ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

亜衣藍

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Cross-purposes of the love

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  ◇

 アレンはその日、カジノを買収する下見でアリゾナのフェニックスを訪れていた。

 今では獅子王の異名を持つアレンであるが、その頃はまだ十代の若者だった。

 仕事を終えた彼は、せっかくこんな所まで来たのだから、足を延ばしてグランドキャニオンでも観光しようと運転手に命じて車を出した。

 その矢先、道の真ん中で車がパンクして困っている様子の学者風の薄汚い老人と、大輪の薔薇のように、華麗な面差しをした少年を見つけたのである。

「停まれ! 」

 アレンは、即座に命令していた。

 しかし、困窮者を装い、同情を誘って車を停車させるやいなや、強盗に変身するならず者も多い。

「……アレン様。ここは停車せず、お電話でレッカーを呼んでやるのが得策かと存じますが……? 」

 普段であれば、アレンもリスクを考慮して、困窮者など無視して素通りするだろう。

 だが、渋る運転手に、アレンは強い口調で更に命令をしていた。

「あの老人はどうでもいいが、とにかく私は、あの少年と話がしたいんだ」

 主人の命令では、従うしかない。

 元より運転手はベータの男だ。上位種であるアルファの命令には、抗う事などできない。

「とにかく停めろ。二度も言わせるな」

 こうして、アレンは達実と出会ったのである。

   ◇

「ああ……なんて美しい……この胸の尖りも、可憐な桜のつぼみのようじゃないか」

 アレンは熱っぽく囁くと、その可憐なつぼみを親指の腹でくにくにと転がす。

 すると、つぼみは淡い桜色から緋牡丹のように紅く色付き、ツンと硬く上向いてきた。

「う……ん……」

 その刺激に、ムズがる子供のように小さく身動きしたが、達実は起きる様子もなく再び寝入る。

 あどけない寝顔と、成熟しつつある肉体がアンバランスで、ひどく淫猥いんわいだ。

 アレンは興奮してくる自分を何とかなだめようと、少し達実から身体を離して、深く息をつく。

――――まだまだ、こんな所で暴走してしまうのは早過ぎる。

 この手に、この美神ビーナスを抱きたいと思ってから、何年も我慢してきたのだ。ゆっくりと時間を掛けて、まずは身体をトロトロにしなければ。

 まだ十八と年若い達実は、セックスの快楽を知らない。

 事前に調べているので、それは知っている。

 達実の美貌と知性は、アルファの中でも群を抜いている。抱えて加えて、彼はノーベル賞候補にも名前の挙がっている高名な母親も持つ。

 達実は、どこに行っても注目され羨望の的だ。

 誰もが彼を見ては、もうそこから視線を外すことは出来ない。

 きっと、幼い頃から数多く交際を求められてきただろう事は容易に想像できる。

 オメガやベータは然り、アルファからも……。

 しかし彼は、未だ純潔を保っている。

 アレンは、それを奇跡だと思う。

 何より幸いだったのは、達実は愛する母から『本当につがいになりたいほどに好きな人が現われない内は、深いお付き合いはしてはならない』と教育されていた事だ。

 達実はそれを、この歳になるまで忠実に守っているのだ。

 この世に、そんなミラクルが起ころうとは!

「君は義理の兄上に淡い恋心を抱いているようだが……そんな話を、この私にしたのは失敗だったね」

 酷薄な笑みを浮かべ、アレンは気を落ち着かせようとしてか、ウイスキーをもう一杯口にする。


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