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正弘に対して、親愛の情を抱くようになっていた聖は、竜真の言う事に従うしかなかったのである。
ここに至り、強く忠告されている。
決して、東堂三郎には逆らうな。もしも、上野の屋敷にいたときのように逆らおうものなら――正弘はどうなるかな、と。
「――――オレ一人だったら、とっくに逃げてるか暴れてるかしてンだろうに……」
また、憂鬱な溜め息をつくと、聖は何かを諦めたように、ソファーへと身体を投げ出した。
(……情けねぇことに、このオレとしたことが、とことん弱くなっちまったぜ。誰かを心に入れるってのは――嬉しいばかりじゃあ、いられねぇんだな……)
床には一面、豪華な着物や洋服が置いてある。
それと、色とりどりの宝石や貴金属も。
珍しい果物やお菓子まで、箱ごと積まされていた。
ソファーの上からそれらに視線を向けると、聖は二度と見たくないと言わんばかりに、顔を背けた。
◇
傾国の美女――――その噂を聞き、近藤碇はピクリと反応した。
碇の前で、同じようにタバコをふかして休憩していた連中が、その話題に興味を引かれて身を乗り出す。
「あ? なんだよ、そのケイコクの美女って? 」
「国が傾くほどの、絶世の美女って意味らしいぜ」
「はぁ? 」
「つまり、国の権力者を、本来やらなければいけない色々な勤めを放棄させるほどに魅了して、完全にグニャグニャの色ボケになるほど骨抜きにしちまって、それ切っ掛けで、国を傾かせて崩壊させるほどの、強烈な妖女って意味だな」
少し学がある事を誇りながら、一人がそう自慢げに説明した。
そして、関西系ヤクザである橋本会の幹部が、ここの組に出入りしているらしいが、この一ヵ月ですっかり様相が変わってきたのだと。
「なんでもよぉ――最初は、厭味ったらしい蛇みたいで不気味な男だったんだが、ウチの跡目が用意したオンナを宛がってやったら、すっかりそいつに骨抜きになっちまって、中坊童貞みてぇな有様になってるんだとよ」
「はぁ? なんだそりゃ!? 」
だから――と、話題を振ったヤツは続けた。
「そのオンナってのがスゲー別嬪なんだが、ニコリとも笑わない、冷てぇかぐや姫みたいなヤツなんだと。で、最初のうちは余裕のあった関西ヤクザも、あれこれと命令してそいつに居丈高に振る舞っていたらしいが、近頃は立場が逆転したって話だ」
「逆転……って、なんだ? 」
すると、男はへへっと嫌な笑いを浮かべた。
「関西ヤクザ、かぐや姫様の関心が自分に無いのをどうにかしたくて、連日のようにあれこれと貢いでいるらしい。貴金属や宝石、ブランド物の洋服や靴と、本当に色々な」
「へぇ~? 」
「だが、そんなに貢いでも反応は一向に良くならないもんだから、ますます逆に、熱を上げているってよ」
「そんな生意気な女、一発ぶっ叩けば大人しくなるんじゃねーか? 」
「いやいや、それが――そんな大人しいタマじゃないらしい。何をしても逆らいはしないが、とにかく物凄い眼で睨んでくるんだと」
何を言っても酷い行いをしても、無言で耐え続けて一言も声を出さない。
一単語も、その美しい唇からは声を漏らさない。
だが、決して会話が困難になるような障害があるワケではなく、ただただそのヤクザとは、口を利かないと徹底的に無視を決め込んでいるらしい。
氷のような態度の、かぐや姫の関心を得ようと、関西ヤクザはここ毎日のように様々な物をプレゼントし始めたらしいが、反応は相変わらずのようだ。
「昨日なんか、純金製の姿見を発注したらしいぜ? 美しいかぐや姫様の姿を映すには、特別の道具じゃないとダメだとかなんとか」
「はっ! マジかよ!? 」
仲間たちは呆れて、しかし同時に、その関西ヤクザを虜にしている、傾国の美女のことが気になった。
ここに至り、強く忠告されている。
決して、東堂三郎には逆らうな。もしも、上野の屋敷にいたときのように逆らおうものなら――正弘はどうなるかな、と。
「――――オレ一人だったら、とっくに逃げてるか暴れてるかしてンだろうに……」
また、憂鬱な溜め息をつくと、聖は何かを諦めたように、ソファーへと身体を投げ出した。
(……情けねぇことに、このオレとしたことが、とことん弱くなっちまったぜ。誰かを心に入れるってのは――嬉しいばかりじゃあ、いられねぇんだな……)
床には一面、豪華な着物や洋服が置いてある。
それと、色とりどりの宝石や貴金属も。
珍しい果物やお菓子まで、箱ごと積まされていた。
ソファーの上からそれらに視線を向けると、聖は二度と見たくないと言わんばかりに、顔を背けた。
◇
傾国の美女――――その噂を聞き、近藤碇はピクリと反応した。
碇の前で、同じようにタバコをふかして休憩していた連中が、その話題に興味を引かれて身を乗り出す。
「あ? なんだよ、そのケイコクの美女って? 」
「国が傾くほどの、絶世の美女って意味らしいぜ」
「はぁ? 」
「つまり、国の権力者を、本来やらなければいけない色々な勤めを放棄させるほどに魅了して、完全にグニャグニャの色ボケになるほど骨抜きにしちまって、それ切っ掛けで、国を傾かせて崩壊させるほどの、強烈な妖女って意味だな」
少し学がある事を誇りながら、一人がそう自慢げに説明した。
そして、関西系ヤクザである橋本会の幹部が、ここの組に出入りしているらしいが、この一ヵ月ですっかり様相が変わってきたのだと。
「なんでもよぉ――最初は、厭味ったらしい蛇みたいで不気味な男だったんだが、ウチの跡目が用意したオンナを宛がってやったら、すっかりそいつに骨抜きになっちまって、中坊童貞みてぇな有様になってるんだとよ」
「はぁ? なんだそりゃ!? 」
だから――と、話題を振ったヤツは続けた。
「そのオンナってのがスゲー別嬪なんだが、ニコリとも笑わない、冷てぇかぐや姫みたいなヤツなんだと。で、最初のうちは余裕のあった関西ヤクザも、あれこれと命令してそいつに居丈高に振る舞っていたらしいが、近頃は立場が逆転したって話だ」
「逆転……って、なんだ? 」
すると、男はへへっと嫌な笑いを浮かべた。
「関西ヤクザ、かぐや姫様の関心が自分に無いのをどうにかしたくて、連日のようにあれこれと貢いでいるらしい。貴金属や宝石、ブランド物の洋服や靴と、本当に色々な」
「へぇ~? 」
「だが、そんなに貢いでも反応は一向に良くならないもんだから、ますます逆に、熱を上げているってよ」
「そんな生意気な女、一発ぶっ叩けば大人しくなるんじゃねーか? 」
「いやいや、それが――そんな大人しいタマじゃないらしい。何をしても逆らいはしないが、とにかく物凄い眼で睨んでくるんだと」
何を言っても酷い行いをしても、無言で耐え続けて一言も声を出さない。
一単語も、その美しい唇からは声を漏らさない。
だが、決して会話が困難になるような障害があるワケではなく、ただただそのヤクザとは、口を利かないと徹底的に無視を決め込んでいるらしい。
氷のような態度の、かぐや姫の関心を得ようと、関西ヤクザはここ毎日のように様々な物をプレゼントし始めたらしいが、反応は相変わらずのようだ。
「昨日なんか、純金製の姿見を発注したらしいぜ? 美しいかぐや姫様の姿を映すには、特別の道具じゃないとダメだとかなんとか」
「はっ! マジかよ!? 」
仲間たちは呆れて、しかし同時に、その関西ヤクザを虜にしている、傾国の美女のことが気になった。
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