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Is it the love which isn't achieved?
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しおりを挟む達実は、茫然と立ち尽くしていた。
――――事前に、采のマンションを達実が訪れる事を知っていたのか、コンシェルジュは達実を止めることはしなかった。
多分、達実が来た場合はすぐに部屋へ上げろと、采が言っていたのだろう。
そう見当をつけた達実は、コンシェルジュの対応が特別おかしい事とは思わず、エレベーターへ乗った。
だが、エレベーターから降りて、采の部屋を訪れようとしたところ、内部のただならぬ様子に達実は足を止めていた。
ドア一枚隔てて、彼はそこから動けないでいる。
何か内部で深刻な話し合いをしているらしく、時折緊迫したような声がここまで漏れてくるからだ。
どうやら、あのオメガが采に迫って、何事か喋っているようである。
タテだかヨコだか名前の方の記憶が定かではないが、あのオメガは采の愛人だ。
あいつがここに居ても不自然ではないが。
(なんで――アレンも一緒にいるんだ? )
なぜか、そこにはアレンもいた。
達実が二日酔いでダウンした原因は、まずアレンにあるのだろう。
その関連で、アレンがこのマンションへ謝罪に来たというのも分かるが。
だが、同じ場に、あのオメガもいる理由が分からない。
(ええと……そうだ、僕はアレンの泊っているホテルで、あのオメガに助けられた……ような? ああ、もう! )
そこまで思い出したところで、また激しい頭痛が襲ってきた。
達実は顔をしかめて、身体を壁に凭れかける。
(気持ちが悪い……吐きそう……)
どうにも肉体的に辛いのもあるが、それ以上に、精神的に辛い。
ハッキリしない不快な記憶に、悪寒がする。全身に鳥肌が立つ。
(やっぱり、アレンのホテルに居たときのことは、思い出したくない気がする――――僕はアレンに、何か嫌な気がする)
この前までは、遠路はるばる達実の都合に合わせて日本まで来てくれるなんてと、とても嬉しかったのに。
どうして今は、アレンに会いたくないと思うんだろう?
達実は、自分の心境の変化に戸惑うばかりだ。
(どうしよう……今日はこのまま引き返した方がいいのかな? )
そう逡巡していたところ、内部から『番』という言葉が聞こえてきた。
達実はギョッとして、思わず扉へと耳を当てる。
すると――――なんと、あのオメガが妊娠したという会話が聞こえて来た!
「そっ……」
『それは本当!? 』と、つい声を出しそうになるのをグッと堪える。
(これは、とんでもない修羅場じゃないか! )
愛人のオメガが身籠るなんて……采はどうするんだろう?
(番に……するつもりなのか? ただの愛人じゃなかったのか? 采――)
達実は、アルファだ。
当然妊娠など不可能だ。
どんなに采の事が好きでも、番にはなれない。
男体でも子を身籠る事が出来るのは、オメガだけの特権だ。
――――この達実も、オメガの男体である奏から誕生したのだから。
故に達実は、オメガを尊い存在だと思っている。
彼は、オメガを差別して卑下などするつもりは一切無い。
でも…………つい、声を大にして言いたくなってしまった。
(采を騙して、勝手に妊娠して、それで番にしろっていうのはあんまり都合のいい話じゃないのか!? 采! 安易に同意しちゃあ、ダメだ! )
しかし――――
『……わかった』
と、返事をする采の声が聞こえた。
その答えに、達実はフラリと膝から崩れそうになる。
(采……)
意識しない絶望の涙が、つと頬を滑り落ちる。
ああ、達実の恋は――――終わってしまった……。
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