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Their circumstances
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しおりを挟む激しい頭痛に、達実は完全にノックアウト状態だ。
あの騒動から一日経っているが、未だ体調が戻っていない。
「う~……何も考えられない~」
一人でウンウン唸っていると、コンコンとドアがノックされた。
「入るよー、達実くん」
「うぅ……」
「まだ回復してないみたいだね。はい、頭痛薬だよ。達実くん、お酒が弱いんだね~」
「――みたい」
「じゃあ、なんで飲んだのさ」
「それは、こっちが聞きたいよ。全然記憶がない……」
達実はそう言うと、渡された薬とペットボトルの水を口に含んだ。
「ありがとう、嘉偉。お母さんは? 」
「いつも通り仕事だよ。母さん、バリバリの女社長だし」
そう言うと、利発そうな少年は肩をすくめた。
「それより達実くんのこと、母さんも心配してるんだよ。進路とかも相談に乗ってやりたいみたい。ねぇ、達実くんは九条系列の仕事には就かないの? 」
少年の名前は、九条嘉偉。
母親はあの九条恵美であり、叔父は九条采だ。
嘉偉はベータであるが、恵美の息子である以上、実質、彼が次期九条家の当主である。
教育熱心な恵美は勉学だけでなく人間教育にも力を入れ、嘉偉は、名門である九条家の跡取りというセレブでありながら、偉ぶったところ一つもない素直な少年である。
――――恵美は、未婚のまま嘉偉を産んだ。
彼女は決して嘉偉の父親の名は明かさなかったが、どうやら彼女のお相手は相当性格に難があり、それで何度もトラブルが起こったので、息子だけは真人間に育てようと決意したらしい。
母親と叔父の努力が実り、嘉偉は心優しい少年に育った。
ベータでありながら、アルファの名門と讃えられていた九条家の後を継ぐのは心身共に大変であろうに、嘉偉は健気に日々頑張っている。
「僕……達実くんが居てくれたら、嬉しいんだけどな……ねぇ、海外部門でいいから、九条の仕事をどれか手伝ってくれない? 」
嘉偉は、この美しい従兄弟の事が昔から大好きなので、いつか一緒に仕事がしたいと思っていた。
だが、達実の方は、残念ながら嘉偉ほど興味が無いようである。
「あーパス。だって、僕がなりたいのは考古学者だもん」
「奏さんみたいに、医療系も考えてないの? 海外で学位は取ってるんだろう? 」
「ん~そうだね……」
奏と一緒の道を歩むというのも考えた事があるが、やはり達実は、違う道を行きたいと思う。
「奏とダディに再婚してもらおうって考えていた時は、九条系列の医療センターでインターンもいいな……なんて考えた時もあったけど、今となってはね……」
「そっか……凜伯父さんが亡くなったから、もう達実は、もうこっちには興味がないんだ……」
「興味がないわけじゃないけど……ゴメン。僕は嘉偉は好きだから、嘉偉と一緒に働くってのは魅力的だとは思うけど……」
九条は、考古学の分野には手を出していない。
そうなると、九条家の跡取りとしての道を歩む、この嘉偉とは一緒にいられないだろう。
嘉偉はぐすんと涙ぐむと、ベッドに上半身を起こしていた達実へギュッと抱き付いた。
「でも、年に何回かは絶対日本に帰って来てよね! 僕も母さんも、采叔父さんだって達実くんのこと大好きなんだから」
「はは……恵美さんはともかく、采はどうかな――」
昨日、ここに着くなりバスルームに放り込まれて、問答無用で全身泡塗れにされて洗われた。
当然、達実は抗議をしたが、具合が悪くて目の前がグルグル回り……手にも足にも、声さえも全然力が入らず、それどころか、ゲーゲー吐いてダウン寸前だった。
しかし采は一切気を遣う様子もなく、とにかく乱暴に振舞った。
達実の手首には、加減無しで掴まれたその時の痕が、痣になって残っている。
采は始終無言で、達実の身体を強引にひっくり返しながら、頭から足先まで洗った。
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