71 / 90
真壁了、犬の生活🐕
真壁了、戦う🐕
しおりを挟む「――ああ、車はオーソンに置いたままだから、後はよろしく頼む」
聖はそこで携帯を切ると、しもべのように恭しく籠を掲げていたペットショップの店長を見遣った。
「待たせたな。で、これで必要なのは全部か?」
「はい。それと、もしよろしければ、当店ではしつけ教室なども開催しておりますので……おトイレのトレーニングも請け負いますよ。あの、御堂様さえよろしければ、直接私がお宅に伺っても……」
目をハート型にしている男性店長は、どうにかして聖と縁を持ちたい様子で食い下がる。
普通ならば、こんなことまでペットショップの店長が言い出すわけがない。
「初めて犬を飼われるのでしたら、ハウツーを直接私が伝えた方が良いと思いますが。無駄吠えの対処法もございますし」
「ずいぶん親切だな……」
――だが、確かに犬のトイレにトレーニングが必要だなんて聞いては不安が残こる聖だ。
それに、無駄吠えと言われては気にかかる。
先程から何回も、ボクサー犬とポメラニアンはケンカをするようにワンワンと吠えまくっている。
マンションは、一応ペット可だが……。
「じゃあ……」
『頼むかな』と言いかけた所で、ボクサー犬が聖の靴を鼻先でツンツンとした。そうして、ペットショップの一角へと歩き出す。
どうやら、こっちに来いと言っているようだ。
察して付いて行った聖と店長の前で、ボクサー犬は人間用トイレの扉を押して開け、そのまま開いていた個室へと入っていく。
そうしてまた器用に前足で扉を閉めると、しばらくしてトイレの水が流れる音が聞こえた。
「――どうやら、トイレトレーニングは必要ないようだな。お前はどうだ?」
聖の視線を受けたポメラニアンは、「もちろん!」というようにキャンと鳴いた。
続けて聖が、
「それじゃあ、ワンワン吠えて周囲に迷惑かけるってのは勘弁してくれるか?」
と訊ねると、これまた心得たように「くぅ~ん」と可愛らしく返事をしたのだった。
🐕
その後、本当に特に無駄吠えする事もなく、借りて来た猫のように大人しく聖のマンションまで連れてこられた仔犬たちである。
彼らには、思惑があった。
まず、あの下心ありありのペットショップの店長だ。
あんなクソ野郎を、聖のマンションまで連れ込むなど言語道断である。なので、「コイツの手を借りずとも大丈夫」だと、クギをさすつもりでまずはアピールした。
それに二人には、それぞれに目的があった。
一夏は、これを機に聖の愛情を独り占めにしたいという野望である。
人間の身では親父を始め、正直言ってライバルが多すぎる。だが、この可愛らしい姿をしたポメラニアンであれば、その目的を達成する事は可能であろう。
とにかく、聖の愛を独占したい!!
あの美しい顔も体も全部舐め回して、自分のモノにしたい!
――――その発想が、まるっきり犬の本能だということに気付かず、一夏はハァハァと荒い息を吐いていた。
そして、真壁である。
真壁もまた、これを機に聖の愛情を一身に得たいと思っていた。
なんせ、犬の姿のままならば聖のガードが緩々だ。
今まで散々夢想しながらも果たす事の出来なかったキスも、むしろ聖の方から何度もしてくれるだろう。
『おはよう』と言いながら、この真壁の顔に口付けをしてくれたら――――本当に、一生犬のままでいい。
だが、唯一無二の聖の愛玩ペットになる為には、ライバルは蹴落とさねばならない。
ボクサー犬とポメラニアンは、炎のように目をギラギラさせながら互いに睨み合った。
「ヴゥゥ~」
「グルルルル……」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

