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「オレは……自分の会社がここにあるからな。アメリカにも行く事はあるだろうが、そこで永住は考えないな――」
「それじゃあ、子供は……」
「ああ、親権はオレに譲ってくれ。血の繋がりのある子供が手に入ったら、オレは馬淵家の当主に納まることが出来る。それなら子供にも、何一つ不自由のない夢のような暮らしをさせてやれる」
「栄太さん……馬淵からは独立するって……」
唖然として言うと、栄太は頬を紅潮させた。
「それは、オレには子を持つことは叶いそうにないから諦めて出た言葉なんだよ。だから、馬淵の不動産会社だけ相続しようと思っていたんだが――――しかし、夢が叶うなら話は別だ。オレは馬淵の当主になり、馬淵家の全てを手に入れることが出来る。あいつらにも下剋上を叩きつけてやれる! 」
「……」
「お前も、コブつきのままじゃあ大変だろう? アメリカで自由に研究に励むなら、子供はオレが面倒を見るよ。評判のいい最高のシッターを何人でも雇って――」
「あなたは――やはり、野望に溢れた人なんですね……」
「奏? 」
「あなたが悪人じゃないのは分かっています。でも決して善人でもない……ううん、それは僕も同じですね……」
人は多くの矛盾を抱えている。清廉潔白な聖人など存在しない。
悩みもあれば、苦しみもある。人を妬みもするし、恨みもする。
そしてそれと同等に、人を愛して恋をして、うっとりするような夢を見て――――。
奏はしばらく押し黙った後、ポツリと言った。
「正嘉さまに……聞いてみようと思います……」
「聞く? なにを? 」
「今回の事です。――――あの人から聞いたんでしょう? 僕が身籠った子は、栄太さんとの間の子だって」
「……ああ」
「場合によっては、僕は本当にアメリカに行くことに……なるかもしれません」
奏はそう言うと、キュッと唇を噛んだ。
もしも、奏の考えが――――先程閃いた答えが正鵠を射ていたならば、今、このまま正嘉の元に嫁ぐ事はできない。
しかし日本にいる限りは、ガチガチに凝り固まった古臭い法に縛られることになってしまう。
アルファは支配階級の上位であり貴種であるが、オメガの……それも男体は、男のクセに尻を振る見苦しくてはしたない連中で、なんの役にも立たない最下層の人種であるという思想だ。
男体でありながら妊娠を可能にしている、生物学を度外視したような進化を遂げたオメガの男体は『人鳥』と言われているのだから、むしろ誇るべきだと七海は提唱しているし……海外でも、徐々にその考えが浸透しつつあるのだが。
まったく、いつの時代かと思うような封建的な法が、日本には未だ制定されている。
それ故日本では、何をするにも、番であるアルファの許可が必要になってしまうのだ。
愛し合い慈しみ合い、対等に付き合うようなそんな間柄の番であるならいいが、正嘉がそこまでの覚悟もないようなら――――奏はやはり受け入れることは出来ない。
何故なら、奏は意思の無い人形ではないし、アルファに隷属的に従う『女』でもないからだ。唯々諾々とアルファの言い成りになるだけの人生など真っ平だ。
それに大切な奏の子を、まるで犬の子を遣り取りするように扱われてはたまらない。
そんな事は、断じて許さない。
(このあと、正嘉さまが僕の体調を確かめに訪れる筈だ。その時に、しっかりと聞いて確かめよう)
その答え次第で、これからどうするのか答えを出して、研究所に――――ああ、その前に、七海の様子を確認しなければ。
昨夜遅くに電話で短く会話をしただけで、まだ七海の顔は見ていないのだ。
七海は最後まで『身体は大丈夫か? イジメられてないか? 』と奏の事を心配していたが、大変なのは七海の方こそであろう。
彼は始終気丈に振舞っていたが、せっかく儲けた子が流れてしまいどれだけショックを受けていることか……それを考えただけで、ギュッと胸が苦しくなる。
七海の流した涙を目の当たりにしているだけに、奏は彼が心配でたまらない。
(そうだ。僕は、いつまでも立ち止まっている場合じゃないんだ。もっとちゃんと強くなって、七海先輩や皆を支えられるような存在にならないとダメだ。それにはまず、自分の道は自分で切り拓かないと)
「それじゃあ、子供は……」
「ああ、親権はオレに譲ってくれ。血の繋がりのある子供が手に入ったら、オレは馬淵家の当主に納まることが出来る。それなら子供にも、何一つ不自由のない夢のような暮らしをさせてやれる」
「栄太さん……馬淵からは独立するって……」
唖然として言うと、栄太は頬を紅潮させた。
「それは、オレには子を持つことは叶いそうにないから諦めて出た言葉なんだよ。だから、馬淵の不動産会社だけ相続しようと思っていたんだが――――しかし、夢が叶うなら話は別だ。オレは馬淵の当主になり、馬淵家の全てを手に入れることが出来る。あいつらにも下剋上を叩きつけてやれる! 」
「……」
「お前も、コブつきのままじゃあ大変だろう? アメリカで自由に研究に励むなら、子供はオレが面倒を見るよ。評判のいい最高のシッターを何人でも雇って――」
「あなたは――やはり、野望に溢れた人なんですね……」
「奏? 」
「あなたが悪人じゃないのは分かっています。でも決して善人でもない……ううん、それは僕も同じですね……」
人は多くの矛盾を抱えている。清廉潔白な聖人など存在しない。
悩みもあれば、苦しみもある。人を妬みもするし、恨みもする。
そしてそれと同等に、人を愛して恋をして、うっとりするような夢を見て――――。
奏はしばらく押し黙った後、ポツリと言った。
「正嘉さまに……聞いてみようと思います……」
「聞く? なにを? 」
「今回の事です。――――あの人から聞いたんでしょう? 僕が身籠った子は、栄太さんとの間の子だって」
「……ああ」
「場合によっては、僕は本当にアメリカに行くことに……なるかもしれません」
奏はそう言うと、キュッと唇を噛んだ。
もしも、奏の考えが――――先程閃いた答えが正鵠を射ていたならば、今、このまま正嘉の元に嫁ぐ事はできない。
しかし日本にいる限りは、ガチガチに凝り固まった古臭い法に縛られることになってしまう。
アルファは支配階級の上位であり貴種であるが、オメガの……それも男体は、男のクセに尻を振る見苦しくてはしたない連中で、なんの役にも立たない最下層の人種であるという思想だ。
男体でありながら妊娠を可能にしている、生物学を度外視したような進化を遂げたオメガの男体は『人鳥』と言われているのだから、むしろ誇るべきだと七海は提唱しているし……海外でも、徐々にその考えが浸透しつつあるのだが。
まったく、いつの時代かと思うような封建的な法が、日本には未だ制定されている。
それ故日本では、何をするにも、番であるアルファの許可が必要になってしまうのだ。
愛し合い慈しみ合い、対等に付き合うようなそんな間柄の番であるならいいが、正嘉がそこまでの覚悟もないようなら――――奏はやはり受け入れることは出来ない。
何故なら、奏は意思の無い人形ではないし、アルファに隷属的に従う『女』でもないからだ。唯々諾々とアルファの言い成りになるだけの人生など真っ平だ。
それに大切な奏の子を、まるで犬の子を遣り取りするように扱われてはたまらない。
そんな事は、断じて許さない。
(このあと、正嘉さまが僕の体調を確かめに訪れる筈だ。その時に、しっかりと聞いて確かめよう)
その答え次第で、これからどうするのか答えを出して、研究所に――――ああ、その前に、七海の様子を確認しなければ。
昨夜遅くに電話で短く会話をしただけで、まだ七海の顔は見ていないのだ。
七海は最後まで『身体は大丈夫か? イジメられてないか? 』と奏の事を心配していたが、大変なのは七海の方こそであろう。
彼は始終気丈に振舞っていたが、せっかく儲けた子が流れてしまいどれだけショックを受けていることか……それを考えただけで、ギュッと胸が苦しくなる。
七海の流した涙を目の当たりにしているだけに、奏は彼が心配でたまらない。
(そうだ。僕は、いつまでも立ち止まっている場合じゃないんだ。もっとちゃんと強くなって、七海先輩や皆を支えられるような存在にならないとダメだ。それにはまず、自分の道は自分で切り拓かないと)
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