インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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「ああそうだ、安心しろ。一時はオレも焦ったが――――大分データも落ち着いて来ている。お前は、自由だよ」

 その言葉に、奏は安堵して……そして安心したと同時に、また涙が溢れて来た。

 それも仕方ないだろう。

 正嘉に無理やり『番の上書き』をされてしまい、そのショックで記憶も飛んでいる。

 気が付いたら下半身には鈍痛が残り、白濁とした精に濡れている状態で――――本当に奏は極限状態で、ほとんど半狂乱に近かった。

 遅れてマンションに到着した栄太に無我夢中でしがみ付き、強引にせがんで抱いてもらったが…………。

「――――七海先輩……僕のお腹には…………」

 震える声に、七海は眉をひそめて首を振った。

「それは、本当にまだ分からないんだよ。着床を確認したばかりで、幾ら何でも早過ぎる。オレ達オメガ男体は、女の身体とは違うのだし。でも、そうだな――――3週以上経過したら、出生前血液DNA鑑定は可能だ。これは奏の血液を採って行う検査で、胎児に対して悪影響もない。精度も保証できるから、父親もハッキリと分かるだろう」

「……そうですか…………」

 しかし奏は、浮かない顔で視線を落とした。

 それもそうだろう。

 せっかく念願叶って受胎したのに、どちらの子なのかはまだ分からない。

 そして、父親候補の2人の男は――――どちらも、ここにはいないのだ。

 だが、この奏が受胎した事実も、まだ双方へ伝える事は決して出来ない。

――――伝える事が、怖い。

「栄太さんからは……何か連絡がありましたか? 」

 奏の質問に、七海は答える事を躊躇った。

 あれから一度だけ、奏が体調を崩してしまったので、九条邸で面倒を見ているからと伝えたが――――都合が付いたら直ぐに会いに行くとだけ返され、それからまだ栄太からの連絡はない。

 仕事が忙しく、手が離せないという理由らしいが、そんなの七海の知った事ではない。

 どうしてすぐにすっ飛んで来ないのか!? 

 奏よりも、そんなに仕事の方が大切なのかと、七海の機嫌はずっと悪い。

 馬淵栄太が心から信頼できる人物ならば、一緒にこれからの対策を考えようと思っていたが――――やはりこれでは、正直に打ち明けて相談する事も不安になるというものだ。

(オレは、やっぱり――――馬淵は反対だ。奏には悪いが……)

 だがしかし、それではもう一方のアルファ、青柳正嘉はどうか……そう考えると、やはりそっちも気に食わない。

 奏の意思を無視して『番の上書き』をするなど、言語道断だ。

 身勝手な男達に翻弄されて、可愛い後輩がこれ以上辛い思いをするなど、あってはならない。

「馬淵は……どうしてもまだ仕事が片付かないらしい。でも、きっと、奏が受胎した事を知ったら飛んでくると思うけど――」

「今はまだ、その事は伝えないでください! 」

 奏は、サッと顔色を変えて懇願した。

「散々迷惑かけて申し訳ないですが――――栄太さんには、何を聞かれてもただの体調不良とだけ伝えて下さい。お願いします! 」

「……ああ、分かったよ。それなら、奏は……しばらくマンションには帰らないで、容態が落ち着くまでここで養生しなよ。必要なものがあれば、遣いを出して取りに行かせるから」

 七海がそう言うと、奏は「えっ」と眼を見開いた。

「で、でも! 研究所は――」

「新薬の実証実験なら、ここからでも充分ネットを使って指示出来るさ。今は自分の身体を大切にしなきゃならないって、さっきから言っているじゃないか? 下手に動いて……ほら、例の――恵美、だっけ? あんな九条の妹みたいなのに絡まれて、トラブルにでもなったら大変だ。安定期に入るまでは、ここで身を隠した方が良い。この事は馬淵にも伝言しておくから……」

 そうだ、正嘉が奏を迎えに行動を起こした事なども、まだ奏や馬淵には言わない方が良いだろう。

 いずれは分かるにしても、今はまだタイミングが悪すぎる。

 今のこの状態で、奏を渡すわけにはいかない!

――――七海はそう思うと、青ざめて小さく震えている奏を見遣った。



「お前は、本当に良い子なんだけどなぁ……せっかく……」



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