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La Vie en rose
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その胸に抱かれながら、達実はそれこそ、真っ赤な薔薇のように頬を染めた。
アレンが、自分に対して好意を持っていたのは知っている。
尊大で冷酷だと評されている彼が、達実に対してだけは態度が違う。
女王に傅く騎士のように、いつも恭しく達実には接してくる。
そして、母である奏以外では――――アレンだけが、達実のことを可愛いと言ってくれる。
美人だ、艶やかだ、綺麗だ、オーラがある。
みんな揃って、達実のことをそう褒めてはくれるが『可愛い』とは言わないのに。
アレンが捧げてくれるその言葉が、どれだけ達実は嬉しかった事か。
――――しかし、達実はオメガではない。
『支配者』であるアルファの達実は、決して可愛いオメガではないのだ。
だから、達実は諦めていた。
采に可愛がられ愛される夢は、どうやっても叶わないのかもしれないと。
しかし、今、目の前にいるこの男は――――誰よりも達実が可愛く愛しいのだと言う。
愛の言葉を、途絶えることなく捧げてくれる。
「アレン……」
達実を手に入れる為に練ったはずの謀略を断念して、真摯に、本音を告白してくれるアレン。
達実を欲しいと言ってくれる、唯一の男。
(僕は――どうしたらいいんだろう)
揺れる心に、達実は戸惑う。
今も、達実は采を愛している。
自身の義兄だとか、そんなのはどうでもいい話だ。
だいたいにして、それはとうの昔に亡くなった七海達樹と、九条凛の恋の話から生まれた、ただの成り行きの関係のようなものだ。
この世を去る七海が恋人の為に、奏の同意を得たうえで奏と性交し、達実が誕生したというだけなのだから。
今の自分と采とは、関係のない昔話だ。
戸籍上は兄弟だが、采と達実は全く血が繋がっていない。赤の他人だ。
だが、そう割り切っているのは達実だけで。
(采は、どうしても僕のことは弟にしか見えないのなら……)
この恋は、もう諦めた方がいいのだろうか。
しかし、どうしてもまだ未練が募る。
駄目なようだから、それじゃあ次だと直ぐに割り切れるような、達実はそんなドライな性格ではない。
アレンの情熱に惑いながらも、達実は小さく首を振って答えた。
「アレン、君の気持ちは嬉しいけれど――僕はまだ、采の事が……」
するとアレンは、最後まで言わせまいとするように、タツミを抱く腕に力を入れた。
「――采が好きでも構わないから、私の愛を受け入れて欲しい。君の夢だって、いくらでもサポートするから」
「僕の……? 」
「考古学者になりたいのだろう? 研究所や専門の施設や――そう、博物館も作ろうじゃないか。私がアウラ財団会長として君に出資して、幾らでも君の夢を手伝ってあげるよ」
ニコリと笑い、アレンは言う。
「私も、考古学には興味があったんだ。生物の進化を知るなんて、ロマンに溢れているからね」
「――――僕が、どうして考古学に興味を持ったか知っているかい? 」
「それは……奏博士に対する、ちょっとした犯行心がスタートだったんじゃないかな? 彼の研究は、現代医学の最先端を研究する分野だ。考古学は、それとは逆行している分野だし。でも、生物進化の過程を知る事は、我々のゲノム情報にも深く関係してくることだ。もしかしたら、生理学でも素晴らしい発見をする可能性もあるね。ひょっとして、君はそれを狙っているのかな? 」
アレンなりの憶測を口にしたところ、達実はフッと微笑んだ。
「そんな大したものじゃないよ……」
「それじゃあ――ゆっくりと、教えて欲しい。君の夢や、希望や、何もかもを」
「アレン……」
「愛しているよ、タツミ」
そう甘く囁くと、アレンは腕の中に閉じ込めた大切な宝物を逃さないようにと、優しく……しかし力強く抱きしめたのだった。
アレンが、自分に対して好意を持っていたのは知っている。
尊大で冷酷だと評されている彼が、達実に対してだけは態度が違う。
女王に傅く騎士のように、いつも恭しく達実には接してくる。
そして、母である奏以外では――――アレンだけが、達実のことを可愛いと言ってくれる。
美人だ、艶やかだ、綺麗だ、オーラがある。
みんな揃って、達実のことをそう褒めてはくれるが『可愛い』とは言わないのに。
アレンが捧げてくれるその言葉が、どれだけ達実は嬉しかった事か。
――――しかし、達実はオメガではない。
『支配者』であるアルファの達実は、決して可愛いオメガではないのだ。
だから、達実は諦めていた。
采に可愛がられ愛される夢は、どうやっても叶わないのかもしれないと。
しかし、今、目の前にいるこの男は――――誰よりも達実が可愛く愛しいのだと言う。
愛の言葉を、途絶えることなく捧げてくれる。
「アレン……」
達実を手に入れる為に練ったはずの謀略を断念して、真摯に、本音を告白してくれるアレン。
達実を欲しいと言ってくれる、唯一の男。
(僕は――どうしたらいいんだろう)
揺れる心に、達実は戸惑う。
今も、達実は采を愛している。
自身の義兄だとか、そんなのはどうでもいい話だ。
だいたいにして、それはとうの昔に亡くなった七海達樹と、九条凛の恋の話から生まれた、ただの成り行きの関係のようなものだ。
この世を去る七海が恋人の為に、奏の同意を得たうえで奏と性交し、達実が誕生したというだけなのだから。
今の自分と采とは、関係のない昔話だ。
戸籍上は兄弟だが、采と達実は全く血が繋がっていない。赤の他人だ。
だが、そう割り切っているのは達実だけで。
(采は、どうしても僕のことは弟にしか見えないのなら……)
この恋は、もう諦めた方がいいのだろうか。
しかし、どうしてもまだ未練が募る。
駄目なようだから、それじゃあ次だと直ぐに割り切れるような、達実はそんなドライな性格ではない。
アレンの情熱に惑いながらも、達実は小さく首を振って答えた。
「アレン、君の気持ちは嬉しいけれど――僕はまだ、采の事が……」
するとアレンは、最後まで言わせまいとするように、タツミを抱く腕に力を入れた。
「――采が好きでも構わないから、私の愛を受け入れて欲しい。君の夢だって、いくらでもサポートするから」
「僕の……? 」
「考古学者になりたいのだろう? 研究所や専門の施設や――そう、博物館も作ろうじゃないか。私がアウラ財団会長として君に出資して、幾らでも君の夢を手伝ってあげるよ」
ニコリと笑い、アレンは言う。
「私も、考古学には興味があったんだ。生物の進化を知るなんて、ロマンに溢れているからね」
「――――僕が、どうして考古学に興味を持ったか知っているかい? 」
「それは……奏博士に対する、ちょっとした犯行心がスタートだったんじゃないかな? 彼の研究は、現代医学の最先端を研究する分野だ。考古学は、それとは逆行している分野だし。でも、生物進化の過程を知る事は、我々のゲノム情報にも深く関係してくることだ。もしかしたら、生理学でも素晴らしい発見をする可能性もあるね。ひょっとして、君はそれを狙っているのかな? 」
アレンなりの憶測を口にしたところ、達実はフッと微笑んだ。
「そんな大したものじゃないよ……」
「それじゃあ――ゆっくりと、教えて欲しい。君の夢や、希望や、何もかもを」
「アレン……」
「愛しているよ、タツミ」
そう甘く囁くと、アレンは腕の中に閉じ込めた大切な宝物を逃さないようにと、優しく……しかし力強く抱きしめたのだった。
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