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一章
8、盗まれたパンティ
しおりを挟む「……別によくないか? ハカセのパンティぐらい」
「というか物好きもいるもんだな! そんな汚物、盗んで何の得になるのか全くわかんねえ」とセドリックがケラケラ笑っている。
「う・る・さ・いッ!!」
ムッとした鳩が二人の頭を猛烈な勢いで突きだした。
「痛い!痛いってば!! 頭に穴が開く!!」
「や、やめろ!! わかったって、戻ればいいんだろ!!」
「そうよ二人とも、文句言ってないで早く戻って来なさーい!」
森中にハカセの怒号が響き渡った。
♦♦♦
地下にあるGHOSTの建物は、何でも屋としての依頼を受ける事務所とGHOSTの人たちが生活している居住区に分かれている。
どうやらその居住区にあるハカセの部屋から、大量に下着が盗まれたらしい。しかもその現場を目撃し、撃退しようとしたが逆に返り討ちにされてしまったようで、ハカセの目のところに大きな青あざができていた。
あのハカセが返り討ちにされるとは、相当の手練れかもしれない。
「もう、あの下着の中には大切な物もあったのに……!!」
慌てふためくハカセは、一体どんな下着を持っていたのだろう。想像はしたくないが、盗むということは余程のものだったのだろうか。
「犯人はどんな外見だったんだ?」
ジンの質問に対して、ハカセは詳細に答えた。
「背は私とあまり変わらないぐらいだけど、体格は割と大きかったわ。顔を布で隠していたから、顔は見ていないのよ。でも、手を合わせた感じ、そしてあの肉体からいうと恐らく男だわ。年齢は……正直わからなかったわね」
「ついさっきってことは、まだこの近辺をうろついていてもおかしくはねえってことか」とセドリックが腕を組む。
「じゃあ、早く探しに行こうか」
「お願い。早く下着泥棒を見つけて頂戴」
懇願するハカセは余程大事なものを盗まれたようだ。情報が少なすぎるけれど、とりあえず地上へ出てその下着泥棒を探すしかない。
階段を上って街へ出ようとしたら。
「ねえハカセ、下着泥棒ってこいつのこと?」
なんと少女が、男を引きずって階段を降りてきたのだ。
その子は目を見張るほどの美しい銀髪の持ち主だった。端整の顔立ちは、まるで人形のようだが表情が無い。細い手足からは想像できないほどの力で、どすん、と男を目の前に転がした。
「ここへ戻ろうと思ったときに、この人が慌てて走ってきて、私とぶつかっちゃったの。そしたらこの男には似つかわしくない物を持っていたから怪しいと思って気絶させたんだけど、合ってる?」
「あら~♥ フィオナちゃん、その男よ♥ ありがとう♥ やっぱり役立たずの男共よりも、可愛いくて強い女の子の方がいいわよね♥」
「なんだよそれ」
「明らかに男女差別だよな」
「差別じゃありません、区別です!!」
転がった衝撃で男のズボンのポケットからは大量の女性物の下着が出てきていた。本当に下着が盗まれていたみたいだが、それは、レースやフリルがあしらわれていて、とてもじゃないが中年のオッサンが履くような代物ではない。
「これ、本当にハカセのなのか?」
ジンが一つ、摘み上げた下着は、少しだけいい香りがした。すると、無言でフィオナに思いっきり顔面パンチされた。
「はうっ……!!」
ジンの顔がぐにゃっと歪んで、体が吹っ飛ぶ。椅子やテーブルを薙ぎ倒し、最終的に壁に激突して勢いは止まった。歯を食いしばっていなかったら、きっと大惨事になっていただろう。それぐらい威力がすごかった。
「いててて……なんで殴るんだよ。一体俺が何をしたっていうんだ?」
フィオナの方を向けば、彼女は顔を赤くしてその下着を握り締めていた。
「こ、これ、私のだから!!」
「え……?」
フィオナは急いでいくつか転がっている下着をかき集めて、ぱたぱたとどこかへ行ってしまった。なんか、やってはいけないことをしてしまった気がする。
「あーあ、だから私のだって言ったのに」とハカセがジンを睨みつける。
「ジン、ちゃんと謝っとけよ」とセドリックにも呆れられた。
「ハイ、スイマセンデシタ……」
ハカセは横たわっている男の服を漁って入っている物を全て取り出していた。まだまだ出てくる下着に、一体どれだけ盗んだんだよ、と思う。というかよく服のポケットにそれだけの量の下着が入るものだ、と感心していれば。
「……変ね、この男、持ってないわ」
「え? 何を?」
そんなの決まってるじゃない、と言いたげにハカセがジンを見遣った。
「私の純金製のゴールデンパンティよ!!」
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