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sweet time
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「もっと、真剣に考えてよね! 」
そう言って、手にしていた紙束でデスクをバンっと叩いてきた。
さすがにムッとして、采は嘆息する。
「あのな、式場も新婚旅行も、全部お前の好きな場所で良いと何度も言っているだろう。何が不満だっていうんだ? 」
「だって……」
林檎は色々と文句を言いたいらしいが、元々語彙が少なく、湧き起こる感情を上手く言葉に出来ないらしい。
ただ悔しそうにモゴモゴと口を動かして顔を真っ赤にすると、大きな声で、
「采のバカ! ハゲ!! 」
と、子供の悪口のような事を喋った。
「オレを番にするんだろう! だったら、もっとちゃんと相手しろよな! 」
「だから、マンションの鍵を渡しただろう! 頼むから、二週間はそこで大人しくしてくれ」
「で、でも……」
まだ、何事か言い淀む様子に、采はピンと来る。
「ああ――カネか? 」
采はそう呟くと、財布からカードを一枚取り出した。
「必要な物があれば、このカードを使え。限度額は設けてないから、好きなように欲しいものを買えばいい」
すると林檎は、一瞬悲しそうな顔になった。
だがすぐにキッと采を睨むと、とっておきの切り札のように口を開く。
「オレに、そんな態度でいいと思うの? 」
「は? 」
「オレのお腹には――――あ、赤ちゃんがいるんだからな! 采の子供なんだからな! 」
「……」
「な、なんだよ? 」
「いや――もう何も言う気はないだけだ」
采は心底ウンザリとしたような溜め息をつくと、デスクに散らばったパンフレットを纏めて林檎へ渡した。
「とにかく、達実が出国してから諸々の話を詰めよう。オレも忙しいんだ。少しは協力してくれ」
「う……」
子供の存在を持ち出しても変わらずつれない態度の采に、林檎は言葉を詰まらせてカードを受け取ると、プイッとそっぽを向いた。
そうしながら、恨み言のようにブツブツとまた文句を言う。
「……そんなんじゃ――――采は、立派な父親になんか成れないよ! そりゃあ、オレは今まで散々カネをくれってタカったけどさ……でも今は、カネだけじゃないんだよ。将来の事を言ってるんだ。子供の為にも、もっと家庭ってヤツを大切にするとか。だから、最初の共同作業として、一緒に式の事を考えないとさ……」
だが、仕事に集中したい采には、わざわざマンションに押し掛けてベラベラと一方的に喋り続ける林檎の存在は迷惑にしかならないようだ。
眉間に深い皺を刻むと、采は怒気を放った。
「同じ事を何度言わせる気だ! 達実が出国するまでは黙っていろと言うんだ! オレの邪魔をするなら、摘まみ出すぞ!! 」
「さ、采――」
途端に、林檎は悲しそうな表情になった。
その顔を見て、さすがに采も悪かったと思ったようだ。
若干口調をやわらげて、今度は諭すように言う。
「とにかく、オレの用意してやったマンションで、こっちが落ち着くあいだは静かに暮らしていてほしいんだ。達実がまたお前と鉢合わせして、トラブルになるとも限らないしな」
「――」
「達実はアルファの男から求婚されていて、色々騒がしい状況なんだ。オレの方も、その件に関してこれから顧問弁護士と相談するかと考えていたところだ。その他にも、この通り仕事も抱えているしな。だから、今はお前の相手をしてやる暇はないんだよ」
「ヒマ――そう、ヒマ、ね……」
子供の存在を盾にしても、さして効果はないようだ。
その事に、林檎は内心で激しく動揺し、そして落胆した。
――――実は、林檎は本当は妊娠などしていない。
だが、自分はオメガだ。妊娠したと言い張れば、このウソは真実として通るだろう。
そう言って、手にしていた紙束でデスクをバンっと叩いてきた。
さすがにムッとして、采は嘆息する。
「あのな、式場も新婚旅行も、全部お前の好きな場所で良いと何度も言っているだろう。何が不満だっていうんだ? 」
「だって……」
林檎は色々と文句を言いたいらしいが、元々語彙が少なく、湧き起こる感情を上手く言葉に出来ないらしい。
ただ悔しそうにモゴモゴと口を動かして顔を真っ赤にすると、大きな声で、
「采のバカ! ハゲ!! 」
と、子供の悪口のような事を喋った。
「オレを番にするんだろう! だったら、もっとちゃんと相手しろよな! 」
「だから、マンションの鍵を渡しただろう! 頼むから、二週間はそこで大人しくしてくれ」
「で、でも……」
まだ、何事か言い淀む様子に、采はピンと来る。
「ああ――カネか? 」
采はそう呟くと、財布からカードを一枚取り出した。
「必要な物があれば、このカードを使え。限度額は設けてないから、好きなように欲しいものを買えばいい」
すると林檎は、一瞬悲しそうな顔になった。
だがすぐにキッと采を睨むと、とっておきの切り札のように口を開く。
「オレに、そんな態度でいいと思うの? 」
「は? 」
「オレのお腹には――――あ、赤ちゃんがいるんだからな! 采の子供なんだからな! 」
「……」
「な、なんだよ? 」
「いや――もう何も言う気はないだけだ」
采は心底ウンザリとしたような溜め息をつくと、デスクに散らばったパンフレットを纏めて林檎へ渡した。
「とにかく、達実が出国してから諸々の話を詰めよう。オレも忙しいんだ。少しは協力してくれ」
「う……」
子供の存在を持ち出しても変わらずつれない態度の采に、林檎は言葉を詰まらせてカードを受け取ると、プイッとそっぽを向いた。
そうしながら、恨み言のようにブツブツとまた文句を言う。
「……そんなんじゃ――――采は、立派な父親になんか成れないよ! そりゃあ、オレは今まで散々カネをくれってタカったけどさ……でも今は、カネだけじゃないんだよ。将来の事を言ってるんだ。子供の為にも、もっと家庭ってヤツを大切にするとか。だから、最初の共同作業として、一緒に式の事を考えないとさ……」
だが、仕事に集中したい采には、わざわざマンションに押し掛けてベラベラと一方的に喋り続ける林檎の存在は迷惑にしかならないようだ。
眉間に深い皺を刻むと、采は怒気を放った。
「同じ事を何度言わせる気だ! 達実が出国するまでは黙っていろと言うんだ! オレの邪魔をするなら、摘まみ出すぞ!! 」
「さ、采――」
途端に、林檎は悲しそうな表情になった。
その顔を見て、さすがに采も悪かったと思ったようだ。
若干口調をやわらげて、今度は諭すように言う。
「とにかく、オレの用意してやったマンションで、こっちが落ち着くあいだは静かに暮らしていてほしいんだ。達実がまたお前と鉢合わせして、トラブルになるとも限らないしな」
「――」
「達実はアルファの男から求婚されていて、色々騒がしい状況なんだ。オレの方も、その件に関してこれから顧問弁護士と相談するかと考えていたところだ。その他にも、この通り仕事も抱えているしな。だから、今はお前の相手をしてやる暇はないんだよ」
「ヒマ――そう、ヒマ、ね……」
子供の存在を盾にしても、さして効果はないようだ。
その事に、林檎は内心で激しく動揺し、そして落胆した。
――――実は、林檎は本当は妊娠などしていない。
だが、自分はオメガだ。妊娠したと言い張れば、このウソは真実として通るだろう。
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