ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

亜衣藍

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Depressed rose

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 愛の起源を知りたい。

 それが、考古学を志す切っ掛けだった。

 達実の話を聞くと、奏は朗らかな口調でなるほどね、と言った。

『それは素敵な話だね。僕たちオメガも、鳥人と呼ばれているんだよ。さすがに鳥のように卵は産まないけれど――――後孔の性交で子を身籠るのは、鳥と体のつくりがとても似ているんだ。もしかしたら、達実の研究の先には、オメガの起源にも繋がる発見があるのかもね』

 恐竜は、絶滅していない。

 生き残った彼等は鳥に進化して、天空の支配者になった。

 そのなかには、もしかしたら違う進化を辿ったモノもあったかもしれない。

 そうだ、千変万化だ。

 この世は未知に溢れている。まだまだ、解明されていない多くの謎がある。

『愛の起源か――――さすがは、僕の産んだ子供だ。目の付け所が違う』

「奏……笑わないの? 」

『どうして? 』

 不思議そうな声に、達実の方が苦笑する。

「――――ハハ。奏なら、そう言うと思っていた。でも多分……アレンや采は笑うかもしれないよね。こんな、掴みどころのない夢を追うような話なんてさ」

『言ってみればいい』

「でも――」

『夢を否定されるのは、嫌かい? 』

「うん……」

『達実が心を寄せる相手が、そんな浅慮な事はしないと思うけれど。しかし――采と、アレンって言ったね? あのアメリカ人のアレンくんでいいのかな? 』

 フゥと溜め息をつくと、奏は困ったような声をもらした。

『彼が、達実のことを好きなのは薄々分かっていたけど……いま達実は日本にいるんだろう? もしかして、彼は日本まで達実を追って来たのかな? 』

「そうなるね……休暇はアメリカで遊ぼうっていう話はキャンセルになったと伝えたら、わざわざ日本まで来てくれたんだ。本当に良いヤツ――なんだけど……」

 この、困った状況を作り出した元凶でもある。

 ここのコテージに移ってからも、アレンから何度かやんわりと迫られていて、達実は正直言ってかなり進退窮まっていた。

 アレンは手慣れた様子で、達実に蕩けるようなキスをしてくる。

 指先、腕、肩、そして唇へと……アレンのキスは甘くて、でも情熱的で、心も体も熱くなる。

 チュッチュッと繰り返される小鳥のようなキスが、次第に吸い付き喰らい付くようなものに変わる頃――達実は快感に引き摺られそうになる。

 だがアレンは、決してそれ以上強引な事はしていない。

 むしろ達実に対して、とても忍耐強く、紳士的に振舞っている。

 彼は、前回、達実を酒に酔わせた状態で無理に行為に及ぼうとした事を真摯に懺悔し、そして謝罪してきた。

 その上で、彼は達実に愛の言葉とキスを捧げてくるのだ。

 達実は、アレンが嫌いではない。

 元々親友だと思っていたので、そういう意味では彼のことは好きだ。

 今でも、気の合う友人だと思っている。

――――だが、アレンの望む関係は『友人』ではない。

 ましてや愛人でもなく、彼が望むのは唯一無二の恋人だ。

 恋人に対しては、強引な真似はしたくないと……アレンは辛抱強く、達実の応えを待っている。

「アレンは――――番になってくれって言うんだ」

『そう』

「おかしいだろう? 僕たち、お互いにアルファなのに……オメガでもない項を噛んでも意味なんか無いのにさ」

『そんな事はないよ。好きっていう感情は、種族は飛び越えていいんじゃないかな? オメガだって、もう項の呪縛から解き放たれているんだ。運命っていう呪いに縛られない人生を、自由に生きるようにね』

 奏は、オメガの地位向上の為に尽力し、画期的な薬をいくつも開発した。

 その中の一つに”項の呪いを無効化“する薬がある。

『もちろん、昔ながらの生き方を続けるオメガもいるけどね。でもそれは、その人の選んだ道だから。僕は否定はしないよ』

「采は――――まだオメガと項の契約はしていないみたいだけど……」

『おや? それじゃあまだ希望はあるんじゃないのかな? 達実は――』

「そうだよ。僕はやっぱり、采が好きだ。あいつじゃないとダメなんだ。でも……それなら尚更あきらめないと――」

 采の為を思うならば、黙ってオメガと番わせた方がいい。

 アルファ同士が番になってしまったら、そこに将来得るであろう『家族』は手に入らないのだから。

   ◇

 そう言い切った達実を……彼の座るカウチから死角になっていた戸口で、アレンはもの言いたげに見守っていた。

 そうして、一つ深く溜め息をつくと――――アレンは、何かを決意したように踵を返したのだった。

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