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My important friend
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手を振る達実を視認すると、相手も喜びを爆発させたようにブンブンと手を振って応えた。
達実のことを『愛しい恋人』と言ったその人物は、周りの人間を押しやるように大きなトランクをガラガラと転がしながら、弾けるような笑顔で達実へと歩み寄って来る。
肩までの金髪はキラキラと輝き、その瞳は空を映したかのような見事なスカイ・ブルーだ。身長は180の達実より更に高く190はあり、一見するとスラッとした中肉体形に見えるが、その実、そのボディーはボクシングでしっかりと鍛え上げられており、鋼のような硬い筋肉に覆われている。
だがしかし、彼は貴族のような厳かな気品も確かに持ち合わせており、野獣のような猛々しさというよりは王侯貴族の風格を誇る美丈夫であった。
一目見て、誰もが、彼は只者ではないと分かる。
彼の曳くトランクに押されて、一瞬ムッと振り返った人々もいたが、その姿を見るや否や皆が慌てて道を空ける。
だが彼は、それらに礼を言う事も関心を払う事もせずに、当然のように達実へ向かって真っ直ぐに歩いた。
彼の名は、アレン・シン・アウラ。
達実の親友であり、アメリカの大財閥であるアウラ一族きってのエリート。
正真正銘の、アルファだった。
「やぁ! 久しぶりだね、タツミ! 」
「アレン……本当に日本に来たんだ……」
「だって、君はちっともアメリカに来ないじゃないか。休暇を利用して私の別荘に来る約束だったのに、日本なんかに行ってしまうし! そうなったら、もう、私の方から出向くしかないなと思ってね」
輝くような笑顔で言うと、アレンは達実に抱き付いた。
「私をこんなに焦らすなんて、君は小悪魔だよ」
「おいおい、ここは日本だぞ? ハグは程々に――」
と、言いかけた達実の唇は、アレンの唇によって塞がれた。
それは直ぐに離れたが、アレンは続けて言う。
「日本の仕来たりなんて私はどうでもいい。好きなモノは好きだし、いつでも望むものを手に入れたい。……こんな風にね」
そう言うと、アレンは再び腕に力を入れてギュッと達実を抱き締めようとした。
だが、達実の方はそれをアレンの冗談だと思ったようだ。
笑いながらアレンの腕から逃れると、彼のスーツケースへと手を伸ばす。
「ははは、アレンは、本当にいかにもアメリカ人って感じだな。日本人はみんなシャイだから、せいぜいが握手止まりだよ。……さぁ、向こうにタクシーを待たせてあるんだ。日本には、自家用ジェットじゃなくて民間機を利用して来たのには、何か理由でもあるのかい? 」
「Oh……タツミ。そんなの、一刻も早く君に会いたかったからに決まっているじゃないか」
「? 」
「自家用ジェットは、離着陸に事前許可の申請が必要なんだよ。でも民間機なら、スケジュール通りに毎日運航しているからね。私の仕事がやっと目処が付いたから、すぐに君に会おうと思って速攻で日本行きを手配したんだ」
「本当か? どうしてまた――」
驚いて目を丸くする達実に、アレンは情熱を込めて言い募る。
「だって私は、一刻も早く君に会いたかったんだ」
「アレン……」
「君と一緒に休暇を過ごそうと、ずっと楽しみにしてたんだよ。それが突然キャンセルされたんだ。ジェラシーで、どうにかなってしまいそうだったよ」
言葉通りに身悶える素振りをしてみせるアレンを見て、達実はまた笑った。
「はは、アレンはいつも面白いな」
「しかし、タツミ――何だか顔が暗いね? 日本にはホウヨウという用事で行くんだとメールに書いてあったけど、楽しい要件ではないのかな? 」
「うん……」
曖昧に笑うと、達実はトランクを持つ手に力を入れて、アレンの視線から逃れようとした。
だが、相手はその態度に不信感を抱いたようだ。
いつも、艶やかに咲き誇る薔薇のように華やかな達実が、何故だか萎れているように見える。
そんな事は、断じてあってはならないことだ。
達実のことを『愛しい恋人』と言ったその人物は、周りの人間を押しやるように大きなトランクをガラガラと転がしながら、弾けるような笑顔で達実へと歩み寄って来る。
肩までの金髪はキラキラと輝き、その瞳は空を映したかのような見事なスカイ・ブルーだ。身長は180の達実より更に高く190はあり、一見するとスラッとした中肉体形に見えるが、その実、そのボディーはボクシングでしっかりと鍛え上げられており、鋼のような硬い筋肉に覆われている。
だがしかし、彼は貴族のような厳かな気品も確かに持ち合わせており、野獣のような猛々しさというよりは王侯貴族の風格を誇る美丈夫であった。
一目見て、誰もが、彼は只者ではないと分かる。
彼の曳くトランクに押されて、一瞬ムッと振り返った人々もいたが、その姿を見るや否や皆が慌てて道を空ける。
だが彼は、それらに礼を言う事も関心を払う事もせずに、当然のように達実へ向かって真っ直ぐに歩いた。
彼の名は、アレン・シン・アウラ。
達実の親友であり、アメリカの大財閥であるアウラ一族きってのエリート。
正真正銘の、アルファだった。
「やぁ! 久しぶりだね、タツミ! 」
「アレン……本当に日本に来たんだ……」
「だって、君はちっともアメリカに来ないじゃないか。休暇を利用して私の別荘に来る約束だったのに、日本なんかに行ってしまうし! そうなったら、もう、私の方から出向くしかないなと思ってね」
輝くような笑顔で言うと、アレンは達実に抱き付いた。
「私をこんなに焦らすなんて、君は小悪魔だよ」
「おいおい、ここは日本だぞ? ハグは程々に――」
と、言いかけた達実の唇は、アレンの唇によって塞がれた。
それは直ぐに離れたが、アレンは続けて言う。
「日本の仕来たりなんて私はどうでもいい。好きなモノは好きだし、いつでも望むものを手に入れたい。……こんな風にね」
そう言うと、アレンは再び腕に力を入れてギュッと達実を抱き締めようとした。
だが、達実の方はそれをアレンの冗談だと思ったようだ。
笑いながらアレンの腕から逃れると、彼のスーツケースへと手を伸ばす。
「ははは、アレンは、本当にいかにもアメリカ人って感じだな。日本人はみんなシャイだから、せいぜいが握手止まりだよ。……さぁ、向こうにタクシーを待たせてあるんだ。日本には、自家用ジェットじゃなくて民間機を利用して来たのには、何か理由でもあるのかい? 」
「Oh……タツミ。そんなの、一刻も早く君に会いたかったからに決まっているじゃないか」
「? 」
「自家用ジェットは、離着陸に事前許可の申請が必要なんだよ。でも民間機なら、スケジュール通りに毎日運航しているからね。私の仕事がやっと目処が付いたから、すぐに君に会おうと思って速攻で日本行きを手配したんだ」
「本当か? どうしてまた――」
驚いて目を丸くする達実に、アレンは情熱を込めて言い募る。
「だって私は、一刻も早く君に会いたかったんだ」
「アレン……」
「君と一緒に休暇を過ごそうと、ずっと楽しみにしてたんだよ。それが突然キャンセルされたんだ。ジェラシーで、どうにかなってしまいそうだったよ」
言葉通りに身悶える素振りをしてみせるアレンを見て、達実はまた笑った。
「はは、アレンはいつも面白いな」
「しかし、タツミ――何だか顔が暗いね? 日本にはホウヨウという用事で行くんだとメールに書いてあったけど、楽しい要件ではないのかな? 」
「うん……」
曖昧に笑うと、達実はトランクを持つ手に力を入れて、アレンの視線から逃れようとした。
だが、相手はその態度に不信感を抱いたようだ。
いつも、艶やかに咲き誇る薔薇のように華やかな達実が、何故だか萎れているように見える。
そんな事は、断じてあってはならないことだ。
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