そおしやるげゑむ美術館

日比谷ナオキ

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カーネーション

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「2銭5厘で御座います。」

女がそう言うと、私は懐から50銭の束を取り出して木材を買い叩いた。今思えば、我ながら間抜けなものである。女はクスッと笑うと、値段分の木材を持ち込んで、私の前へと差し出した。私はほとんど怒りに近い感情で、それらを無造作に打ち砕いた。

「おお、これは良いではないか。」

ひとつの木材から、美しい彫刻が花を咲かせた。それはカーネーションの花。美しい複色の花弁や、すっと伸びた美しい茎、青々とした葉の表現などが重なり、気品を感じさせる一品に仕上がっていた。2銭でこれだけの作品が貰えるのなら得であろう。

「気に入った。女、私はこの花を持ち帰るぞ。」

「承知致しました。宜しければ、作品をお包み致しますが、如何致しますか。」

「いいや。構わない。このまま持ち帰る。」

50銭も散財したとなれば、妻は顔を真っ赤にして私を怒鳴りつけるだろう。私はその花を懐にしまい込むと、上機嫌に向き直って歩き始めた。

「お客様。」

と、女が私を呼び止める。何用か、と思って振り返ると、女は私の方へ歩み寄り、一枚の紙を私へと手渡した。

「本日はありがとうございました。宜しければ、またお越し下さいませ。」

「ああ。気が向けば立ち寄ろう。」

私はそれをしまい込むと、今度こそ上機嫌にスキップなんぞ踏みながら自宅へと足を進めた。普段ならなんて事もない布擦れの音も、なんだか自分を祝ってくれているような、高揚した気分であった。

ところが、それも束の間。私は妻に散財したことを打ち明けねばならないのだ。私はぞわーっと血の気が引くのを感じながら、自宅の戸を引いた。

「おかえりなさい。あなた。今日はどちらまで。」

と、妻は私を見て問う。こう問う時は、決まって私の帰りが遅かった時だ。私は少し躊躇ってから、

「帰路に新しい店が出来てな。様子見に寄ってきた。」

と、答えた。いつもなら妻はここでにっこり笑って、いくら散財したのか聞いてくるのだが、今日は普段と様子が違った。しかめっ面の様な、怒り顔の様ななんとも言えぬ面構えをしながら、私に向かって聞くのだ。

「それはどんなお店ですか。」

と。私は50銭ほど散財した事を打ち明けるか迷ったが、今まで妻に隠し事が出来た試しが無い事を思い出し、洗いざらい全てをぶちまけた。妻は静かに考え込み、やがてはっきりとした口調で言った。
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