれたら、恐怖から解放してあげる」
「だから俺は盗んでねえって!! うわあああああ!!」
なかなか口を割らない男。どうしたら口を割らす事ができるのか、皆が考え込んでいたらガチャリと部屋の扉が開いた。
「お待たせ」
なんと現れたのは、エルメスだった。
「あれ? エルメスさん、どうしたんだ?」
「ハカセに自白剤を持ってきて頂戴って言われたから持ってきたのよ。ここにいるって受付の子に聞いたから」
「あら♥ エルメスちゃん、早かったわね。ありがと♥」
「いいのよ。で、どう? フィオナちゃん。なかなかに良心的な攻め方をしてるみたいだけど……」
「だめね。なかなか口を割ろうとしないわ。エルメスさんが来てくれて助かった」
「……フィオナちゃんなら簡単に口を割らせる事が出来るでしょうに。……あ、てことは、成長したってことかしら?」とフィオナの頭を撫でた。無表情だったフィオナの表情が少しだけ柔らかくなる。あの二人、一体どんな関係なんだろうか。
「じゃあ、頼られてあげましょう。でも、私の持っている自白剤は強力だから、ちょっとそれを使う前に他の手段も試してみましょう、ね?」
「エルメスさん。どうぞ」そう言ってフィオナがアイマスクに手を触れる。すると魔法が切れたのか、男は叫ばなくなった。ぐったりしているが、何も答えない男はなかなか根性があるみたいだ。実際にこんな事されたら、俺は耐えられるだろうか。いや、多分無理かもしれない。
するとエルメスが近づいて、顔を男に近づける。何をするんだろうと見ていれば、男の首筋にブスッと牙を立てた。そして、ゆっくりとそこを舐める。すると男の体がびくびくし始めた。
「う……。な、なにを……ッ」
「凄く、気持ちよくなれる、薬よ」
クスクス笑うエルメスの吐息だけで、男がびくつく。それをみたエルメスが、すっと男の腰から胸へと指を滑らせ、
「教えてくれたら、いい事して、あ・げ・る」
ふっと耳元に息を吹きかけた。
「はあっ……!!」
腰をくねらす男はエルメスの艶っぽい声に頬を上気させた。男はどうやらエルメスの虜になってしまったようだ。エルメスは不気味に笑って、首筋から顎の関節を通って、耳元を舐め上げる。その艶めく舌が扇情的で、見ているこっちの背筋がぞわぞわしてくる。
「ねえ、盗んだもの、どうするの?」
「あっ……や、闇市で売るんだよ……っ」
うわ、簡単に自白した。恐るべしエルメスさん。
「それっていつ開かれるの?」
「あっ、明後日の午前十二時」
魔性の声に、男はカタカタ震えている。しかも物凄く息が荒い。こいつ、死ぬのでは。
「あなた、仲間はいるの? みんなで、シない?」
「は、はひい……! 仲間は……」
何かを答えようとした途端、「ぐ、あああ……っ!!」と苦しみだして、血を吐いて気を失ってしまった。
エルメスは首に指を触れる。
「だめだわ。死んでる」
「もしかして、口止めの魔法をかけられていたのかも」とハカセが腕を組む。
するとまた誰が部屋の扉を開けた。受付嬢のモニカだった。
「お客さん、来られましたよ~」
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