ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

亜衣藍

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Tender criminal

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 アレンは、SPによって取り押さえられた眼前の人物を確認すると、意外そうな顔になった。

「お前は――リンゴじゃないか!? 」

「アレン様、この日本人と本当に面識がおありだったのですか? 」

「だからっ! 何度もそう言っているじゃないか!! このバーカ! 」

 腕を後ろに取られた苦しい姿勢のまま、林檎は悪態をついている。

 何とも元気な様子に、ついアレンは苦笑してしまう。

「……ああ、知り合いだ。放していい」

 アレンの命に、それまで林檎を拘束していた黒服達は大人しく従った。

「クソッ! だから最初からそう言ってたのに――――あんた、いっつもあんな連中を連れ歩いているのかよ!? 」

 林檎はそうブーブー言いながら、痣の付いた自身の手首を気遣わし気に擦る。

 件の悪だくみの共闘仲間として、アレンと林檎は互いの連絡先を交換していた。

 しかし林檎は、事前に電話で連絡を入れずに、直接アレンの泊るコテージに鼻息荒く乗り込んで来たらしい。

 それでは、SPに拘束されるのは当たり前の話だ。

 だが、アレンはその点には触れずに、林檎をジッと見つめる。

 こんな無茶を仕出かした林檎の行動理由の方が気になったので、それを訊ねる。

「どうして、直接ここへ来たんだ? 連絡を取り合う場合は電話を使用すると、そう打ち合わせをしていたではないか。約束通り事前に連絡してもらえば、こちらできちんと場所は用意したのに」

 そう、当然の質問をするアレンに――――林檎は、不貞腐れた様子で口を開いた。

「そんな面倒な真似なんかしているのが、イヤになったんだ。とにかく今日中に、ヤサを変えたかったんだよね」

「ヤサヲカエル? ……ああ、居場所を変えたかったという事か」

 言葉の意味を理解するが、同時にアレンは不審げに眉根を寄せた。

 林檎は、九条采の元に引き取られたはずだ。

 林檎の狙いは、采の正式な『番』の地位だ。

 妊娠を(真っ赤な嘘だが)ダシにして、巧みに采の番になる事を承諾させることまで見事に漕ぎ着けた。

 そんな狡猾なオメガである林檎ならば、そのまま自慢の手管を使って、もっと采に取り入ろうと行動しているはずなのに。

「どうした? サイに追い出されたのか? 」

 やはり、あまりに露骨過ぎたか。

 オメガがアルファに対し『番』にしてくれと強欲に強請り、それが元でトラブルに発展するというパターンは、実際よく聞くトラブルだ。

 事実、それに近い事はアレンも経験したことがある。

(さては、本当に妊娠したと言い張って、それでケンカにでもなったのか? いかにもありそうな話だ――――だから、オメガという連中はいまいち信用できなんだ)

 催淫フェロモンをプンプンと垂れ流し、それを餌にして、上位種であるベータやアルファを釣り上げようとしている。

(質の悪い淫売め)

 眉をひそめるアレンに向かい、だが林檎はブンブンと首を振る。

「違うよ。オレが、自分から采のところから出て行くんだ」

「どうしてだ? あんなに、サイの番になりがっていたのに」

 すると林檎は、俯いてアレンから視線を外した。

 そしてしばらく無言でいたが、何か覚悟を決めたようにフゥと息を吐くと、次にパッと顔を上げた。

「だって、采よりアンタの方が、ずっとグレードの高い金持ちセレブみたいじゃないか」

「? 」

「融通の利かなそうな日本人のアルファの番よりも、あんたみたいなスーパーセレブの愛人に収まった方が、ずっと贅沢三昧で豪華な生活送れそうじゃん? オレ、窮屈な思いするのなんかゴメンなんだよねー」

「……」

「だからさ、オレをアンタの愛人の一人にしてくれって話。そうしたらさ、うんとサービスするぜ~。オレ、めちゃくちゃフェラが上手いって、ギョーカイじゃあ有名なんだぞ? 」

 そう言うと、林檎は婀娜な仕草で項をかき上げ、ピンク色の舌をゆっくりと出し、わざと自分の唇をペロリと舐めてみせる。
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