インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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 何やら、騒がしい声がする。

「――――から、どうするんだ! 」

「そんな――ですし、もうこっちの責任では――」

 不快な言い争うような声に、奏の意識は徐々に現実に戻された。

「ヴ……」

 呻き声を漏らし、奏は薄く目を開ける。

 白い天井が見える。

 そして、薬品の匂いと、醜く言い争う父母。

――――腕を組んだまま、苦々しい顔をしている馬淵。

(また、嫌なものばかり――)

 どうして自分には、こんな醜悪な現実しか用意されていないんだ?

 どこまでも嫌なリアルに、奏は再びきつく目を閉じた。

 しかし、その様子に馬淵が気付いたようだ。

「おお。どうやら意識が戻ったようだぞ」

「まぁ! 」

「医者が、命に別状はないと言っていたが……さすがに心配しましたね。よかったですね、馬淵さん」

「しかし、首の傷痕は残るという話じゃないか。こんな傷物では、約束の融資はとてもとても……」

「そんな! そこを何とか――奏は、もうお好きになさってもいいですから」

「当たり前だ! 今まで、幾ら払ったと思ってるんだ!? 」

「で、では……減額してもいいですから、こちらは年度末の決算も控えてますし――それだけは協力して頂かないと――」

 どうやら、傷物になった奏の価値を巡って、両親と馬淵は交渉でもしているようだ。

(こいつら――――)

 奏は、今までどんな目に遭っても信じてきた。

――――必ず、両親は自分の事を想ってくれていると。

 少しだけでも、その気持ちがあるなら……いつかきっと、また自分は、結城の家で両親と兄弟に囲まれて、幸せに暮らせる日が来る。

 だから、両親を疑ってはダメだ。

 強く信じて、家族を愛さなければ。

 猜疑心で、心まで貧しくならないように……いつかまた、必ず家族に迎え入れられ幸せな日が来ると信じ続けなければ。

 ずっとそう思って、慎ましく生きてきた。

 だが、現実はどうだ?

 父母には借金の形代とされ、ベータの成金である馬淵はただのブリーダーで奏の『魂の番』ではない。

 奏の事は、優秀な子供を手に入れるだけの、ただの道具――――そう認識している様子が、ありありと見て取れる。

 大枚払って買った繁殖の道具が勝手に逃げ出した上に、醜い傷を負った事実に、馬淵は大分立腹しているようだ。

 だが、それが奏とそもそも関係あるだろうか?

 奏はそんなこと知らなかったし、聞かされてもいない。

 奏は、青柳正嘉と会食するのだと信じて、昨日までずっと楽しみにしてきたのだ。

 その結果が、この有様だ。

 会いたかった兄弟には無視され、父母には売られ、誰も奏には関心を払わない。

 運命の相手だ、魂の番だと一途に信じた正嘉には…………惨い罵倒を浴びせられた。


――――奏がオメガだから?


 そんなに、オメガの男体では都合が悪いのか?

 ひとたび発情したら、形振り構わず男のクセに男に尻を振る淫売――――結局、誰も彼もそんな認識しかないのか?

(そうか――よく分かったよ。ずっと信じていた僕がバカだったって訳だ――)

 奏は微笑みを浮かべ、傷付いた喉を庇いながら声を発した。

「ま……馬淵、さん……」

 しかし、その微かな声は、大声で争い続ける両親と馬淵の耳には届かない。

 誰も、奏には関心を払っていないから気付かないのだ……。

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