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『……え? 』
「お前のようなオメガの男が、どうしてここに来たんだ? バカじゃないのか!? さっさと消え失せろ、この野良犬! 」
『正嘉さま――』
「気安く呼ぶな! この出来損ない! 」
『で、出来損ない? あの、何か誤解が……僕達オメガの男体は、人鳥とも呼ばれていて――』
「ようするに、バケモノって事じゃないか! 二度とそのツラ見せんな、不愉快だ! 」
そのひどい暴言に、奏は凍り付いた。
足元から、ガラガラと世界が崩れていく気がする。
『し……』
涙が、冷え切った頬を伝う。
『……正嘉さま……』
ひび割れた声が、奏の口から洩れた。
一方、暖かい部屋の中では、奏に対して酷い態度を取った正嘉の事を、父親や従者が誉め讃えていた。
「さすがは、青柳の後継者です! 御立派ですよ、正嘉さま」
「うむ! それでこそ私の息子だっ!! ああいう手合いには何事も毅然とした態度を取らないと、直ぐに足元を掬いに来るからな。お前の行動は正しいぞ! 」
絶賛されるその様子にほくそ笑みながら、義母も追従する。
「あーら、さすがは正嘉さん。見事にスパっとお切りになった事。あのオメガも、これで退散するでしょうね。二度とここには来ないでしょうよ。本当に、本当に良かったわねぇ、おめでとう」
だが、正嘉の顔色は、紙のように白い。
それに、全身が微かに震えている。
見ようによっては、それは怒りのあまりに起こった現象にも見えるが、実際は違う。
――――当たり前だ。
魂の番を目の前にして、酷い暴言を吐いて徹底的に傷付けたのだから。
身体を引き裂かれる程の苦痛に、心が悲鳴をあげている筈だ。
「ほぉら、御覧なさい。――――あのオメガ、トボトボと帰って行くわ。あらっ! 足を滑らせて転んだわ。ホホホ、泥に塗れて汚いこと。いい気味だわ! 胸がすくようですわねぇ、正嘉さん」
「……」
正嘉は、硬直したまま微動だにしない。
彼は、取り返しのつかない事をしてしまったという、これからの予感に襲われていた。
だが、今の14歳の正嘉には、義母の意趣返しから始まった奸計へハマった事も知らずに、これが正しいのだと信じて実行する以外に道は無かった。
この時、不幸な偶然が重なっていた。
まず、このひどい雨だ。
この雨によって、奏のオメガフェロモンは殆ど拡散されず、そして、せっかくの対面もガラス越しだった事により、正嘉にはとうとう届かなかった。
そしてやはり、正嘉はまだまだ若く、未熟だった。
せめて、あと数年――――正嘉がもっと大人であれば。
もしも素の状態で出会っていたなら、魂の番として感動の抱擁になっていたであろう二人の再会は、こうして最悪な結果に終わった。
正嘉を魂の番と信じ、ずっと番となる事を夢見ていた奏は、こうして終わる事になる。
ひどい雨と泥に塗れて、おぼつかない足取りで歩く奏の手には、馬淵との会食の際に失敬したカトラリーが握られていた。
それは、銀のフォークだった。
「正嘉――」
青くなった唇から洩れる声は、悲しみと怨念に満ちている。
この先の己の未来は、守銭奴の父母に売られて馬淵の性奴になる道しか用意されていない。
それは違うと、意を決してここまで来たが――ものの見事に、惨めに裏切られた。
「僕はもう――――運命とか、魂とか、そんな番いなんか信じない」
ああ、そうだ。
七海先輩も言っていたじゃないか。
あんなものは、ただの、おとぎ話だと。
奏は、道路を走って近付いて来る車のヘッドライトに微笑みを向けながら、銀のフォークを喉に突き刺していた。
「お前のようなオメガの男が、どうしてここに来たんだ? バカじゃないのか!? さっさと消え失せろ、この野良犬! 」
『正嘉さま――』
「気安く呼ぶな! この出来損ない! 」
『で、出来損ない? あの、何か誤解が……僕達オメガの男体は、人鳥とも呼ばれていて――』
「ようするに、バケモノって事じゃないか! 二度とそのツラ見せんな、不愉快だ! 」
そのひどい暴言に、奏は凍り付いた。
足元から、ガラガラと世界が崩れていく気がする。
『し……』
涙が、冷え切った頬を伝う。
『……正嘉さま……』
ひび割れた声が、奏の口から洩れた。
一方、暖かい部屋の中では、奏に対して酷い態度を取った正嘉の事を、父親や従者が誉め讃えていた。
「さすがは、青柳の後継者です! 御立派ですよ、正嘉さま」
「うむ! それでこそ私の息子だっ!! ああいう手合いには何事も毅然とした態度を取らないと、直ぐに足元を掬いに来るからな。お前の行動は正しいぞ! 」
絶賛されるその様子にほくそ笑みながら、義母も追従する。
「あーら、さすがは正嘉さん。見事にスパっとお切りになった事。あのオメガも、これで退散するでしょうね。二度とここには来ないでしょうよ。本当に、本当に良かったわねぇ、おめでとう」
だが、正嘉の顔色は、紙のように白い。
それに、全身が微かに震えている。
見ようによっては、それは怒りのあまりに起こった現象にも見えるが、実際は違う。
――――当たり前だ。
魂の番を目の前にして、酷い暴言を吐いて徹底的に傷付けたのだから。
身体を引き裂かれる程の苦痛に、心が悲鳴をあげている筈だ。
「ほぉら、御覧なさい。――――あのオメガ、トボトボと帰って行くわ。あらっ! 足を滑らせて転んだわ。ホホホ、泥に塗れて汚いこと。いい気味だわ! 胸がすくようですわねぇ、正嘉さん」
「……」
正嘉は、硬直したまま微動だにしない。
彼は、取り返しのつかない事をしてしまったという、これからの予感に襲われていた。
だが、今の14歳の正嘉には、義母の意趣返しから始まった奸計へハマった事も知らずに、これが正しいのだと信じて実行する以外に道は無かった。
この時、不幸な偶然が重なっていた。
まず、このひどい雨だ。
この雨によって、奏のオメガフェロモンは殆ど拡散されず、そして、せっかくの対面もガラス越しだった事により、正嘉にはとうとう届かなかった。
そしてやはり、正嘉はまだまだ若く、未熟だった。
せめて、あと数年――――正嘉がもっと大人であれば。
もしも素の状態で出会っていたなら、魂の番として感動の抱擁になっていたであろう二人の再会は、こうして最悪な結果に終わった。
正嘉を魂の番と信じ、ずっと番となる事を夢見ていた奏は、こうして終わる事になる。
ひどい雨と泥に塗れて、おぼつかない足取りで歩く奏の手には、馬淵との会食の際に失敬したカトラリーが握られていた。
それは、銀のフォークだった。
「正嘉――」
青くなった唇から洩れる声は、悲しみと怨念に満ちている。
この先の己の未来は、守銭奴の父母に売られて馬淵の性奴になる道しか用意されていない。
それは違うと、意を決してここまで来たが――ものの見事に、惨めに裏切られた。
「僕はもう――――運命とか、魂とか、そんな番いなんか信じない」
ああ、そうだ。
七海先輩も言っていたじゃないか。
あんなものは、ただの、おとぎ話だと。
奏は、道路を走って近付いて来る車のヘッドライトに微笑みを向けながら、銀のフォークを喉に突き刺していた。
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