インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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――――受胎したのに。

 本来なら皆から祝福される、喜ばしい事である筈なのに、隠さないとダメなんて。

 七海も複雑な気分になり、奏に対してどう声を掛けたらいいのかと困惑してしまう。

 しかし、奏は震えながらも、しっかりとした口調で言った。

「僕は、お腹の子がどちらの胤でも……産みたいです。ずっと家族が欲しかったから……」

 それは、本当の事だ。

 優しい両親に、仲のいい兄弟。

 常に笑い声に包まれた、暖かい家庭――――それに、子供の頃からどんなに憧れた事か。

(お父さまもお母さまも、笙も篠笛も……僕の事など、すっかり忘れてしまったようだけど。僕はいつも、あの中に入りたくて何とかしようと努力して……全部が無駄なだけだったけど――)

 もう結城の家に係わるのは虚しいだけだ。さすがに、今はそれが分かる。

 それなら、せめて、自分の手で新しい家族を作って行きたい。

 目を伏せながら、奏は切なく微笑んだ。

「…………本当の事を言うと、今この時こそ、頼もしい番に傍で励まして欲しいけど……一緒に頑張ろうって、言ってほしいけど……僕がそれを望むのは、何だか贅沢なような気がしてきました……」

 ポツリと呟く、その寂しいセリフが胸に応えて、七海は眉をひそめた。

「奏……」

「は、はは……すみません、愚痴みたいになってしまって。でも――――だから、赤ちゃんが無事に産まれたら、僕一人でも育てたいなって思っています」

「一人じゃない! オレだって協力してやるから――」

 ああ、しかし時間は限られているのだ。

 どこまで奏を助けてやることが出来るのか?

 悔しそうに唇を噛む七海に気付き、奏はハッとした。

「す、すみません! 僕こそ、先輩のサポートをしないとダメなのに。自分の事ばかりにかまけてしまって」

「――――いいから、まずはゆっくりと休め。まだ顔色が悪いぞ」

「でも……」

 言い淀む奏に、七海は優しく笑った。

「オレ達、仲間じゃないか。それに、同じ時期に……こうして受胎するなんてさ。オレは前世とか生まれ変わりとかは信じないが、オレと奏は、どこかで繋がっている特別なオメガなのかもな」

「そう――なんでしょうか? だったら、すごく心強いです。僕は七海先輩が大好きですから、嬉しいです」

「ハハハ、奏は正直者だな。――――ひと眠りして体調が戻ってきたら、その時こそオレのサポートをしてくれよ。まずは、身体を休める事が先だ。分かったな? 」

「はい――」

 奏はコクリと頷くと、本当に疲れていたのだろう、また気を失うように眠りに就いた。

 それを確認すると、七海は車椅子を動かして部屋を後にする。

(さぁ――オレは、まだやる事が残っている)

 この命が尽きる前に、出来る限りの後顧の憂いを絶たねば。

 奏の開発した新薬のレシピを思い描きながら、幾つかの改善点を思い浮かべる。

 発情による意識混濁を防ぐことが出来るなら、溢れ出るフェロモンも抑えられるに違いない。せめてそのくらいは改良してやりたい。

 そして七海は、忌々しい存在に舌打ちをする。



――――青柳正嘉。



 まだ会った事は無いが……普通のアルファではないようだ。

 さて、どこまでヤツに対抗できるか?

 七海はキッと顔を上げると、九条邸へ新たに設けた、自分の研究室へと入って行った。


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