マガイモノ

亜衣藍

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 事務所社長が、これだけユウを推してくれる最大の理由は、やはりユウが聖の実子であるからだろう。

 父である聖は、自分の身の上はあまり口にしないが、元々ジュピタープロダクションは『天黄興行』という社名で、上野の地回りが明治期に興した会社だ。

 そして天黄組は、聖が十代の頃から仕えていた極道一家である。

 聖はそこの組長と養子縁組の一歩手前まで行ったらしいが――――ユウ我が子の存在を知り、極道から足を洗う決断をしたようだ。

 しかし、なかなかそれが大変だったらしい。

 完全に組を抜けるまで二十年以上か? 

 とにかく、ずいぶんと長く掛ったが、ようやく今年に入り組へ盃を返して、念願叶って真っ新まっさらになる事が出来たようだ。

 組が握っていたジュピタープロの全株も買い取り、正真正銘、このたび御堂聖はジュピタープロの経営者となった。

 聖が芸能プロの社長の座にそれだけ固執したのは、ひとえにユウの為であろう。

 どこからか聞いたのか、ユウが歌手になる夢を追っているという事を知り、そこから聖は自分の道を大変換する決意を固めたようだ。

 ユウさえいなかったら、今頃、聖は『天黄聖』として華々しく極道の道を極めていたかもしれない。

 この情報は、聖の腹心の部下でありユウのマネージャーでもある、真壁から仕入れたものだ。

 非常に信ぴょう性は高い。

 聖は、ユウの存在を切っ掛けにして、芸能プロダクションの社長へと転身した。

 現在は会社経営も無事軌道に乗せ、辣腕社長として多くの俳優を輩出している。

 そして今のジュピタープロの看板に、歌手の畠山ユウを推していた。

 もちろん、芸能プロを運営する社長としてユウ歌手の才能を充分に評価しているのもあるだろうが……しかしとにかく、最近は特に目に余る気がする。

 雇われ社長から、正真正銘の経営者になったのだから、聖には会社をある程度自由に動かす権限がある。

 聖はその権限を最大限利用して、ユウを前面に推し出そうとしていた。 

 自分に対する優遇が露骨ではないかと、ユウは聖に言いたい。
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