ヒネクレモノ

亜衣藍

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「――どうしました? 皆さんで、いったい何ですか?」

『不躾とは思いましたが、今日はユウさんに直訴したいとジュピターのスタッフたちに泣きつかれまして……』

「直訴?」

『はい。伺ってもよろしいでしょうか?』

 いずれも、見知ったジュピタープロの面々だ。
 断るわけにもいかず、ユウは自宅へ招き入れた。
 そして直ぐに、それを後悔することになった。

   ◇

「御堂社長を説得してくれだって?」

 苦渋の表情で訴えるスタッフ達の顔を見ながら、ユウは唖然とした声をもらした。

「それは……どういう……」

「今回の歌謡祭は、我が事務所にとっても大切なイベントです。ジュピタープロはここ数年、役者やタレントに傾斜していましたが、音楽関係も久しぶりの新人発掘に力を入れようとしていた矢先なのです。現在インディーズバンドで、有望な新人がいます。今回は、彼らのメジャーデビューのお披露目にしようと、我々は計画していたのですが……」

 割り込むように、若いスタッフが悲痛な声を上げる。

「ジュピタープロからは、ユウさんを出演させると、御堂社長が独断で決定してしまいました。だけど、そんなのおかしいでしょう!?」

 スタッフの声に、ユウはサッと青ざめた。

「歌謡祭は……その新人バンドを出すか、オレを出すかの二択だったのか?」
「そうです。与えられたジュピタープロの枠は、一つだけでしたから」
「……」

「今までのような、ただ人気歌手が出演して歌うだけの歌謡祭と違い、今回のイベントは一般のネット投票でグランプリが決まり賞金も設けられていることから、世間の注目度は高いです。しかし我々としては、そのカネより、大々的にテレビでもネットでも報道される方にこそ魅力があると考えています。それだけで、充分に宣伝効果は確約できる。これは新人を送り出す絶好の機会だ。その大事なイベントに、あなたを出すなんて――――ご自分でも、分不相応だとは思いませんか?」

 その言葉に、ユウは言葉を失った。
 歌うのは幸せだ。好きだ。

 だが、この状況で出演するのは……あきらかに間違っている。

 ここにいるスタッフたちは全員、目の前にいるかつてのトップ・スターよりも、新星にチャンスを与えたがっていた。

 どうやら、ジュピタープロの絶対君主である御堂聖の独断でユウが出演することになった事態に、スタッフたちもさすがに我慢の限界だったらしい。

 それを察し、ユウは強張った声を発した。

「そうか。久しぶりの、ちゃんとした歌謡祭だって聞いていたから嬉しかったんだけどな」
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