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 否応なしに受け容れなけらばならない現実を突きつけられ、リリスの頭の中で何かが弾けた。
 アッシュも何か感じ取ったのか、それまで浮かべていた自嘲気な笑みを引っ込めて、真顔になって彼女を見つめる。

「――お嬢さん、大丈夫か?」

 様子の変わったリリスを心配し、アッシュはそう訊ねるが。
 しかしリリスは、全く関係の無いことを口にした。

「ねぇ、正直に言ってほしいの。あなたの眼から見て、?」

 産まれてこの方、ずっと褒められて生きて来た。
 誰もがリリスの事を可愛くて綺麗だと言い、天使のように愛くるしいと言ってくれた。

――だが。

「う~ん……美しいとかいうより先に、他所の御姫様と比べると、お嬢さんは絶対デブだよね。肉に埋もれて目も見えないって、屋敷では皆あんたのこと豚姫様って陰口叩いてたぜ。知らねぇだろ?」

(豚姫様!?)

 あんまりな言い様に言葉も出ないが、先程の執事の態度からするとそれは本当の事なんだろう。
 皆から愛されていると信じていたが、それは全部リリスの勘違いだった。

 何という大馬鹿者だろう。

 リリスを是非招きたいと、今まで毎日のように届いていたお茶会の誘いも、求愛の手紙も、全部が全部真っ赤な嘘でデタラメだったのだ。

 誰一人、リリスの事など――。

「……分かったわ。私は、皆から好かれるどころか、豚姫だと嘲笑われていた間抜けだったという事なのね」
「お嬢さん?」
「あなた、アッシュと言ったわね。あなたを縛るものは何も無いのだから、もう好きな所へ行っていいのよ」
「そう言うお嬢さんはどうするんだ? ここに居ればメシくらいは恵んでくれるとは思うけど」

 さすがに飢え死にはしないだろう。
 ここでは、最低限の生活の保障はしてくれるはずだ。
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