ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

亜衣藍

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My important friend

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 トランクを転がして歩く達実から、それを奪うように手を掛けて止めると、アレンは真剣な眼差しで達実を見つめる。

「どうした? 何かあったのかい? 」

「――――アレンには、関係のないことだよ」

 つれない態度に、アレンはますます焦れたように追及する。

「どうしてそんな事を言う? 私は、君の一番の親友だろう! 」

「……」

「私の可愛いタツミ、どうかそんな辛そうな顔をしないでおくれ」

 そのセリフに、達実はフッと微笑んだ。

「『可愛い』か……。そんな風に言ってくれるのは、君の他はもう奏だけだな。ダディ九条凛も死んでしまったし……」

 本当は、そのセリフを言ってもらいたい人がここ日本に居る。

 でも、可愛いなんて――――華奢で可憐なオメガならともかく、こんなデカい男相手には言ってくれそうもない。

 そう思うと、達実はアルファである己に対して、心底嫌気が差しそうになってきた。

「……僕は、可愛くなんてないよ。可愛いっていうのは、奏のような愛らしいオメガの事を言うんだ」

「タツミ? 」

 俯いた達実を気遣うように、アレンが様子を伺おうと身をかがめる。

 しかしその前に、達実はパッと顔を上げて、努めて明るい口調で喋った。

「あのね、実は、法要の本番が今日だったんだ。でも、今朝君からメールが来たから――――迷ったけど、こっちを優先したってワケ。後で一緒に、ダディのお墓参りに行ってくれるかい? 」

「もちろんだよ! しかし……それじゃあ、私は随分とタイミングの悪い時に来てしまったようだね。タツミの日本の家族にも悪い事をした」

「いいよ……そんなの。向こうも、義理で僕を呼んだだけだろうし」

「義理? 」

「Moral obligationってことだね。日本人は、本音と建て前っていうのがあるのさ。僕は戸籍上九条凛ダディの息子になっているから、呼ばない事には体裁が悪かったって事だね。――――そうさ、本心では僕になんか……会いたいワケがないんだ……」

 采の本心は、きっとそうだったろう。

 アルファ同士が居合わせた場合、反発するのは自然の摂理だ。

 本当は、日本に呼び出された時、達実は内心嬉しかった。

 采に会う事を思うと、心が躍った。

 だが、いざ顔を合わせると……どうしても憎まれ口が飛び出して来る。

 それは達実も、采も同じで。

 どうあっても、二人仲良く語り合うなんて出来そうもない。

――――本当は……采に優しく口づけをしてもらって、ギュッと抱きしめてほしいのに。

 しかし現実は全く思い通りにならず、こちらから強引に采の唇を奪ったものの、露骨に拒絶されてしまった。


『お前はガキで生意気だし、可愛げも無い。ましてや義理とはいえ弟だ。二十以上も歳の離れた、な』


 そう断言した、采の顔が忘れられない。

 怒り、困惑、動揺――――そんな負の感情しか受け取る事が出来なかった。

 達実のことを、愛しいと……そう思ってくれるような様子はなかった。

 その事に、達実は打ちのめされている。

「何で、僕は……アルファなんだろう……」

 小さく呟いた達実に、アレンは切ない表情になって手を差し伸べた。

「そんな事を言わないでくれ。私は、君がアルファで良かったと思っているんだから」

「アレン……」

「例えば君がオメガなら、私は力づくで君を囲い込んでいるだろうね。君の意思などお構いなしに。――――でも、君はアルファだ。オメガのように脆弱でもないし、ベータのように凡庸でもない。私と、唯一肩を並べる事が出来る存在だ」

 なんとも傲岸不遜な言い方をするが、アレンが言うとそれが当たり前に聞こえる。

 アレンはそれだけの威厳を放ちながら、白磁のような達実の頬を両手で覆った。

「君は、誰より美しい。華麗でゴージャスな真紅の薔薇だ。そして、何より可愛いよ」

「アレンは――僕の言ってほしい事が分かるみたいだな」

 フフっと微笑むと、達実はその手からスッと逃れた。

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