ワルモノ

亜衣藍

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「まったく――ハァハァ、こんなに歯ごたえのある子は初めてだよ」

 殴られ、口を強引に抉じ開けられ、聖は完全に昏倒した。

 意識を失い、大人しくなった少年を見下ろしながら、東堂は舌打ちをする。

「フゥ……ああ、勿体ない。傷が付いてしまった……私が刻んで付ける傷なら良いが、それ以外は冗談じゃあないよ」

 シーツや床に散った血を忌々し気に眺め、また舌打ちをする。

 そして彼は、ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、鳴り続ける電話に出た。

「さっきから、いったい何なんだ!? 」

『すいませんね、東堂さん。どうやら、ガス漏れがあったようです』

 竜真は、とりあえず無難な言い訳をする。

『護衛をそっちにやりますから、一応場所を移ってもらえませんかね? ホテルを急いで手配するので、東堂さんは今夜はそこに泊まってください』

「えぇ!? この子は連れて行っていいんだろうね? 」

『――クスリの方はどうなりました』

「ちょうどキメたところだよ。こんなに手が掛かった御馳走は初めてだ。美味しく頂こうとしてたんだが……」

 麻薬の中毒症状ある子供を、この屋敷で発見されてはマズイ。

 消防に万が一発見されては、さすがに言い逃れが難しい。

『――そいつも連れて行って結構です。ホテルまで送るんで、あとは任せましたよ』

「ああ、もちろん」

『それじゃあ、すぐに向かわせます』

 竜真はそう言うと、電話を切った。

 それと被さるように、離れの戸がドンドンと叩かれる。

「東堂さん! 急いで出てください! 」

「あ、ああ? 」

 電話が切れるのと殆ど同時に現れた護衛に、ずいぶん早いな……と、少し不思議に思ったが、東堂は促されるままに戸の錠を開けた。

「ガス爆発は――」

 言いかけたその顔に、鉄拳がめり込んだ。

 東堂の身体は空中で一回転して、床に叩きつけられる。

「この、クソ外道が! 」

 殴り倒したのは、近藤こんどういかりであった。

 その碇を後ろから押しやり、真壁まかべとおるは室内へ踏み込む。

 だが、その室内の惨状に、凍り付いたように動きが一瞬止まった。

 襦袢をはだけられ、半裸になった少年の手には痛々しい噛み傷が刻まれ、シーツが鮮血に染まっている。その愛らしい唇は無残に広げられ、ゴム製の開口具が押し込まれている。

 そして、少年は完全に意識を失っているらしく、その身体はピクリとも動かない。

「だ、大丈夫か? 生きてんだろうな? 」

 さすがの碇も動揺して、徹の方を不安げに見る。

 徹は、そっと、その白い顔に手を伸ばした。

「――大丈夫、呼吸はしている。だいぶ弱いが……」

 しかし、この美しい少年に、こんな器具を装着させるなんて考えられない暴挙だ。

 急いでそれを外し、ぐったりとした体を抱え上げる。

 そうこうしている内に、複数の足音がバタバタと近づいてきた。

 ぐずぐずしては、いられない!

「行くぞ! 西門付近に、迎えが来ているハズだ! 」

 徹はそう言うと、碇と共に離れを飛び出した。

   ◇

 急いで炎を鎮火させ、まずはホッとする。

 延焼させていたら大変だったところだ。

 しかし、近所のどこかが消防に通報したのか、あのけたたましいサイレンの音が、遠くに聞こえる。

 どうやら、こちらへ向かっているようだ。

 だが、消防が来たら、ここは知らぬ存ぜぬで押し通すしかない。

 火は消えたのだから、何とか言い張ってこの屋敷の検証だけは阻止せねば。

(しかし……おかしい――? )

 爆発と火の手が上がったが、それら全てが東の方に偏っていることに竜真は気づいた。

 西の方も、東と同じように改装工事中だ。


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