彼が恋した華の名は:2

亜衣藍

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 口には出さないが、その場に集まった面々は皆そう思っていた。

 史郎の前に座る幹部は、総勢5名。

 この5名中4名が、『傾国の美女』と囁かれる美しい御堂聖という男と――――じつは、互いに知らなかったが事だが、内密に関係・・を持っていた。


『青菱の有力幹部であるあんたの力で、一夏を親父から守ってやってくれないか?』


 麗しい顔に憂いを浮かべて、切にそう縋ってきた。

 どうしてだと訊くと、隠すことなく語り始めた。

『つい、あいつと寝ちまったんだよ。――ふふ、そんな顔しないでくれよ、いつもの、ただの気紛れさ。でも、今回の事が史郎にバレて……オレの所為で、一夏がつらい思いをする事になったらオレは自分が許せない。あんたとも別れて、史郎の目も届かないような遠い場所に行って、一人さみしく死んじまおうかと思う』

 そう、嫋やかにしな垂れかかり、乙女のように肩を震わせながら腕の中で可愛く願い事をされては……漢を見せないワケにはいかない。


 それに、自分は間違いなく使える男・・・・だと、傾国の歓心を得たい。


 男の矜持と欲望に、男たちは鼻息も荒く史郎に対峙する。

 今後、もしも一夏に何か不利益が起こるような事があれば、どうか力になって欲しいとすっかり懐柔されている男たちは、自分こそが・・・・・あの聖に頼られている男なのだと信じ込み、史郎に対して進言した。

「会長が、一夏坊ちゃんを鍛えたい気持ちは分かります。何と言っても、坊は直系の跡取り。期待も大きいでしょう」

「ふん、そうだな」

「ですが! 早乙女の姐さんの一件もありますぜ。ここで一夏坊ちゃんを、千尋の谷に突き落とす獅子のような真似をするのはどうでしょうかね? 向こうさんも、さすがに黙っちゃあいないでしょう」

 早乙女蘭子を妻に迎えたはいいものの、長年不義理をした挙句に離縁したのはつい最近だ。

 ここで、蘭子との一粒種である一夏まで海外へと放り出しては、さすがに外聞も悪い。
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