50 / 90
10
Poisonous flower
しおりを挟む
有無を言わせない一夏の口調に、男たちは戸惑いつつも不承不承出て行った。
部屋の中には、聖と一夏の二人だけが残される。
じっと自分をねめつける一夏の視線を受けながら、聖は一夏の出方が分からず動揺した。
「――どうして、人払いをした?」
「……」
「オレが憎いんだろう? 殴りたいなら――」
「ああ、マジであんたが憎たらしいね」
一夏は聖の言葉を遮ると、ナイフのようにそう切り捨てる。
「どいつもこいつも、オレをケツの青いガキみたいに扱いやがる。あいつらだってオレに青菱の看板がなかったら、オレの命令なんか聞きはしないだろう」
自虐とも取れるセリフだが、あながち間違いではない。
一夏はまだニ十歳で、表向きは、青菱とは関係のないただの大学生なのだから。
その学生にして、幾つか会社を経営している訳だが、それらは全て青菱から与えられた肩書だ。
親の威光で……とは誰も口には出さないが、内心はどうだか分かったものではない。
青菱とは別に、ああいった半グレ連中を集めて組織を作り従えているが、果たしてそれも一夏個人の力量で成しているのか?
それを最も気にしているのは、他ならぬ本人だった。
「あんたには分からんだろうな。親父に反抗したくても出来ず、ただ歯を食い縛るしか方法の無いガキの気持ちなんか」
「そんな事は……」
「分かるって言うのか? この、大嘘つきが!」
一夏はそう吐き捨てると、立ち竦む聖を睨む。
そうしながら、低い声で命じた。
「脱げよ」
「っ!?」
「あんたのどこに、あの悪魔みたいな親父を捕らえ続けるだけの魅力があるのか――この目で見たい」
以前、薄暗い室内で、史郎の前に跪いて舌を遣っている姿を垣間見た。
ピチャピチャと濡れるような水音と、快感に呻く史郎の低い声。
そして、甘い毒のように漏れ聞こえる、この男の声。
あの瞬間を思い出すだけで、一夏の若い雄は激しく反応してしまう。それを宥める為にいくら女を抱いても、中々収まらずに苦心している状態だ。
薄暗い灯りに照らし出される、史郎と聖――――その光景が脳裏にフラッシュバックする度、熱病に罹ったようになり、一夏は夜も眠れず度々うなされていた。
「山藤から聞いた話だが……あんた、オレの死んだ爺さんともヤッたってのは本当なのか?」
「山藤?」
「昔から青菱にいる、オレの守り役だ」
『坊、あの男に憑り込まれないように気を付けてください』
守り役の山藤は、幼い頃からやんちゃだった一夏に根気よく仕えている男だ。一夏の面倒を見ながら、山藤は嗜めるように、よく繰り返していた。
『あの人は魔物です。くれぐれも、先代の組長や現組長のようになってはいけません』
未だ、手のかかる子供を躾けるように諭す山藤に、一夏のイライラは溜まっている。
「相変わらずあいつは、オレのことをガキのように扱いやがる。だが、そうまで忠告しているあんたの事を、オレはほとんど知らないんだ」
畠山ユウが、この男の実子だというのは分かっているが――当の本人の事は、よく解っていない。
何故、多くの男たちがこの男に惹きつけられるのか?
どうして、破滅する程にのめり込み、狂ってしまうのか?
それもこれも、自分が直接対面して、謎を解明しなければならない気がした。
「あんたは、とっくに四十を超えた、ちょっとばかり綺麗なだけの中年のハズだろう? それなのにどうして、親父は未だにあんたに入れ込んでんだ?」
そう訊かれても、聖も戸惑うだけだ。
だから、正直な感想を口にする。
「――――野郎の考えてる事なんざ、オレにも分かんねぇよ。どいつもこいつも、昔からやたらとねちっこい目で見やがる。こっちはそれを逆手に取って、商売させてもらってるだけさ」
「オレの……青菱の、先代の組長は?」
部屋の中には、聖と一夏の二人だけが残される。
じっと自分をねめつける一夏の視線を受けながら、聖は一夏の出方が分からず動揺した。
「――どうして、人払いをした?」
「……」
「オレが憎いんだろう? 殴りたいなら――」
「ああ、マジであんたが憎たらしいね」
一夏は聖の言葉を遮ると、ナイフのようにそう切り捨てる。
「どいつもこいつも、オレをケツの青いガキみたいに扱いやがる。あいつらだってオレに青菱の看板がなかったら、オレの命令なんか聞きはしないだろう」
自虐とも取れるセリフだが、あながち間違いではない。
一夏はまだニ十歳で、表向きは、青菱とは関係のないただの大学生なのだから。
その学生にして、幾つか会社を経営している訳だが、それらは全て青菱から与えられた肩書だ。
親の威光で……とは誰も口には出さないが、内心はどうだか分かったものではない。
青菱とは別に、ああいった半グレ連中を集めて組織を作り従えているが、果たしてそれも一夏個人の力量で成しているのか?
それを最も気にしているのは、他ならぬ本人だった。
「あんたには分からんだろうな。親父に反抗したくても出来ず、ただ歯を食い縛るしか方法の無いガキの気持ちなんか」
「そんな事は……」
「分かるって言うのか? この、大嘘つきが!」
一夏はそう吐き捨てると、立ち竦む聖を睨む。
そうしながら、低い声で命じた。
「脱げよ」
「っ!?」
「あんたのどこに、あの悪魔みたいな親父を捕らえ続けるだけの魅力があるのか――この目で見たい」
以前、薄暗い室内で、史郎の前に跪いて舌を遣っている姿を垣間見た。
ピチャピチャと濡れるような水音と、快感に呻く史郎の低い声。
そして、甘い毒のように漏れ聞こえる、この男の声。
あの瞬間を思い出すだけで、一夏の若い雄は激しく反応してしまう。それを宥める為にいくら女を抱いても、中々収まらずに苦心している状態だ。
薄暗い灯りに照らし出される、史郎と聖――――その光景が脳裏にフラッシュバックする度、熱病に罹ったようになり、一夏は夜も眠れず度々うなされていた。
「山藤から聞いた話だが……あんた、オレの死んだ爺さんともヤッたってのは本当なのか?」
「山藤?」
「昔から青菱にいる、オレの守り役だ」
『坊、あの男に憑り込まれないように気を付けてください』
守り役の山藤は、幼い頃からやんちゃだった一夏に根気よく仕えている男だ。一夏の面倒を見ながら、山藤は嗜めるように、よく繰り返していた。
『あの人は魔物です。くれぐれも、先代の組長や現組長のようになってはいけません』
未だ、手のかかる子供を躾けるように諭す山藤に、一夏のイライラは溜まっている。
「相変わらずあいつは、オレのことをガキのように扱いやがる。だが、そうまで忠告しているあんたの事を、オレはほとんど知らないんだ」
畠山ユウが、この男の実子だというのは分かっているが――当の本人の事は、よく解っていない。
何故、多くの男たちがこの男に惹きつけられるのか?
どうして、破滅する程にのめり込み、狂ってしまうのか?
それもこれも、自分が直接対面して、謎を解明しなければならない気がした。
「あんたは、とっくに四十を超えた、ちょっとばかり綺麗なだけの中年のハズだろう? それなのにどうして、親父は未だにあんたに入れ込んでんだ?」
そう訊かれても、聖も戸惑うだけだ。
だから、正直な感想を口にする。
「――――野郎の考えてる事なんざ、オレにも分かんねぇよ。どいつもこいつも、昔からやたらとねちっこい目で見やがる。こっちはそれを逆手に取って、商売させてもらってるだけさ」
「オレの……青菱の、先代の組長は?」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる