ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

亜衣藍

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Each circumstance

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「あいつらは、全然分かってない」

 そう吐き捨てると、立野林檎は忌々しそうに柱を蹴った。

 それ見咎めた相棒が、慌てて声を上げる。

「おい! 」

「このくらいじゃあ、傷なんてつかないよ。ごっつい柱だもん」

 そう言うと、林檎はワゴンを「せーのっ」と声を上げて業務用エレベーターへ押し入れた。

 そうしてからクルリと振り返り、もう一人の相棒と手順の確認をする。

「それじゃあ、オレと笠原の二人で協力して、松木に火を点けて故意に煙感知器を作動させるから、ソッチは事前に――」

「ああ。あくまで防火の通常確認として、一時的にサイレンを鳴らすと周囲に告知しておくよ。スプリンクラーも、屋上のアルファの部屋以外は作動しないよう手を打ってる」

「電話は? 」

「そっちも伝えてあるから大丈夫だ。事情を話したら、オレたちに協力してくれるって太鼓判を押してくれたよ」

「助かるよ。マジ感謝! こういう時、ブルーカラー現場作業者の親友がいると心強いや」

「いいってことよ。オレらのようなオメガは、こういう時は協力し合わないとな」

「そうそう、オレはベータだけど、林檎には普段世話になってるからな。力仕事なら任せとけ」

 この一流ホテルで長年裏方を担当し、それなりに現場では力を持っている親友が二人もいてくれて、本当にラッキーだった。

 林檎は「じゃあ、行ってくる」と告げ、笠原と目線で合図をすると、エレベーターを上昇させた。

   ◇

「足、足を持って! 」

「分かった! とにかく急げ!! 」

 林檎と笠原の二人は、床に投げ出された達実の身体をそれぞれ協力して抱え上げると、ここまで転がして来たリネン交換用のワゴンへと放り込んだ。

 そして、そのまま急いで業務用エレベーターへと引き返す。

 目は見えないが、どうやら自分は何者かに嵌められ、そして愛しい想い人をたった今連れ去られそうだというのを察したアレンが、必死にそれへ追い縋ろうとする。

「ま……まて! 」

「ゲッ! もう復活したのかよ!? 」

「貴様、何者だ!! 私に向かってこのような真似をして――――許さんぞ! 」

「うっさい! 」

 林檎はそう言うと、床に転がしておいた発煙筒をアレンに向かって蹴り上げる。

 それをギリギリで躱し、アレンは尚も追い縋ろうとするが、エレベーターは無情にもアレンの到着を待たずに閉じた。

 その様子を確認して、林檎と笠原は安堵の息をつく。

 とりあえず一安心だが、下に着いたら休む間もなく場所を移動しなければ。

 アルファを怒らせたら、決して気は抜けない。

 ましてやさっきの外人は、アルファの中でもかなり上位のアルファらしいし。

 林檎のようなオメガなど、奴等にとってはゴミムシのように蹴散らせる存在なのだから。

(……だってーのに、なにコイツやられそうになってんの? アルファのクセに! )

 ムカつくが、愛しい相手に頼まれては仕方がない。

 林檎は、なんとかして、想い人の歓心を得ようといつも必死なのだ。

――――林檎は、彼の番になりたいのだから。

「下には、迎えの車が着けてあるはずだから。オレはこのままこいつを連れて、この場所を離れるよ」

 ぜぇぜぇと息を切らしながら言うと、ここまで付き合ってくれた親友の笠原ベータはニカリと笑った。

「OK! そっちも上手くやれよっ」

「本当に助かったよ。オレ一人じゃあ、こんなの無理だった。ありがとう」

「弟の窮地を救ったんだから、これで林檎の株もグンっと上がるな。林檎の好きな相手って、こいつの兄貴なんだろう? 」
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