ワルモノ

亜衣藍

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   ◇

 聖の希望する盃事は、いったい、いつになったら叶うのか……。

(今日は、十五日か――オレは16になるんだな)

 誕生日など、今まで祝ってもらったことなどない。

 しかし、こんな事は望んでいなかった。

 ふぅ、と、また憂鬱な溜め息を吐き出し、聖はゆっくりと身を起こした。

 聖が横たわっていたのは、豪奢な革張りのソファーだ。

 その上で、彼は真っ赤な襦袢だけを身にまとい、しどけなく座っていた。

 本人にしたら忌々しい事この上ないが、身体が思うように動かない。

 連日に渡る東堂からの仕打ちに、さすがの聖もすっかり参っていた。

(――一度だけ、酌の相手をすりゃあいいだけなんて、そんなワケないとは思ってたが)

 しかしまさか、ひと月に渡って放してもらえないような事態になるとは……。

 昨夜は、襦袢の上から海老反りにガチガチに縛り上げられたうえ、体中を紐で打たれた。

 一応、跡がつかないように気を遣っているらしいが、痛いものは痛いし、嫌なものは嫌だ。

 そして、何より嫌なのは、東堂が聖の体中に舌を這わせてベロベロと舐めてくる行為だ。

 本当に、ゾッとする。

 思い出しただけで、鳥肌が立つ。

 その顔面に蹴りを入れてやりたいが、それが出来ずに、ひたすら耐えるしかないのが何より辛い苦行だ。

 ここに至るにあたり、聖は、肥後竜真から忠告されていた。


 かつて、関西系のヤクザに襲撃され、身内を失った天黄正弘は、彼らを憎んだ。


 当然、正弘は報復した。

 極道のメンツをかけた戦争状態のような状況が長く続き、手打ちに至るまで、かなりの年数が掛かったらしい。

 しかし、拭うことない遺恨は残り、上野に本拠地を置く地回りの天黄一家と関西系ヤクザ橋本会とは、それ以来付き合いはない。

 だが、関東一帯を支配下に収めたい竜真にとっては、何としても橋本会と和解して協力を仰ぎ、勢力を拡大したかった。

 その為に竜真は、橋本会と太いパイプとなる東堂を懐柔しようと、あれこれ画策したのだ。

 竜真が目を付けたのは、東堂の趣味嗜好である。

 東堂は、無類の美少年趣味という特異な性癖があった。

 目鼻立ちの整った少年を綺麗に着飾り、真綿で包む様に愛で、さらに調教するのが楽しみという、とんでもない変態である。

 竜真は手下に命令し、東堂の好みに合うような少年を調達すべく、新宿二丁目を始め、心当たりのある場所を探させた。

 だが、そうそう都合のいい美少年などいるわけがない。

――――いや、いるではないか。

 竜真は、数か月前から正弘の元へ転がり込んでいた聖に思い至り、それを利用しようと考えついた。

 それからは、従順で真面目な手下を装い、正弘からの信頼をすっかり得たところで跡目へ推薦してくれと申し出た。

 聖の事も、必ず真摯に面倒を見て、行く行くは後見人なると約束して。

 まだ隠居するには早いのではないかと言う周囲も巧みに説き伏せ、竜真は見事、天黄組時期組長として跡目を継いだ。

 正弘との約束も叶い、聖の身柄も手に入れた。

 そうとなれば、もうこっちのものだ。

 正弘の元を離れて、己の屋敷へ移った聖に対し、早速、彼は練っていた策を実行した。

――――竜真は、聖を脅した。

 最初は、カネの肩代わりをしてほしかったら言う事を聞けと。

 次に、正弘の身に危険が及ぶぞ、と。

 上野の正弘の屋敷には、竜真の息の掛かった鉄砲玉が潜り込んでいる。

 お前が逆らうなら、どうなるかな……と言って、脅した。

 そして、巧みにすかした。

 お前が言う事を聞きさえすれば、これまでのように、正弘のことを『会長』と呼び畏れ敬い、天黄組の大親分として遇するのに、と。

 脅して賺して、聖の進退を絶った。


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