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二章 士官学校

マールのおつかい①

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Side キヴェの町





「マール。この荷物をチーズ屋の女将さんの所まで届けてくれないか」


キヴェに到着したばかりの旅人に声をかけ、彼らを風猫亭へ案内をしたマールは、帰り際に叔父に呼び止められた。

仲良くなった旅人からは案内料の駄賃を貰い、先ほど紹介料も宿の金庫番から受け取って懐は温かい。

今日の成果に満足して、さっさと帰ろうとしていた所である。

「ええ~。今日はもう仕事はしないつもりなんだけど」

とはいえ、まだ午後を少し過ぎたばかりの時間である。

今日はいい天気だから日向ぼっこでもしながら本でも読もうと考えていたマールは、嫌そうな顔をして文句を言う。

「帰り道だろう。そんな面倒なことでもないだろうに」

少し眉を顰めるような表情でエズラが言い、手にした小さい包みを、有無を言わさない笑顔で差し出した。
いつも控えめな態度の男だが、商人らしく肝心な所は譲らない。

「素直におつかいをしてくれたら、今度の王都行きに連れて行ってやろうと思っていたんだけどねぇ。仕方ないね」

にっこり笑いながらの駄目押しである。

季節ごとに王都へと仕事で行くエズラに、ついて行きたいとここ半年ほどずっと言い続けていたマールに拒否権はなかった。

一度もこの叔父に口で勝てたことがないマールは、がっくりと肩を落として小包を受け取った。

「…わかったよ!王都行きを餌にするなんてずるいぞ!」

受け取ったら、早く用事を済ませたいマールは小包を持っていた布袋に入れて踵を返す。
マールは小柄な割に、足が速い。
身のこなしも軽く、どんな人混みもすり抜けることができた。

「助かるよ。骨董通りの角を曲がった所のチーズ屋だ」

「知ってるよ!羊のチーズが美味しい店だろ」

旅人の土産としても人気のあるチーズ屋だ。
特に、セヴェンヌ地方のコンバルー山で放牧された羊のチーズはあの店でしか手に入らない。
案内した客には、いつも喜んでもらえるとっておきの店だった。

マールが連れて行くのは良客ばかりだから、女将とも仲が良い。



「さすが、詳しいな。…そうそう、王都には10日後に出発するからね」

「わかった!」

久しぶりに女将に顔を見せておく機会かと考えながら、じゃあねと飛び出すマールの背中に、エズラはくすりと笑いながら手を振った。
















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