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Each circumstance

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 笠原の問い掛けに、林檎は曖昧に笑った。

「うん――そうだよ」

「これで、恩人から恋人に昇格ってわけだ。上手く番になれるといいな」

「だね。応援してくれて、ありがとう……」

 林檎は本気で、番になりたいと思っているが……果たして向こうは?

 そこまで考えて、林檎はブンブンと頭を振った。

   ◇

 頭が、痛い。

 とにかくズキズキと猛烈に痛いし、吐き気もする。

 それに、何故か下肢が痺れて力が入らない。

 夢精を何度も繰り返したように、腰が何とも怠い気がするが…………だが、そことは明らかに違う場所も疼くのはなぜだろう?

(なんか、凄い……気持ちが悪い……)

「う――」

 呻きながら、努力して瞼を上げる。

 すると、自分が今、シーツの山に埋もれている事に気が付いた。

「な、なんだ? ここはどこだ――? 」

 低く唸りながら声を上げると、それに気付いたらしい何者かが声をかけて来た。

「あ、目が覚めたか? 」

「……? 」

――――チンッ!

「ほら、到着したよ! すぐに起きて車に乗って! 迎えが裏口に来てるから!! 」

 促されるまま、ヨタヨタとシーツの山から身を起こすと、見覚えのある顔がこっちを睨んでいるのに気づいた。

(確か、こいつは……)

「ええと、あんたはたしか――――ん……何て言ったっけ? 」

「いいよ、もう! どうせオレの事なんか、通りすがりのオメガAとか愛人Aとかって、そんな認識しかないんだろう! 」

 相手は怒ったように言うと、ぼうっとしている達実をキッと睨んできた。

「オレの名前は、立野林檎! ヨコノリンゴとかってイジリは面倒臭いから絶対するなよ。 あんたの兄貴の、九条采の愛人やってるオメガだよ! 」

「……? 」

「この前、マンションでばったり会ったばかりだろう!? そんなにオレは存在感が薄いのかよ! 」

 林檎は顔を真っ赤にして怒鳴ると、早く立てと達実の腕を引っ張った。

「ほら、ここでグズグズしてたら、あの金髪野郎がやってくるよ! 」

「金髪? アレン……? そうだ、アレンはどうしたんだ――? 」

 激しい頭痛に顔をしかめながら、達実は何とか立ち上がる。

「いった~……ん? 何で僕は裸なんだ? 」

「そんなの、あいつにヤられそうになったからだろう! あんた、采に散々迷惑かけて――」

「達実! 」

 その必死の声に、林檎の説教は中断された。

 声の主は、達実の義理の兄であり、林檎の恋人である九条采だった。

「この、バカ! 早く来い!! 」

 そう一喝すると、采は問答無用で達実を抱え上げた。

 180cmもの長身も軽々と担ぐ采の力強さに、林檎はポッと頬を染める。

「采、あの、オレ……」

「この礼は必ずする。今回は迷惑をかけた」

 言いながら、采は素早く身を翻させ、裏口から駐車場へと歩き始める。

 慌ててそれを追いながら、林檎は媚びるように笑いかけた。

「あのね、采――――御礼してくれるなら、オレっ――」

「すまん、後で口座に振り込んでおく」

 采は追い縋る林檎を一瞥することなくそう言うと、待たせていた車へ乗り込み、あっという間に走り去って行った。

「采……なんだよ、なんだよ、それは!! 」

 残された林檎は、独り悔しそうな声を漏らしていた。

「――――あいつら、全然、分かってない! 」
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