インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

文字の大きさ
188 / 240
40

40-8

しおりを挟む
 こんな、今一つ何を考えているのか解らぬような若造正嘉になど、奏と栄太の子供を任せるワケにはいかない。

 そう思うと――――未練など無いと思っていた馬淵家当主の座が、急速に欲しくなってきた。

「お前、奏を……」

「『お前』? 」

「――青柳さんは、奏の事をどう思っているんですか? 」

 栄太は熾火のようにくすぶる内心を押し殺し、口調を丁寧なものに変えて問うてみる。

 しかしこの質問は、正嘉にとって意外なことであったらしい。

 秀麗なおもてに、微かに戸惑いの色が浮かんだ。

「『どう?』か……」

 少し間を置き、答えになっていないような答えを返す。

「あいつは、オレの運命だ。あいつが『運命の番』であった為に、それが頭から離れなくて再会した時からずっとイライラしていた。だから、そのストレスを即急に解消するために、オレの方からわざわざ出向いて番にしてやったんだ」

「私が聞いているのは、そんな事ではないです」

「なんだと? 」

「奏を愛しているのか、という事ですよ」

「愛――」

 そんなこと、考えた事もなかった。

 好きだろうが嫌いだろうが、それが運命であったら従うのが道理だろう。

 だから正嘉は、何も余計な事は考えずに行動に出ただけだ。

「ベータやアルファは、そんな下らない事で自分の行動を決めるのか? 」

「下らない――ですか」

「そうだ」

 そう断言すると、正嘉は自信を取り戻した様子で再び口を開いた。

「オレは、愛などという感情で行動を左右することはない。行動原理は、それがオレにとって必要・・・かどうかだけだ」

「つまり……奏の事は、愛してはいないのですね」

「――――そうだ」

 正嘉は、問われるままにそう答えた。

 だが、さすがに自分でも、それは何処か矛盾している事は感じている。

 運命だから……どうしても気になったから、奏の元へ押しかけて、その結果強引に項を噛んだ。

 そこに刻まれていた違う男の噛み痕を見た瞬間に、頭に血が上った。

 突然の暴力と衝撃に意識を失ってしまった奏を抱え上げ、そのままマンションへ送り届けて――……耐え切れずに、そのまま交接を仕掛けてしまった。


 発情期に入ってはいたが、意識もない相手に、だ。


 さすがに鬼畜の所業に思えて、極める瞬間に正気に戻った正嘉は、己の精を奏の体内で放出する事だけは避けた。

 番の上書きをしたのだから、これから奏は正嘉だけのモノになる。

 ならば、奏がちゃんと意識のある時にセックスをした方がいいだろう。

――――正嘉は、そう思ってその日は引くことにした。

 それに奏は、こんな時でも仕事熱心らしく、熱を出した状態にもかかわらず仕切りにうわ言で『試薬ブースターが……』と何度も口にしていた。

 その事も考慮して、強引に連れ去るのは断念してそのままにしておいてやったのに。

 後日改めて、丁重に迎えに来てやろうと思っていたのに。

 だが、あれはインチキな仮面だったのか。

 破廉恥な事に、奏はその後、この馬淵栄太と抱き合って…………。

 そこまで考えると、不意に胸がキリキリと痛んだ。

(だから、オメガという連中はふしだらで嫌いなんだ! )

 正嘉は憮然として、栄太を見遣る。

「オレは、結城奏など好きでもないし愛してもいない。だが『運命』だから、仕方がなく番にしてやっただけだ。子供など、どうでもいい」

「――――その言葉、忘れるな」

 そう言い残すと、栄太は部下の吉川を連れてその場を去った。

 正嘉は、自分が何か失態を犯したような気がして、不機嫌に柳眉を顰《ひそ》めていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~

水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。 「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。 しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった! 「お前こそ俺の運命の番だ」 βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!? 勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...