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Ending
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達実はその後、日本での諸々の手続きを終え、母親である結城奏が暮らす北欧へと戻って行った。
しかし彼は、将来は考古学者の道を歩むべく、イギリスの大学へ編入することを決断したらしい。
『愛の起源を知りたい』という、以前からの夢を追う為に。
そして九条采は、達実の帰国後、叔母である九条恵美の右腕として、以前にも増して精力的に九条の仕事に従事するようになった。
その一環として、彼は、新たに海外に新設されたkujyou-Medical総合研究所の統括部長に就任する事になる。
勤務地は、達実と同じイギリスであった。
恵美は日本を拠点としたアジアでの仕事、采はイギリスとアメリカを拠点にした海外の仕事を受け持ったワケだ。
九条嘉偉は、将来は母の居る日本での仕事ではなく、叔父の居る海外での九条の仕事を手伝いたいと言い出し、五ヵ国語を習得すべく猛勉強を始めている。
春からは、イギリス留学もする予定だ。
口では九条の為と言いつつ、目的は別にあるらしいが……?
アメリカに帰ったアレン・シン・アウラであるが、共に渡航した立野林檎が、その一ヵ月後に日本へ帰国してしまったことにひどく落胆した。
アルファの『獅子王』の異名を取る彼が、打ちひしがれた負け犬のような惨めな有様に成り果て、数日間部屋に籠って出て来なかった。
これには、それまで彼に付き従っていた侍従や執事たちが、大慌てする事になる。
よもや、あの絶対王者のように彼らの上に君臨していたアレンが、ここまで落ち込むとは誰も予想も出来なかっただろう。
しかしその後、復活したアレンは速攻で日本へ渡り、再び林檎へプロポーズしたようだ。
自身の拠点も日本に移し、日参するように林檎の元を訪れているらしい。
立野林檎が、このアレンの情熱に絆されるのも、時間の問題のようである。
◇
「達実も、いよいよ僕の手を離れるのか……何だかそう思うと、寂しいね」
ひっそりと笑いながら、結城奏はグラスにワインを注ぐ。
久しぶりに訪ねてきた、友人の手土産だった。
「ちょっと早いけど、乾杯しようか」
「ありがとう。でも僕、アルコールは……」
「これはそんなに強いお酒じゃないから大丈夫だよ」
微笑みながらそう言うと、達実は安心したように笑った。
「じゃあ、頂こうかな」
「うん――――乾杯」
「乾杯! 」
チンッという軽い音を立て、二人はワインを口にする。
それから、これからの生活の事をゆったりと語り合った。
そうしている内に、ちょっと酔いの回ってきた達実は、ほんのりと頬を染めながら奏に気になっていた話を振る。
「そういえば、奏は……本当に恋愛なんてしていたの? 」
「ん? 」
「ほら、僕の知らない所で、それなりに恋愛してるって……前に電話で言っていたじゃないか」
「ああ――あのことね」
達実の疑問に、奏はニッコリと笑う。
「嘘じゃないよ」
「でも僕、しっかりとガードしていたつもりだったんだけど……」
「ははは、確かに。達実のガードは厳しいって、ボヤいていたね」
少し笑うと、奏は手にしたワインに視線を注ぐ。
「このワインは、その彼らのお土産だよ」
手にしたワインは、甲州ワイン――――甲州ぶどうは、日本発祥のぶどうだ。
故郷を離れて寂しかろうと、手土産に渡されたワインだ。
「日本産のワインも、年々海外で評価を上げているんだって。だから、今回この甲州ぶどうの種を使って、ヨーロッパでワイン醸造する大規模プロジェクトが持ち上がったらしいよ」
満を持して異業種に挑戦だと、少年のように瞳をキラキラさせて彼らは語っていた。
日本での安寧な現状に満足して、ゆっくりと沈んでいく船になる気はないと。
「ああ云う風に、いつまでも何かに情熱を持っている人というのは――やっぱり魅力的だね」
奏の高評価に、達実は不満げな顔をするが――――一つ嘆息すると、吹っ切れたように顔を上げた。
「あ~あ、じゃあ仕方がない。いつまでも奏の邪魔をしてちゃあ悪いもんね」
こんなに魅力的で可愛いオメガ、放っておく方がどうかしている。
もしも血の繋がりなど無かったら、自分が真っ先にプロポーズしている筈だ。
「……それじゃあ僕は、これから大学で研究者として『愛の起源』を探すことにするよ。奏は自分の愛を探してね」
親離れを決意した達実の言葉に、奏はふわりと笑った。
2016年、アメリカの研究チームが、恐竜も鳥のような求愛行動を行っていた可能性があるとの論文を発表した。
白亜紀の恐竜で、二足歩行恐竜で有名なのはティラノサウルスだが、おそらく彼らが残したと見られる、両足で作った引っ掻き傷のような足跡が発見されたのだ。
実際にして、現代において求愛の為にダンスをする鳥はいる。求愛の歌を唄う鳥もいれば、相手にプレゼントをして求愛する鳥もいる。
そしてニワトリのDNAは、実はティラノサウルスに最も近いのではと言われている。ビックインパクトで大量死滅した恐竜であるが、実際にはこのように絶滅してはいない。
愛を知る限り、人間も彼らのように生き延びて、きっとこの世をいつまでも謳歌していけるだろうと――――達実は、そう思った。
END
はいっ!
大団円で見事終幕で御座います!
ここまでお付き頂きまして、ありがとうございました!(^^)!
明日以降は、今回執筆した小説の裏話や間に合わなかった挿絵解説などを続けたいと思っております。
もうしばらくお付き合い頂ければ幸いで御座います(*- -)(*_ _)ペコリ
しかし彼は、将来は考古学者の道を歩むべく、イギリスの大学へ編入することを決断したらしい。
『愛の起源を知りたい』という、以前からの夢を追う為に。
そして九条采は、達実の帰国後、叔母である九条恵美の右腕として、以前にも増して精力的に九条の仕事に従事するようになった。
その一環として、彼は、新たに海外に新設されたkujyou-Medical総合研究所の統括部長に就任する事になる。
勤務地は、達実と同じイギリスであった。
恵美は日本を拠点としたアジアでの仕事、采はイギリスとアメリカを拠点にした海外の仕事を受け持ったワケだ。
九条嘉偉は、将来は母の居る日本での仕事ではなく、叔父の居る海外での九条の仕事を手伝いたいと言い出し、五ヵ国語を習得すべく猛勉強を始めている。
春からは、イギリス留学もする予定だ。
口では九条の為と言いつつ、目的は別にあるらしいが……?
アメリカに帰ったアレン・シン・アウラであるが、共に渡航した立野林檎が、その一ヵ月後に日本へ帰国してしまったことにひどく落胆した。
アルファの『獅子王』の異名を取る彼が、打ちひしがれた負け犬のような惨めな有様に成り果て、数日間部屋に籠って出て来なかった。
これには、それまで彼に付き従っていた侍従や執事たちが、大慌てする事になる。
よもや、あの絶対王者のように彼らの上に君臨していたアレンが、ここまで落ち込むとは誰も予想も出来なかっただろう。
しかしその後、復活したアレンは速攻で日本へ渡り、再び林檎へプロポーズしたようだ。
自身の拠点も日本に移し、日参するように林檎の元を訪れているらしい。
立野林檎が、このアレンの情熱に絆されるのも、時間の問題のようである。
◇
「達実も、いよいよ僕の手を離れるのか……何だかそう思うと、寂しいね」
ひっそりと笑いながら、結城奏はグラスにワインを注ぐ。
久しぶりに訪ねてきた、友人の手土産だった。
「ちょっと早いけど、乾杯しようか」
「ありがとう。でも僕、アルコールは……」
「これはそんなに強いお酒じゃないから大丈夫だよ」
微笑みながらそう言うと、達実は安心したように笑った。
「じゃあ、頂こうかな」
「うん――――乾杯」
「乾杯! 」
チンッという軽い音を立て、二人はワインを口にする。
それから、これからの生活の事をゆったりと語り合った。
そうしている内に、ちょっと酔いの回ってきた達実は、ほんのりと頬を染めながら奏に気になっていた話を振る。
「そういえば、奏は……本当に恋愛なんてしていたの? 」
「ん? 」
「ほら、僕の知らない所で、それなりに恋愛してるって……前に電話で言っていたじゃないか」
「ああ――あのことね」
達実の疑問に、奏はニッコリと笑う。
「嘘じゃないよ」
「でも僕、しっかりとガードしていたつもりだったんだけど……」
「ははは、確かに。達実のガードは厳しいって、ボヤいていたね」
少し笑うと、奏は手にしたワインに視線を注ぐ。
「このワインは、その彼らのお土産だよ」
手にしたワインは、甲州ワイン――――甲州ぶどうは、日本発祥のぶどうだ。
故郷を離れて寂しかろうと、手土産に渡されたワインだ。
「日本産のワインも、年々海外で評価を上げているんだって。だから、今回この甲州ぶどうの種を使って、ヨーロッパでワイン醸造する大規模プロジェクトが持ち上がったらしいよ」
満を持して異業種に挑戦だと、少年のように瞳をキラキラさせて彼らは語っていた。
日本での安寧な現状に満足して、ゆっくりと沈んでいく船になる気はないと。
「ああ云う風に、いつまでも何かに情熱を持っている人というのは――やっぱり魅力的だね」
奏の高評価に、達実は不満げな顔をするが――――一つ嘆息すると、吹っ切れたように顔を上げた。
「あ~あ、じゃあ仕方がない。いつまでも奏の邪魔をしてちゃあ悪いもんね」
こんなに魅力的で可愛いオメガ、放っておく方がどうかしている。
もしも血の繋がりなど無かったら、自分が真っ先にプロポーズしている筈だ。
「……それじゃあ僕は、これから大学で研究者として『愛の起源』を探すことにするよ。奏は自分の愛を探してね」
親離れを決意した達実の言葉に、奏はふわりと笑った。
2016年、アメリカの研究チームが、恐竜も鳥のような求愛行動を行っていた可能性があるとの論文を発表した。
白亜紀の恐竜で、二足歩行恐竜で有名なのはティラノサウルスだが、おそらく彼らが残したと見られる、両足で作った引っ掻き傷のような足跡が発見されたのだ。
実際にして、現代において求愛の為にダンスをする鳥はいる。求愛の歌を唄う鳥もいれば、相手にプレゼントをして求愛する鳥もいる。
そしてニワトリのDNAは、実はティラノサウルスに最も近いのではと言われている。ビックインパクトで大量死滅した恐竜であるが、実際にはこのように絶滅してはいない。
愛を知る限り、人間も彼らのように生き延びて、きっとこの世をいつまでも謳歌していけるだろうと――――達実は、そう思った。
END
はいっ!
大団円で見事終幕で御座います!
ここまでお付き頂きまして、ありがとうございました!(^^)!
明日以降は、今回執筆した小説の裏話や間に合わなかった挿絵解説などを続けたいと思っております。
もうしばらくお付き合い頂ければ幸いで御座います(*- -)(*_ _)ペコリ
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