彼が恋した華の名は5

亜衣藍

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最終章

最終章-8

 オレ達を修羅の世界に叩き落としたクズの分際で、何を甘ったれた事をぬかしているんだと!
 だが、五十路になった今は、違う思いを抱くようになっていた。

 本当に愛している人にだけは、幸せになってもらいたい。
 そこに自分は居なくてもいいから、どうか笑顔でいてくれと願いたい。

「――親父は、一番愛した女だけは、妾として傍に置かなかった。昔はその意味が分からなかったが、今なら……」
「分かるって?」

 史郎は渋面になると、酒を満たしたままのグラスを、まるで仇敵を睨みつけるような眼差しでジッと見た。

 かつて、出所したばかりの史郎に、聖は別れを切り出してきた。
 史郎は一言だけ「行くな」と声を掛けたが、その時は、それ以上引き留めるような事はしなかった。
 懲役を喰らった時に、さすがにこうなる事を覚悟していたからだ。

 それに自分は、これから先も決して極道を辞めることはない。
 だが聖は、もう極道の世界とは違う道を歩んでいる。

 カタギとなった聖から別れを切り出されても、もはや自分が止める事は出来ない……一度はそう思い、潔く聖を諦めようとした。

 しかし、己の感情はそう簡単には制御出来ず。
 やはり、どうしても聖を諦める事は出来ぬと開き直り、そこから再びよりを戻した。聖の心中を無視して、強引に復縁を果たしたのだ。

 だが、今は……自分勝手な事をしたと、少しは自覚しているから。

「お前だけは、世界一幸せになってほしい。今はそれが、オレの本心だ」
「じゃあ、自分の幸せは諦めるということか?」

 そう訊いた聖に、史郎は答えを返すことが出来ない。
 今度こそ別れを決心した筈だったが、こうしてその相手を目の前にすると、どんな言葉も吹き飛んでしまう。

 御堂聖だけが、青菱史郎を心底とりこにした人間なのだから。
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