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boy
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聖は形の良い唇をキュッと噛むと、上に伸し掛かっている誉の身体をグッと押した。
「もういいから、どけ」
「え?」
「……バター犬みたいに、いつまでもベロベロ舐めってんじゃねーよ。お前も限界だろう? ――来いよ」
そう蓮っ葉に言い捨てると、聖は大きく身体を開いた。
ゆるかに勃起したままの雄芯と、その後ろに潜められていた後孔が、ぼんやりとした灯りの下に姿を現す。
誉の唾液のせいで濡れている後孔は、慎み深い乙女の唇のようであり、魔性の毒婦の唇のようでもあり。
いずれにせよ、強烈な淫花となって男を誘っていた。
何処までも美しい聖に、誉はどんどん自分が虜になるのを感じていた。
「あんた、本当に――綺麗だな」
「……みんな、そう言うよ」
それが良い事なのか、悪い事なのか。
とりあえず有益な交渉の道具にはなっているのだから、多分、良い事なのだろう。
若い頃からこの顔と寝技で、多くの男を狂わせてきた。
皆がそろって、酩酊したような視線を送りながら「お前は美しい」と、聖の肉体を褒めたものだ。
――――それを嬉しいと感じた事はなかったが。
そんな聖の懊悩は、誉のストレートな言葉でかき消された。
「でも、本当に綺麗だ。男なんて無理だって言っていたオレが、あんたを抱きたくて仕事も手に付かないくらいに夢中になっている。それって、あんたは嬉しくないか?」
「――」
「好きだよ。だから今夜は、あんたをとびきり愛してやりたいんだ」
そのセリフに、心臓がギュッと締め付けられるような気がした。
“下手くそのクセに、なに生意気な事を言っているんだ”
“お間のようなガキなんて、お断りだよ”
“ただの暇つぶしに本気になるなんて、救いようのない坊やだな”
――――そんな、いつも口にしている筈のセリフが出てこない。
(まさか、このオレが……こんなガキの言う事を真に受けているってのか!?)
今すぐ笑い飛ばして皮肉を言いたいのに、言葉が出てこない。
(“嬉しくないか”だと?)
海千山千を相手に、阿漕なやり取りも幾度となく繰り返してきた。
愛の睦言など本気にした事はないし、本気で口にした事もない。
セックスなど、ただの交渉の道具だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
――――だから感情など、余計なだけだったのに。
そう思って、諦めていたのに。
「もう――何も言うな……」
聖は、弱々しい自分の声に茫然とする。
いつものように冷たく突き放して、嫣然と嗤って挑発するつもりが――うまく言葉が出てこない。
こんなのは、自分じゃない。
『御堂聖』じゃない!
聖は思わずベッドから立ち上がると、後ろも見ずに寝室から出て行こうとした。
「待てよ!」
その手を掴み、誉は腕の中に、聖の白い身体を閉じ込める。
微かに震えている身体は嫋やかで芳しく、抱き締めるだけで恋情が募る。
誉はゆっくりと、もう一度愛の言葉を囁いた。
「あんたが、好きだ」
「――」
「年上だとか男だとか、そんな事はどうでもいい。本当に、あんたが好きなんだ」
「……言うな」
愛の言葉に、寂しい心が震える。
このままでは自分は……この男を信じたくなってしまう。
自分だけを愛してくれるのか、と。
何重にも拠ろっていた氷の鎧を剥ぎ取られた聖は、ただ、愛に飢えた孤独で寂しいだけの男になってしまう。
閉じた眼から、一筋の涙が頬を伝ってポトリと落ちる。
「もういいから、どけ」
「え?」
「……バター犬みたいに、いつまでもベロベロ舐めってんじゃねーよ。お前も限界だろう? ――来いよ」
そう蓮っ葉に言い捨てると、聖は大きく身体を開いた。
ゆるかに勃起したままの雄芯と、その後ろに潜められていた後孔が、ぼんやりとした灯りの下に姿を現す。
誉の唾液のせいで濡れている後孔は、慎み深い乙女の唇のようであり、魔性の毒婦の唇のようでもあり。
いずれにせよ、強烈な淫花となって男を誘っていた。
何処までも美しい聖に、誉はどんどん自分が虜になるのを感じていた。
「あんた、本当に――綺麗だな」
「……みんな、そう言うよ」
それが良い事なのか、悪い事なのか。
とりあえず有益な交渉の道具にはなっているのだから、多分、良い事なのだろう。
若い頃からこの顔と寝技で、多くの男を狂わせてきた。
皆がそろって、酩酊したような視線を送りながら「お前は美しい」と、聖の肉体を褒めたものだ。
――――それを嬉しいと感じた事はなかったが。
そんな聖の懊悩は、誉のストレートな言葉でかき消された。
「でも、本当に綺麗だ。男なんて無理だって言っていたオレが、あんたを抱きたくて仕事も手に付かないくらいに夢中になっている。それって、あんたは嬉しくないか?」
「――」
「好きだよ。だから今夜は、あんたをとびきり愛してやりたいんだ」
そのセリフに、心臓がギュッと締め付けられるような気がした。
“下手くそのクセに、なに生意気な事を言っているんだ”
“お間のようなガキなんて、お断りだよ”
“ただの暇つぶしに本気になるなんて、救いようのない坊やだな”
――――そんな、いつも口にしている筈のセリフが出てこない。
(まさか、このオレが……こんなガキの言う事を真に受けているってのか!?)
今すぐ笑い飛ばして皮肉を言いたいのに、言葉が出てこない。
(“嬉しくないか”だと?)
海千山千を相手に、阿漕なやり取りも幾度となく繰り返してきた。
愛の睦言など本気にした事はないし、本気で口にした事もない。
セックスなど、ただの交渉の道具だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
――――だから感情など、余計なだけだったのに。
そう思って、諦めていたのに。
「もう――何も言うな……」
聖は、弱々しい自分の声に茫然とする。
いつものように冷たく突き放して、嫣然と嗤って挑発するつもりが――うまく言葉が出てこない。
こんなのは、自分じゃない。
『御堂聖』じゃない!
聖は思わずベッドから立ち上がると、後ろも見ずに寝室から出て行こうとした。
「待てよ!」
その手を掴み、誉は腕の中に、聖の白い身体を閉じ込める。
微かに震えている身体は嫋やかで芳しく、抱き締めるだけで恋情が募る。
誉はゆっくりと、もう一度愛の言葉を囁いた。
「あんたが、好きだ」
「――」
「年上だとか男だとか、そんな事はどうでもいい。本当に、あんたが好きなんだ」
「……言うな」
愛の言葉に、寂しい心が震える。
このままでは自分は……この男を信じたくなってしまう。
自分だけを愛してくれるのか、と。
何重にも拠ろっていた氷の鎧を剥ぎ取られた聖は、ただ、愛に飢えた孤独で寂しいだけの男になってしまう。
閉じた眼から、一筋の涙が頬を伝ってポトリと落ちる。
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